後輩を助けたら、格闘技の練習相手になってた話。

あげもち

ラウンド1 『アオイ』とか言うウザい後輩

 それはとある放課後のこと。


 俺は帰るためにリュックに荷物を詰めていた。

 

 今日もクソだるい学校が終わった。帰りがけに漫画でも買ってこう…なんて具合で。


 すると教室がざわめいた。


 「あれ、あの子今日も来てるよ」


 「へー、あいつのカノジョ?」


 「なんかここのところ毎日屋上にいるらしいよ?」


 …。


 まじか…。


 はぁ…とため息を吐く。


 ?「桜井せーんぱい、こんにちわー」


 調子良さそうな声でクスクスと笑う。


 ?「あれー、どうしたんですか? ため息なんてついちゃって」


 桜井「…誰のせいだと思ってんだ…あ?」


 ギロリとそいつに向かって振り向く。


 周りでヒッ…と悲鳴のようなものが聞こえたけど、野次馬なんてこの際気にしない。


 だけどそいつは、にこりと微笑む。


 ?「えー、誰のせいなんですか〜? アオイ、わからないですー」


 首を可愛げに傾けて、にこりと笑う。


 薄茶色のポニーテールを揺らした。


 俺  「お前のせいだ、お前の!」


 アオイ「あははは! 先輩顔こわーい」


 俺の頭の中で何かがぶつりと切れる。


 かわいい顔しやがって、口を開けば先輩を煽り散らかすクソ悪魔め…。


 握り拳が自然と震えた。


 アオイ「それで先輩、今日も屋上来てくれますよね?」


 桜井 「誰が行くかっての、帰るんだよ俺は」


 へぇー。と声を一つ下げる。にこりと嫌な笑みを見せた。


 アオイ「なんでですか!?」


 声をわざと荒げて周りの注目を集める。


 だけど、それに気づいた時には、こいつの術中にはまっていたのだ。


 アオイ「昨日だってあんなに激しく(スパーリング)したじゃないですか!?」


 桜井 「ぶぅっー! お前言い方考えろっ!」


 その瞬間、蔑みと軽蔑とそのマシマシの視線が俺に降り注ぐ。


 「え、あいつ後輩襲ったの?」

 

 「しかも屋上で?」


 あぁ、やばい…やばいやばいやばいやばい!


 間違いない、完璧に今ので誤解されたのだろう。


 アオイはクスクスと笑っていた。


 そして、一気に表情を変える。まるで儚い乙女を演出するように。


 アオイ「…あ、すみません…私…自分のことしか考えてなかったです。そう…ですよね、先輩もあんなにいっぱい(ジャブを)出したら疲れちゃいますよね?」


 「え、やばっ、」


 教室の隅でそんな声が聞こえた。


 俺  「あぁぁぁぁー! 分かった、分かったから! 屋上行くから! だからその言い方やめろー!」


 アオイ「え、来てくれるんですか!? 嬉しい…それじゃ屋上で待ってますね!」


 嬉しそうに、教室を出て行くアオイ、だけど一瞬振り返ったアイツの笑みは、悪魔そのものだった。


 ?「ねぇ、桜井」


 肩をびくりと震わせ、そちらへ目を向ける。


 リア充グループの女子、佐藤さとうが腕を組みながら俺を見下ろす。


 金髪ショートの奥から、ギロリと俺を睨んだ。


 佐藤「…あんたサイテー」


 俺 「いや待て、まじで違うから!」


 だけどそんなのも聞かずに、顔をぷいと背けて歩き出す。


 俺は机に頭を垂らした。


 俺 「…本当に違うんだよ…誤解なんだって…」


 はぁ、とため息をつく。


 さいあくだ…あの時、アイツを助けてなければ…。


 今なら自信を持って言える。


 俺の人生を劇的に悲劇にしたのは、間違いなくあの時だ。


 


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る