第23話 エアコン故障につき
体育祭が終わり、代休として休みとなった月曜日。
夏凛と朝食を取った俺は昼からの猛暑に備えてエアコンを付けた。
ピッ!
「兄さん、私ちょっとサッカー部の助っ人を頼まれたので、3時間ほど学校に行ってきますね」
「大変だなぁ、この炎天下で運動だなんて……」
「マネージャーが11時に来るまでの代わりですよ。いつも通りストップウォッチとか、スポーツドリンクとかを用意するだけですよ」
「そっか、じゃあ昼には帰ってくるんだな?」
「家族ルール、可能な限り一緒にご飯をって言ったじゃないですか。昼には帰ることを条件に引き受けましたので!」
夏凛はドヤ顔で胸を張った。少しだけ"たゆん"と揺れたそれにドキッとしてまった……夏服だから余計に強調されてしまうのだ。相手が妹でも、男である俺はついつい見てしまうって。
「兄さん?」
「あ、ああ……別に忙しい時は無理しなくても良いんだぞ?」
「ふふ、わかってます! あ、兄さんは家にいるんですよね?」
「ああ、いつも通りゲーム三昧だな」
「お昼作れそうにないので買ってきてもらえますか?」
「お安いご用だ、任せとけ」
「良かった、では行ってきます!」
こうして夏凛は部活動に行った。夏凛が出て5分後、俺は比較的堪えれる朝のうちに行くことにした。
「お、黒斗じゃないか!」
コンビニに着いた俺は拓真さんに話しかけられた。この人はよくコンビニ近くにいる気がする、家もこの辺りなのだろうか。
「どうも、お久し振りです」
「あれから妹との関係は良好か?」
「そうですね、アレのお陰なのかわからないですが、最近は毎日ご飯を一緒に食べるようになりましたよ」
「そっかそっか、兄妹としてちゃんとやれてるか。……そう言えば、たまに光ったりしてないか?」
「昨日気付いたんですが、確かに光ってる時がありましたね」
拓真さんは腕を組んで少しだけ考え始めた。
ちょっと、え!? 何かあるの? そんな風にされたら不安なんだけど!?
「光ってる時、変なこと起こったと思うけど、とんでもないことは起きないから安心してくれ。あくまでも"補助"に過ぎないから気持ちを強制したりするものじゃないので大丈夫だ」
「え、どうしてそんなことを?」
「心配してると思ってな」
「逆に心配になりますよ!」
と言うことは、多分だが投書箱の中身、もしくは運営委員の目論見を縁結びの紐が補助したと言うことか。
ああ言うことはたまにで良い、だけど夏凛と一緒にいるのはなんか心地良いんだ。見た目どおり礼儀正しいし清純だ、だけど内面はドジもするし、人付き合い苦手なのに助っ人やってるし。
あの紐のお陰で色んな夏凛を知ることが出来たんだ。
「変なイベントが発生したりするけど、拓真さんがくれたあの紐が兄妹の関係を正しい道に導いてくれたんだ。感謝してます」
拓真さんは苦笑いしながら頬をかいている、多分だけどこの人の癖なんだろう。
「ハハ……感謝されるのは慣れてないんだ。
「え? 良いんですか?」
「良いよ良いよ。これくらいはさせてくれ」
こうして拓真さんの奢りで、夏凛と俺の弁当に加えてお菓子やらジュースまで買ってもらった。
「1日1回はコンビニにいるから」そう言って拓真さんは黒のスポーツカーで走り去り、俺も少し豪華な昼食を持って帰宅した。
☆☆☆
ドアを開けて家に入ると違和感に気付いた。小指の痣も少し光ってる気がする。
あれ? 帰ったら涼しいくらいに設定してたのに、全然暑いぞ……なんでだ?
