第15話 豪雨により、人妻美人先生と雑談

 ここ最近梅雨が明け、湿気ありきの強烈な太陽の光に、ニュースでは毎年恒例の"記録的猛暑"と言う言葉が聞こえてきた。


 天気予報では1週間晴れと聞いていた───なのに。


 ザァーーーーーー!!


 放課後、下駄箱で靴に履き替えた瞬間に豪雨が始まった。0%と思っていたので当然ながら傘は持ってきていない。


「参ったなぁ、傘持ってきてないぜ」


「え?黒谷君持ってきてないの?」


「え?」


 声の主は夏凛の担任であり2年の体育の先生である白里 泪先生だ。手元を見る限りじゃ傘を持っておらず、俺と同じく目の前で流れる豪雨を眺めている。


「先生も傘持ってきてないんですね。俺と同じ同志ってやつですか?」


「残念、お兄ちゃんがそろそろ車で迎えに来るからちょっと違うかな」


「せこっ!てか、旦那さんは?」


「まぁまぁ、そこは気にしないで!私だって最初は断ったんだけど、ほら私って今日はブラウスじゃない?だから駆け抜けるのはダメだって言われて……」


 ブラウスを大きく盛り上げたそれは、今でさえも薄い水色が垣間見えている。それが雨で濡れるとなると、張り付き、そして更に強調されることだろう。


 ぎゅぅ~~~~~っ!


「痛っ!!」


 凝視したのに気付かれたのか白里先生に頬をつねられた。銀髪、蒼い瞳の中に若干の怒りが見える。と言っても、表情は少しむくれてる程度で恐怖と言うより可愛さが勝ってる。


「欲望丸出しだね!」


「ご、ごめんなさい……」


 腰に手を当てて俺に説教しているけど、どう見ても──年上には見えない。


「女性は視線に敏感なんだから気を付けてよね!」


「あい……」


 白里先生が人気である由縁は容姿は勿論のこと、生徒に距離感を感じさせないからだ。しかも、人妻という魅惑的な面も兼ね備えている。


「夏凛ちゃんさ──」


 唐突に白里先生が語り始めた。


「最近笑うようになったよね?」


「え?そうなんですか?」


「そうだよ、しかも席の近い子と話してるのよく見るし」


「最近ってことは今まではそうじゃなかったんですか?」


「新しいクラスと言っても、2年生なら全く知らない人ばかりってあまりないよね?なのに彼女は全く打ち解けてる気配がなくて、少し心配だったんだよ?」


 夏凛、Rineのフレンドが俺しかいなかったからそう言う主義なのかと思ってた。だけど、俺達はどこかで他者と違うって見えない壁を作ってるのかもしれない。


「夏凛ちゃんって家ではどんな感じ?」


「家庭訪問の時に叔父さんから聞きませんでしたか?」


「家事はよくする、勉強も毎日する、友達とも明るく遊ぶ、全部取って付けたような理由ばかりだよね?しかも最後のは嘘だってわかるじゃない?きっと複雑なんだろうなって突っ込まなかったけど、夏凛ちゃんのお兄ちゃんなら、正しいことを聞けるかなって」


 う、痛いところを突かれた。俺の家庭訪問もゴリラが来たが、終始「がははははは!そうですな!」しか言ってなかったから乗り切れたと油断していた。


 いや、今までの先生は複雑そうと察した瞬間に踏み込んでこなかった。きっと見た目の割に白里先生は熱血タイプなのだろう。


 前に話をしたときも、妹がいることを話した瞬間に凄い食い付きだった。


 力になりたいのだろうか……。


 夏凛のことを相談できる先生が1人でもいた方がいいかもしれない。


「実は──」


 俺は大まかな家庭の事情を白里先生に話してみた。


「……そっか、複雑なんだね。じゃあこれあげる」


「これは?」


 白里先生は1枚の紙に何かを書いて渡してきた。


「私のRineのIDだよ?何かあった時に相談に乗りたいの、ダメ?」


 小首を傾げておねだりされると──折れてしまう。


「赤外線で交換すれば良かったんじゃ──」


「あれ~?君、スマホ持ってきてるかなぁ?」


「い、いえ!帰ったら登録しておきます!」


 一応は所有していても見逃されるが、校則でスマホの携帯は禁止されている。ましてや、先生が堂々とそれを破るわけにはいかないのだ。


 と、そうこうしている内に校門前に黒いスポーツカーが独特の音を鳴らしながら止まった。車から降りた人はこちらに向けて手を振っている。


「あ、お兄ちゃんだ!私、もう行くね。バイバイ!」


「あ、はい。お疲れ様です」


 カバンを傘にスポーツカーへと駆ける先生。ただ、よく目を凝らして兄らしき人を見ると……あれ?


 あの人って────拓真さんだよな?


 白里先生を乗せて走り去る拓真さん、俺は雨の音が鳴り響く玄関で唖然と立ち尽くすのだった。

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