第21話 体育祭、マイムマイム!

 運動場に置かれた椅子はカンカンに照り付ける太陽によって熱くなり、この上に座るのが毎年嫌になる。


 ちなみに俺の競技はもう終わっている。障害物競走は先ほどサクッと終わらせたからだ。いつも5人中、3位……毎年これくらいでそして学生最後の体育祭となる今回も同じ結果となった。


 アニメや漫画の主人公のように、最後は熱く完走なんて夢物語なんだ。そもそもそんな演出ができるならモテてるに決まってる。


 網を潜り抜け、ずだ袋でジャンプし、ハードルを飛び越え、最後にパン食って終わりだ。


 ただ、競技自体に対して今までお疲れさんって気持ちはあったけどね。友人との別れ、多分だけどこんな気分だろうか?


 そしてそんな気持ちも次の種目を報せるアナウンスで綺麗に消えた。


『次は2年生によるマイムマイムです。該当する生徒は入場ゲートに来て下さい』


 お、次は夏凛のダンスか……これはきちんと見ないとな。


 勢いのある音楽が流れ始め、生徒が入場する。毎度思うが、入場の時の音楽を選んでる人……センスいいよな。帰ったら久し振りに音楽聴いてみよって気分にさせてくれる。


 隊列を組み、中央で複数の円の形に並ぶ夏凛たち。


「確か全員で手を繋いで広がったり縮まったりするやつだよな──てッ!?冷た!」


 頬に冷たい刺激が加わって俺は驚いた。


「黒谷、何妹をガン見してんのよ。ほら、アンタの叔父さんがジュース飲みなってさ」


 城ヶ崎さんはオレンジジュースを俺に渡してきた。彼女も同じものを持っている。


「おう、サンキューな」


「どういたしまして、それよりも良かったわね。黒谷妹の両隣、白里先生と女子でさ。あれが男子だったらアンタ血涙流してたわね」


 そう言って意地悪そうに微笑む城ヶ崎さん。昼に母親から色々聞かれて地に伏してた人間とは思えない。


「いやいや、さすがにそんなことで血涙流さないよ?だって仕方ないことだろ?──仕方ないこと、なんだ……」


 ああ、想像するといい気分じゃないな。鼻の下伸ばした男が、照れながら夏凛の白く純白なとても侵しがたい手を握るなんて……せめて俺を倒してからにしろ!?っと叫びたくなる、かも?


「ごめん、想像だけでそんなに嫌な顔するなんて思わなかった」


「は?俺顔に出てた?」


「それはもう、犯罪に走りそうな顔だったわね」


「……マジか」


 そして今度は俺が頭を抱えるターンになった。去年までなんとも思わなかったのに、この小指のあざと共に俺は夏凛と徐々に話すようになった。それだけじゃない、城ヶ崎さんとも一緒に帰ったりしている。


 なんだろうな、今の俺はとても充実してる気がする。


 今までを振り返ってカタルシスを謳歌していると、城ヶ崎さんが真剣な表情で聞いてきた。


「午前のあれ、さ──いきなり抱き着いてごめんね」


 唐突に午前の話しをされて一瞬何のことかわからなかったが、すぐに社交ダンスのことだとわかった。彼女なりに思うところでもあるのだろう……だけど俺にとっては色々と役得だったので気にすることでもなかった。


「いや、全然気持ち──全然気にしてないよ。それに俺が下で良かったよ、石とかで怪我するかもしれないからさ」


「そっか……ありがとね!あ、そろそろ始まるよ?集中して見よ?」そう言って彼女は夏凛のダンスへ向き直った。



 夏凛達2年生は円の中心に向かって小さくしたり大きくしたり、楽しそうに声を上げながらダンスをしている。


 みんな息があってるしうちみたいにゴリラの竹刀じゃなくて、あの優しい白里先生が主導で教えたんだろうな。


 でもさ、あの人どう見ても大人には見えないんだよな……ぶっちゃけ同い年にしか見えない。うちの学校の七不思議の1つですな。


 ☆☆☆


 そして曲が終わり、夏凛達2年は俺達の時と同じくらいの喝采に包まれ、歓喜している。中には涙を流す生徒もいる。


 それをみていた城ヶ崎さんが、俺の隣でボソッと呟いた。


「ああいうのを見てるとさ、もっと早く前に進めば良かった、そう考えちゃうね」


「進む?」


「ううん、なんでもないよ」


 そう語る城ヶ崎さんは何かを後悔してる、そんな表情を浮かべていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る