第112話 初恋の人のお陰で目標が

「俺がマーコと付き合っても、五十鈴君には何も問題は無いんだよね?」


 う、うーん……


 ん?


 はっ!!


 ゆ……夢か? いや違う……

 夢だけど、これは昨日、三田さんが言ってた言葉だ。


 現実なんだ。


 俺は昨晩はそれが気になって眠れなかった。

 『前の世界』でも同じ経験をしているのにもかかわらずだ……

 

 そして俺は授業中に眠ってしまっていたみたいだ。


「五十鈴ちゃん、どうしたの? 授業中に居眠りなんて珍しいわね?」


 隣の席の佐々木が心配そうな表情で聞いてきた。


「い……いや、大丈夫だよ……昨日、バイトから帰ってから深夜までテレビを観てたからさ……寝不足なんだよ……」


「ふーん、そうなんだぁ……でも夜更かしは体によくないから気を付けないと……」


「そうだな、気をつけるよ。有難う……」


「フフ、素直でよろしい……」


「うっ……」


 俺は佐々木の笑顔にドキッとしてしまった。

 そしてこんなにも可愛い佐々木が『女たらし』で有名な三田さんと付き合うだなんて……


 そう考えると俺は落ち込んでしまう。

 いや、『この世界』の俺が落ち込むというのは本当はおかしいのだが……


 しかし俺としてはどうしても許せなかったというか、やるせなく思っていたことがある。


 それは『前の世界』で佐々木は三田さんと付き合いだしてから更に勉強をやらなくなり、学校もよく休むようになったのだ。


 勿論、テストの結果は散々で複数の教科の単位を落とし、三学期途中で留年がほぼ確定……佐々木の心の中で『高校中退』を決断させてしまい、最終的には『修学旅行』後に突然、学校を去ってしまった。


 佐々木が三田さんと付き合いさえしなかったら……

 あの時、三田さんに『俺も佐々木が好きだから告白しないでくれ』と言っていれば……


 俺は悔やんでも悔やみきれなかった。


 前にも説明したが、その後の俺は後悔の念と佐々木の中退のショックで心に大きな穴が空いた感じになり、何もやる気が起こらない日が続く。


 三年生になっても佐々木のことをなかなか忘れることが出来ずにいた。


 しかし、三年生で再び同じクラスになった大塚や羽田達との付き合いの中で、徐々に元気を取り戻し、遅れていた勉強も少しずつ追いつく事ができ、俺としては『楽しい高校生活』と思える形で、どうにかこうにか卒業をする事ができたのだ。


 卒業してから数年後、偶然にも町で会った大塚から教えてもらったことだが、『前の世界』の佐々木と三田さんは付き合って一年くらいで別れたらしい。


 そういう経緯があり、佐々木には出来ることなら三田さんと付き合う事で『高校生活』を棒に振って欲しくないという思いと、どうせ直ぐ別れるなら付き合わなくてもいいじゃないか? という思いが湧いてきているのだ。




 休み時間となり俺は恐る恐る佐々木に問いかける。


「マーコ、そ、そういえばさ……」


「何、五十鈴ちゃん?」


「昨日さ、三田さんからマーコに何か言ってきたかい?」


「えっ、別に何も言われてないけど、何かあるの?」


「いっ、いや、何もないよ……マーコは気にしなくてもいいよ……」


 俺は胸を撫で下ろした。

 とりあえず、次の日曜日までは進展が無いことは保証された。


 あの三田さんが、わざわざ佐々木の家電に電話するとは思えない。


 自分勝手ではあるが、『この時代』に携帯電話が無いことをつくづく感謝している俺がいた。


「えーっ!? 気にし無くても良いって言われたら逆にめちゃくちゃ気になるじゃん!! 教えてよ、五十鈴ちゃん!?」


 佐々木が頬を膨らませながら俺に詰め寄って来る仕草は本当に可愛いと思う。つい俺の表情が緩んでしまう……


「五十鈴ちゃんは何でニヤニヤしているのよ? 私は怒ってるのにさ……」


「ハハハ、ゴメン、ゴメン……」



 その日の夜……


 俺はベッドに横たわり、ここ最近のことを振り返っていた。


 まず奏は高山のことが好きで、高山もまんざらでもない。

 ただ北川が高山の事を意識している。これは先で厄介なことにならないことを願いたい。


 次に水井は上野と付き合いだした。

 これは俺にとって良いニュースだ。


 それから大塚がバイトを今月いっぱいで辞めると言っている。

 これは俺にとっては衝撃だった。それに何か意味深なことを言ってたしな。


 そして遂に三田さんが動き出した。でもまだ佐々木には告白していない。

 今後、俺はどう動くべきか……


 せっかく『この世界』の佐々木は『つねちゃん』のお陰で将来『幼稚園の先生』になるという目標を持って勉強を頑張っているんだ。


 三田さんと付き合うのを今の俺が……『つねちゃん』と結婚しようと思っている俺が阻止する権利はない。


 でも何とか佐々木が高校を中退することだけは阻止したいと強く思ってしまう。



 リリリリ―ン リリリリ―ン


 ん? 電話だ。まぁ、母さんが出るだろう。


「はい、五十鈴です。えっ? ああ、はいはい、いつも隆がお世話になっています。ちょっと待ってくださいね? 今、呼んできますから!! って、ワーッ!? ビックリするじゃない、隆!!」


 母さんの声が大きくて電話の相手が俺に用事があることが直ぐに分かったので俺は母さんの後ろで待っていた。


「で、誰なの? つねちゃん?」


「うううん、違うわよ。弟さん、常谷先生の弟さんから電話よ」


「えっ、昇さんから? 一体なんだろ?」


 俺は母さんから受話器を受け取り話し出す。


「もしもし、電話変わりました。昇さんから電話って珍しいというか初めてじゃないですか?」


「隆君、夜分にゴメンね? でも、どうしても隆君に早く伝えたい事があってさ!!」


「えっ、早く伝えたい事? 一体何ですか?」


「実はね……」



「えーっ、つねちゃんが!?」


 頭を悩ます問題が多くなっている俺に新たな問題が追加されてしまった。



「つねちゃんが、お見合い……」




――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


次から次へと悩み事が増えていく隆

しかし更にその悩みが増えていくことに!?


どうぞ次回もお楽しみに。

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