第14話 もしかして、同じ境遇?

 夏凛は紺色のスク水自撮り画像をプロフィールの背景画像にした。その時にフレンドである俺のスマホに通知が来て焦った。


 何故なら、その画像が夏凛のクラス中に拡散してるかもしれないからだ。そしてここから推察だが、夏凛は今、何者かに捕まえられてスク水を着せられ、それをアップするように強要されてると考えた。


 電話をかけるも出ないし、城ヶ崎さんの情報網で商店街の青果店にいるところまで突き止めた俺は今全力で疾走している。


 ──プルルルルル


「クソッ!やっぱり出ない、夏凛のあの画像がクラスの男子の目に触れるなぞ──鳥肌が立つわ!!」


 1人商店街を叫びながら走っていると、黒髪で編み込みの入った女子生徒がいた。その手には買い物袋が下げられており、ドンピシャで夏凛その人だった。


 ──キキーッ!


 と夏凛の横で急停止すると風で夏凛のスカートがフワッと浮かび上がった。もちろん見えるほど浮かぶはずはなく、手で押さえてる様がどこかの令嬢っぽくて可憐だ。


「夏凛ッ!」


「わ、兄さん? 驚きました──何かご用ですか?」


「夏凛──ッ!」


「え、え!?」


 俺は夏凛を正面から抱き締めた。きっと不良に弱味を握られてるとか、そんなとこだろう。夏凛は腕の中で目を回してるようだが、今は無事を喜ぶべきだ。


 拘束を解き、夏凛の肩を掴んで引き離す。もちろん真剣に会話をするためだ。


「夏凛、乱暴されなかったか?何か、弱味でも握られたのか?」


「兄さんっ? あの、私には何がなんだかわかりません。事情を話してくれませんか?」


 頬に手を添えて俺に冷静さを促す夏凛、梅雨も明けて少し暑い日々が続くと言うのに、彼女の手は少しヒンヤリしていて結果的に俺は落ち着きを取り戻し、これまでの経緯を説明することができた。


「わ、私の水着……そんなに良かったですか?」


「ああ、スク水なのにそこいらの彫像より綺麗だ。だから簡単には見せちゃいけない」


 夏凛は顔を赤くして俺から一歩離れた。


「ありがとう──ございます。あ、でも私脅されたりしてません、そこは安心して下さい」


「え、じゃあ──?」


「せっかく兄さんとRine出来るようになったのに背景に何もなかったら幻滅しちゃうかなって思って、水泳部の先輩に相談してみたんです」


「相談?」


「兄さんの興味を引く画像について──そしたらシャワー後のスク水がいいよって言われまして」


「確かに興味は引かれたけど、その先輩違った方向でアドバイスしてるぞ! 俺じゃなくても他の男子の気を引いてしまうじゃないか」


 その言葉に夏凛は悲しげな表情を浮かべた。


「兄さんの私の印象ってどんな感じですか?」


「そりゃあ、成績優秀でクラスの人気者、社交的で完璧な優等生、かな」


 夏凛はスマホを取り出し、そして俺に画面を見せた。


「私はフレンドが兄さんしかいません。苦手な教科もありますし、成績も真ん中か少し上くらい、クラスでは近寄りがたいってみんな私を敬遠してます。なので──はぅッ!?」


 引き寄せて再度抱き締めた。


 俺は夏凛の事なにもわかってなかった。勝手なイメージを押し付けて、夏凛に気を使わせてしまった。俺のイメージが損なわないように無理させたんだ。


「ごめん、俺は夏凛を神聖視してたかも。兄として、知りたい。ゆっくりでいいから夏凛のこと教えて欲しい」


「ちょ、ちょっと! 兄さん大袈裟過ぎですっ!みんな見てますぅ!」


 我に返った俺は夏凛を離す。


「そんなに男の人を煽るような画像には見えませんが……結果的に兄さんに心配かけました。ごめんなさい」


「俺もちょっと過剰に反応しすぎた。じゃあさ、もっと普通の画像にしようぜ?」


「普通の? う~ん、あっ! 良いこと思い付きました」


「どんな画像?」


「ふふ、家についてから説明します」


 夏凛に手を引かれて急いで家に帰り、そしてリビングで待機するように言われた。


「じゃじゃ~ん! 自撮り棒!」


 夏凛は俺の横に立って自撮り棒にスマホをセットして伸ばした。


「え?画像ってまさか!」


「兄さん、ダメ?」


 上目遣いで見られると駄目とは言えず、俺も実際少し嬉しいので頷いた。


「ありがと!じゃあいきますね?──ハイ、チーズ!」


 カシャッ!


 この日、兄妹として再出発して初めての家族写真を撮った。夏凛はすぐにその画像を背景画像にして嬉しそうにしていた。


 フレンドも俺しかいなかったから拡散されずに済み、俺も少し過保護過ぎたと反省をした。


 ちなみに、スク水版背景画像をこっそり保存したのは内緒だ。


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