第99話 初恋の人が来た!?

 次の日の月曜日の朝、俺はとても憂鬱だった。


 勿論、昨日のバイトでの出来事が憂鬱になる原因なのだが、奏と高山の事が一番の原因ではない。

 

 どちらかと言えば、最後に佐々木から言われた言葉が一番の原因になっている……


 『年上好きの五十鈴君』……そして『真逆コンビ』……


 いくら『この世界』の佐々木に対して『恋愛感情』が無いとしても、さすがに『前の世界で、めちゃくちゃ好きだった人』にそう言われると凹んでしまう。


 俺は『同い年』の佐々木のことがずっと好きだったんだ。と本人の目の前で叫びたいくらいだ。

 

まぁ、さすがにそんなことは口が裂けても言えないから余計に憂鬱になっているのだが……


 そして俺は一時限目が始まるまで寝不足のフリをしながら腕で顔を隠し机の上に顔を置き寝たふりをしている。


 今日は誰とも話したくない気分だ。と思いながら目を閉じていると耳元で俺の名前を呼ぶ声がする。


「五十鈴君……?」


 その声は未だにドキッとしてしまう声、佐々木真由子の声だった。


「あっ? お、おはよう……どうしたの?」


 佐々木はとても申し訳なさそうな表情をしながら頭を下げてきた。


「昨日はゴメンね……」


「えっ、何の事??」


 

「昨日、五十鈴君達を『真逆コンビ』って言いながらバカにしたこと……本当にゴメンなさい!!」


 まさか、佐々木が謝ってくるとは考えもしていなかった俺は慌てて立ち上がった。


「いっ、いや大丈夫だよ。全然、気にして無いから……」


 ついさっきまで気にしまくっていた俺のセリフとは思えないが、佐々木がその事を謝ってきたことで憂鬱な気持ちは完全に吹っ飛んでいた。


「ほんとに? ほんとに五十鈴君、気にして無いの?」


 少し不安そうな表情をしながら聞いてくる佐々木の顔はとても可愛らしく思えた。


「あぁ、大丈夫だよ。うん、全然大丈夫だから。佐々木は何も気にし無くていいから」


「よ、良かったぁぁ……私が言ったことで五十鈴君が怒っていたらどうしようと思ってたんだ。本当に良かったよぉぉ……」


 不安そうな表情から一変して満面の笑顔へと変化した佐々木は更に可愛く思えた。


 いかんいかん!!


 俺はついつい出てしまう佐々木への『感情』を押し殺した。

 

 さっき佐々木に対して『恋愛感情』は無いと言ったばかりなのに、本当に俺は情けない男だ……このままでは『つねちゃん』にプロポーズする資格が無くなってしまう。


 気を引き締めなくては……これからはあまり佐々木とは会話をしない方がいいよな。と思う俺であったが、佐々木はそんな俺の気持ちなど知る由も無く話しかけてくる。


「ところで昨日は家に帰ってから妹さんとお話はしたの?」


「えっ? いや、それがさぁ……奏の奴、なんだか俺を避けてる様な気がしたんだよ……今朝も俺が家を出る寸前に起きて来たし……」


「まぁ仕方が無いかもね。お兄ちゃんに色々知られて恥ずかしいんじゃないかな?」


「かもしれないよな……でも、兄としてなんだか複雑な気持ちだし、寂しいよなぁ……って佐々木の前でこんな情けないこと言ってしまって恥ずかしいなぁ……」


 俺が頭を掻きながらそう言うと佐々木はクスッと笑い


「全然、情けなく無いよ。その逆だよ。私にもお兄ちゃんいるけど、私のことなんか眼中に無い人だし……でも五十鈴君は妹さん思いで優しいしとても良いお兄ちゃんだよ。私はそんな五十鈴君……好きだなぁ……」


「へっ?」


「あっ! 今のは忘れて!! わっ、私そろそろ教室に戻るわ!! それじゃまたね!?」」


 佐々木は顔を真っ赤にしながら慌てて自分の教室へと戻って行くのであった。


 俺は佐々木の言った最後の言葉が頭の中でグルグルと回転している。


 『私はそんな五十鈴君、好きだなぁ』


 だ、ダメだ!! 佐々木はマジで『最強の試練の人』だっ!!

