変わりゆく世界の傍らで

立川マナ

プロローグ

 また夏が来た。

 東北大の医学部に入る、と宣言して青森の実家を出、仙台駅近くの医大・医学部専門の予備校に通いだしたのが三年半前。一番前の席で目をギラギラとさせ、ホワイトボードを睨みつけていたのはもはや遠い昔のよう。いつからか気を遣わなくなった髪は綿菓子みたいに膨れ上がり、高校時代、親戚のおばちゃんたちに賢そうだともてはやされた切れ長の目は鋭さを失って、ずらりと並ぶ四十人ほどの浪人生の背中を他人事のように後ろから眺めるだけの節穴に成り下がった。

 いつになったら、ここから出られる? そんな漠然とした不安を抱えて、窓から見える世界に思いを馳せていた。

 四季が巡り、人々がせわしなく道を行き交い、世界は目まぐるしく変わっていく。その傍らで、自分だけ取り残されているような焦りと孤独に襲われていた。デジャヴかと思うほどに繰り返される日々。出口のない迷路に迷い込んでしまったようだった。そんな夏の夕暮れ、俺は一人の日本兵に出会った。

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