人格

双葉使用

久弓 実祈の人格

弱冠500歳の悪魔。魔界は幾多の次元に隣接した多角形なので、500はとても若い。魔界の深部には、そこいらの次元よりも永く生きているものも居る。悪魔内の等級では小悪魔。これは最下位の位置付けであり、雑用や肉壁、鬱憤晴らし等に使われる存在である。どうやって昇級するかと言うと、自分で名乗って文句のあるやつを全て叩きのめせば良い。基本的に、強大な悪魔は100いても吹き飛ばせる小悪魔なんかには興味がないので、100年から1000年で抜け出せる。身長はそこそこ大きくて、でも並んでも抜きん出ていない程度。もっと老成すれば大抵高身長でピシッとなるのだろうが、悪魔として生活していないので成長するか怪しい。人間とは違い、放っておくだけで伸びたりはしないから。あと胸がでかい。


本来実祈は人間で、とある世界の寒村に産まれた小さな少女だった。生まれつき体も小さく、両親はその小さな手のひらを必死に開いて動かす様に新芽を重ね、その実りを祈ったほどである。しかしながら、彼女の兄がたまたまアルビノに産まれて、たまたま不思議な力を持っていた。

実祈が2歳になってすぐ、家を守っていた両親が事故でこの世を去った。そして、兄のことを恐怖におもった村人たちが、家を襲った。

灰や煙は兄にとって手足も同然の存在だったので、夜、真っ暗な中、大人たちは鉄の杖で武装して現れた。

手違いからか、妹だからか、狙いもあやふやなリンチが体を襲った。暗闇の中、骨が砕けて肉が裂けたまま放置された。素人どもは、きっちりと殺すことが出来なかった。緩やかに血が流れて行き、そして一度死んだ。

そして天界へと至った実祈。たまたま目にとまり、あまりにもかわいそうだと考えた者の手により、異例の速度でもう一度人間界へと降りれる事となった。だが、このまま魂として母胎に宿ってしまえば全てがリセットされるはずのところで邪魔が入った。

たまたま死亡当時近くに居た悪魔に再び見つかってしまったのだ。その人間の悪意にまみれた数奇な運命を気に入った悪魔は実祈の魂を奪い、魔界へと連れ去った。そのまま実祈を小悪魔として受肉させ、能力のもととなるものを授けた。それは乳飲み子のように本人の精神を浴びて成長し、開花した。その能力は、「相手のサポートを完璧に行う」能力。サポートをするかどうかは自由だが、サポートをするために必要なすべての情報を問答無用で収集できる能力だった。心の動きも、組み立てた戦法も、能力の仔細すらも網羅する能力に、他の悪魔どもは恐れた。近寄りすらしなかった。実力主義の世界で、自らの能力を知られる、というのは絶対に避けなくてはならないからだ。連れ去った張本人ですら、忌み嫌った。

一方的な相棒関係を無理やりとることの出来る力だった。


実祈は2歳の人間で、小さな女の子だ。金髪金目の見目麗しく成熟した肉体に受肉したものの、中身は変わらなかった。むしろ精神の影響で肉体が縮んだりもした。そんな彼女は、見知らぬ世界で、ひとりぼっちにされた。出会う人全てに敵意を向けられた。それも全てわかってしまった。寂しく、まさに絶望だった。そんなとき、一人の小悪魔に出会った。彼女も同じ理由で忌み嫌われていた。彼女の能力は「相手と同じになる」能力だった。姿、形、そして能力。全てを模倣する能力。

実祈は、彼女から魔界のことを学んだ。彼女は、実祈の妹になることを望んだ。二人は仲良く過ごした。

ある日、実祈の体に異変が起きた。透けているのだ。どうやら、人間界に喚び出されているようだった。実祈の魂を持ち込んだ悪魔が、厄介払いをしたのだろう。大元の悪魔が「行け」と言うことに、眷族であり小悪魔である実祈は逆らえない。別の悪魔の氏族である小悪魔の彼女とは、別れなくてはいけなかった。

喚び出された先では、戦争が行われていた。戦場に散らばる血と肉と魂を全て捧げるかわりに、我々のために戦え。という契約だった。おいしい話だった。悪魔の原動力はそういったものであるから、たくさんの悪魔がそこに居た。一方的に蹂躙せず、ひどく泥沼になるように、と考えた悪魔たちが送り込んだ小悪魔がほとんどだった。つまり、弱くて、頭が悪く、寄せ集める以外に使い道のないやつら。

そこはとてもひどかった。心が読める実祈からしたら、地獄より地獄だった。新たな出会いがなければ、きっとそこで果てていただろう。心が折れ曲がり、死体と共に寝そべったまま、霧散していただろう。実祈は、重火器を扱う能力の小悪魔に出会った。彼女は戦いが嫌いだった。銃も、この能力も、飾られてしかるべきだと考えていた。しかし、平穏を得るためには戦わざるを得ないと冷静に理解していた。そして、賢かった。実祈は、彼女の考えに共感し、かつ庇護を求めた。彼女はそれを受け入れた。

悪魔たちは友軍を攻撃できないという縛りがあり、それは同じ悪魔にも有効だった。誤射も含めたその行為は、不利益が生じるから、という理由で行えなかった。しかし例外があった。昇級するための挑戦だ。彼女は挑戦状を叩きつけた。昇級すればその分取り分が増えるし、強くなれるので、頭の悪い悪魔どもは怒った。当然反対をした。しかし、実祈と組んだ彼女には勝てなかった。実祈の能力は、実祈に全てを委ねる覚悟さえあればとても強力な援護となった。数多の悪魔の小間使いどもを殺し、力を奪った彼女。八千万の人間の魂と、幾百の小悪魔の力を、彼女は得た。そして、そのまま実祈に託した。実祈と戦い、自死という方法で明け渡した。彼女の狙いは、魔界の混乱だった。地上から悪魔の介入が消えて戦禍は収まり、ほとんどを上前としてはねられてもなお残る力と、喚び戻されないですんだことによる自由を手に入れた。どうしたらいいのかわからないが、死んであそこに戻っても怒られそうで、手放された風船のように人間界を漂った。

しばらくして、生き延びていた兄と出会った。剣士となり、ある人物の軍門に下り実祈を探していた兄と。1200年ぶりに出会った男と、400年ぶりに思い出したたった二年間。それと、再会のハグをもって、彼女の辛く苦しい運命は救われた。


その後、魔界から妹を召喚し、大団円を迎えたのだった。今では兄と同じ組織に所属し、メイドをしている。自分の能力についてもとても前向きになった。組織の能力研究データに基づき、能力に名前をつけ決まった姿を持たせる訓練を行ったことにより、ある程度の制御を効かせることが出来るようになった。

能力名は「トラウマ」。モノクルのようなレンズ製の装飾品を模している。

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