 

 『前の世界』で一番好きだった女性、それもまだ十五歳の女の子の言葉に中身が『アラフィフ』の俺がこんなにも動揺してしまうなんて……


 それも心のどこかで喜んでいる俺がいるなんて……『つねちゃん』に合わせる顔がないじゃないか。佐々木と会う回数を減らす為にもバイトを辞めるべきかと一瞬考えてしまう俺であった。



「おはよう、『真逆コンビ』の片割れさん!!」


 俺の動揺を一瞬でかき消してくれたのは大塚だった。


「なっ、何だよ大塚!? 朝から失礼な奴だなっ!?」


「ハハハッ!! 本当のことなんだから別にいいじゃん。それにこの名付け親はマーコなんだし……文句ならマーコに言えば!?」


「べ、別に佐々木に文句なんて言うことないし……」


「あれ~? なんだか私とマーコとの扱いが全然違うんですけど!? さっきまで二人で仲良くお話してたしねぇ?」


 今日はやけに俺に絡んでくるよな? と思いながらも大塚に言い返す。


「なんだよ、見てたのかよ? なんだかイヤラシイ奴だなぁ大塚……」


「いっ、イヤラシクないし!! たまたま見てただけだし!! フン、五十鈴君のバカッ!!」


 大塚はそう言うとプンプンしながら自分の席に向かって行った。


 俺は『今のは何だったんだ?』と不思議に思いながら自分の席に座る。


 すると後ろの席の入谷が俺の背中を突いて来たので振り向くと、何とも言えない、どちらかと言えば俺を憐れむ様な表情でこう言った。


「五十鈴……お前も大変だな……? まぁ、頑張れよ……」


「ん? なんのことかよく分からないけど……とりあえず有難う……」


「いえいえ、なんのなんの……」


 入谷がよく分からない笑顔で答えてくるのであった。




 【次の日曜日】


 今日も晴天の中、アルバイトをしている俺達……


 俺は操縦室の中で根津さんと一緒にいる。


 操縦室の前では乗り物がお客さんを乗せて回転中だ。


 前回転が終わりかけ次にバック回転をするという時に根津さんが何気に外の方を見たが、何かに気付いたらしくソレをジッと見ている。


 俺は慌てて根津さんに「そろそろバック回転のアナウンスをしなくちゃいけないんじゃないですか?」と声をかけると慌てて津山さんはいつもよりも大きな声でアナウンスをするのであった。


「次は~バックで周りますよ~~~っ!!」


 俺は根津さんジッと見ていたものが何なのか気になり、見て見ると、『ハリケーン・エキスプレス』の前で乳母車を押しながら歩いている若い夫婦がいたが、どうもその夫婦もこちらの方を見ているみたいだった。


 俺はその若い夫婦を目を凝らしてジッと見ていたが向こうが俺に気付いたらしく大きく手を振っている。


 俺は操縦室から出て少しだけ近づきようやく若い夫婦が誰なのかが分かった。


「あっ!? 昇さん達だっ!!」


 俺が驚いた数秒後、俺は更に驚いた。

 二人の後ろには佐々木と一番遭遇して欲しくない人もいたからだ。



「つっ、つねちゃん!!??」



――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


隆に対しての佐々木と大塚の態度が何気に微妙で困惑する隆。

そして奏が同じ高校を目指していると知り、更に複雑な気持ちに……


そして遂に隆が一番恐れていた『初恋の人』と『一番好きだった人』との遭遇が……


どうぞ次回もお楽しみに。


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