第115話 初恋の人達が気になって仕方がない

 次の日……


 俺はアルバイトの日であるが、朝から落ち着かなかった。


 アルバイト先の遊園地、『エキサイトランド』とは目と鼻の先にある『エキサイトホテル』では『つねちゃん』達のお見合いが行われ、そして『エキサイトランド内』では三田さんがいつ佐々木に告白するのかということが気になり、気が気でない状態だ。


「はぁ……」


「あら、朝から元気が無いわね? 私がもうすぐアルバイトを辞めることで凹んでいるのならとても嬉しいんだけど……」


 大塚が笑顔でそう言ってきた。


「えっ? ああ、そっ、そうなんだよ。やっぱ、大塚がバイトを辞めるのは残念だよなぁ……」


「フフフ……五十鈴君の嘘つき!! 全然、気にしていないというか、私が辞める事、忘れていたでしょ?」


 めちゃくちゃバレてるじゃないか!!


「いっ、いや、忘れてなんかいないよ……今日も引き留めようかなって思っていたところだから……」


「まぁ、そういう事にしておいてあげるわ。それにしてもマーコ、遅いわね?」


「そういえば、そうだね……ケンチや北川はもうとっくに来てるのに……どうしたんだろう……?」


 昨日、俺に気を遣って勉強会の途中で帰ってしまったけど、あれから何かあったんだろうか……


「あれ~おかしいなぁ……?」


 事務所から首を傾げた状態で根津さんが出てくる。


「根津さん、どうされました?」


「いやねぇ……三田君がまだ来てないんだよ。いつもならとっくに来ているんだけどねぇ……寝坊ならまだいいんだけど、体調を崩したりしてなきゃいいんだけどさぁ……」



 昼になっても二人から連絡は無く、俺達は二人少ない状態で仕事をしている。


「今日はあまりお客さんが多くなくて助かっているけど、いつもの様な感じだったら『急流すべり組』から応援もらわないと厳しかったかもね?」


「そ、そうだなぁ……」


 俺は佐々木や三田さんのことも気になるが、もうすぐ始まる『つねちゃん』のお見合いの方も気になっていた。


「お兄ちゃん? 乗り物券、一枚多く取ってるよ」


「えっ? ああ、ゴメンね……」


 俺は大塚の仕事の応援で乗り物券を受け取る作業をしていたが、仕事に集中出来ずミスを繰り返していた。


 そんな俺に西野さんも呆れてしまい『こっちの応援は、もういいから、根津君の手伝いをしてくれないか』と言われてしまった。


「五十鈴君、悪いねぇ……三田君がいないから今日は一人二役、三役させてしまってさ……大変だろうけど、あと数時間、頑張ってちょうだいね?」


 根津さんは俺に気遣いの言葉をかけてくれる。


「す、すみません……今日は仕事に全然集中できていなくて何か申し訳ないです……」


「ハハハ、そんな日だってあるさ。気にしない、気にしない」


 今頃、『つねちゃん』は『あの男』と会っているんだよなぁ……


 絶対に『あの男』とは結婚しないって言ってたけど……

 本当に大丈夫なんだろうか……


 たしか、あの『山本次郎』って男は『前の世界』では新婚当初はとても優しかったと聞いている。豹変したのは数年後に、お酒の量が増えてきてからだったと……


 そして『つねちゃん』に対して暴言が増え、しばらくすると暴力も振るう様になり挙句の果てには『飲酒運転』及び『ひき逃げ殺人事件』……


 当の本人は獄中で病死、残された『つねちゃん』は亡くなった女性の娘さんに罪滅ぼしの為に一生をかけて償いをしたんだ……


 『この世界』の『つねちゃん』には絶対にそんな悲しく辛い思いをさせたくない。

 『前の世界』の分も俺が『つねちゃん』を幸せにするんだと心に誓い、今も頑張っているんだ……


 どうかお願いだ。


 いくら今日会う『あの男』がとても優しくて良い人に見えたとしても『つねちゃん』に気の迷いを起こさせないでくれ!! お願いだ!!




 【エキサイトホテル内のレストラン】



「は、初めまして!! 山本次郎と申します。本日は僕に会ってくださり有難うございます!! とても感激しております!!」


「初めまして……常谷香織と申します。こちらこそ今日は宜しくお願い致します……」


「写真での常谷さんもお綺麗でしたが、本物は更にお綺麗過ぎて……さっきから僕の心臓がドキドキしてまして、呼吸するのが苦しいくらいです……」


「フフフ……そんな大袈裟な……私は綺麗じゃありませんよ。それに山本さんはまだ二十代でお若いですが、私はもうおばさんですし……」


「そっ、そんなことないですよ!! 常谷さんはめちゃくちゃお綺麗ですし、おばさんでもありません!! 僕より五歳上だなんて全然思えないくらいお若いですし……」


「止めてください、山本さん……私、褒められ慣れていませんからどういう態度をとれば良いのか全然分かりませんので……」


「そうなんですか? 常谷さんを褒めない人の方が僕はおかしいと思うのですが……それと……それと常谷さんは年下の男性はお嫌ですか……?」


「えっ、年下の男の子ですか?」


「い、いや、男の子っていうのは違うかもしれませんが……年下の男性です」


「はぁ……まぁ、嫌というわけではありませんが……」


「そうなんですか!? 良かった~っ!! ホッとしましたよ。まずはそこをクリアしないと僕としても常谷さんにアタックする資格すらありませんからね。ハッハッハッハ!!」


「あのぉ……私、しばらくは……」


「常谷さん!! いや、香織さん!! 僕と結婚前提にお付き合いして頂けないでしょうか!?」


 ズキンッ


「うっ……」


「ど、どうされました、香織さん!?」


「す、すみません……少し頭痛が……」





 三時頃に三田さんからようやく事務所に『体調不良』という連絡があり、そしてその三十分後に佐々木からも『風邪を引いた』という連絡があったみたいだ。


 あまりにも偶然過ぎる二人の欠勤に違和感を感じる俺であったが、それよりも『つねちゃん』のお見合いの結果の方が気になっていたので俺はバイトが終わると皆に簡単な挨拶をしてから急いで自転車置き場に走って行った。


 早く家に帰って『つねちゃん』に電話をしたいという思いから俺は自転車のペダルを思いっきりこいでいた。


 キキーッ


 帰り道に若者がよく集まる街中を通るのだが、俺は思わず急ブレーキをかけてしまう。


 遠くの方で見覚えのある男女が手を繋いで歩いているのが見えたのだ。


 その男女はどこからどう見ても、


 佐々木と三田さんであった……

 



――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


隆にとって落ち着かない日になったが、バイトの帰り道に衝撃的な光景を目にしてしまう。


果たして隆はどういった行動をとるのか?


どうぞ次回もお楽しみに。

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