リモコンを見ても設定温度は18度、しかもちゃんと"冷房"に設定されている。
「もしかして────壊れてる?」
とりあえず昼食を冷蔵庫に入れて、スマホを片手に検索で調べながら掃除したが、全然改善されなかった。
そもそも去年の9月の段階であんまり効いてない気がしてたけど、俺達は自分の部屋で過ごすことが多かったので気にしてなかった。
まさかここまでとは……。
と、その時────玄関の鍵が開く音がした。
「ただいま~、ふぅ~暑かった~!」
夏凛が帰ってきてしまったのだ。
「兄さん汗びっしょり!? エアコン付けないんですか?」
「ああ、冷房がさ……死んでるみたいなんだ。掃除したけどダメだった」
「そうですか……じゃあ兄さんの部屋で食べましょうか?」
「そうだな、この殺人的な暑さは堪えられん」
昼食を俺の部屋で食べることになったので、先にシャワーを浴びて隠すもの隠して準備した。
隠すものというのは、男なら持ってるアレのことだ。最近は電子化されてはいるが、店舗特典とかで手に入る実物も持っている。
「兄さん、叔父さんに電話して修理の人に来てもらいますね」
廊下から夏凛の声が聞こえてきた。
「ああ、助かるよ。こっちはもう準備できたからさ、終わったら来てくれ」
俺はテレビをつけてチンした弁当を並べた。もちろんお菓子やジュースも持ってきている。
多少のトラブルはあったが、夏凛とちょっとしたお菓子会と言うのも乙なものだ。
────数分後
ガチャ
段取りが終わったのか、夏凛がドアを開けて入ってきた。
「ふぅ~兄さんの部屋、涼しいですね!」
「か、夏凛!? そ、その格好──」
夏凛は白いタンクトップに黒く短いショートパンツを履いていた。タンクトップは胸の部分がパツンパツンだし、ショートパンツは長く白い脚が露になっている。しかも、シャワーで濡れた黒髪がとても艶やかだ。
「え? どこか変ですか? 」
「い、いや……その……」
無防備じゃないか? そんなことを言えばエロい目線で見てると思われかねないし、とても困る。
「──涼しそうな格好、だよな」
結局チキって超遠巻きに言ってしまった。
「はい、かなり涼しいですよ! さて、そろそろ食べましょうか!」
ま、昼の間だけだし、別に良いか。
俺と夏凛はコンビニ弁当を食べながら午前の助っ人での話しを聞いた。
「そういえば、夏凛って日焼けしてないよな」
「日焼け止めしてますし、マネージャー代行の私は日陰で応援するだけですよ」
「夏凛は色白のがいいよ、絶対」
「ありがとう兄さん、みんな小麦色にしてみたら?っていうけど、兄さんがそう言うなら今のままにしますね!」
昼食を食べ終わり、弁当の殻を片付けて夏凛とお菓子を摘まみながらテレビを観る。番組に対してあれこれ言いながら夏凛と過ごすのも悪くないな。
──2時間くらいたったころ、俺は明日の事を聞いてみた。
「業者さん、何時頃来るって?」
「昼過ぎの2時頃と聞いてます。2台も壊れるなんて、不思議ですよね。直ると良いのですが……」
「は? 2台?」
「言ってませんでした? 私の部屋も壊れてるんですよ……電源すら付きませんし……はぁ」
夏凛は落胆しながらローテーブルに突っ伏す。横に座っていた俺の目に、胸が"ぐにゅう"と潰れるのが見えてすぐに目を反らした。
ん? 待てよ? じゃあ夏凛はこの熱帯夜────どこで寝るんだ?
起き上がった夏凛は新たなポテチを開けながら、さりげなく言った。
「なので、少しの間ですがよろしくお願いしますね」
「───あ、はい」
力なく答えた俺に「ふふ、どうしたんですか?」と夏凛は微笑みかける。今まで距離があったからか、俺は夏凛にドキッとしてしまう。しかも今の格好は割と凶器的だ。
────俺、持つのだろうか?
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