第72話 初恋の人と仲間達

 俺は病室の前で『つねちゃん』を待っていた。


 そして数分後、『つねちゃん』が神妙な表情をしながら病室から出て来たが、俺はあえて話の内容は聞かなかった。


 石田が『つねちゃん』と二人きりで話したかった内容を俺が聞き出すのは失礼だと思ったからだ。それに、これは俺の勝手な予想だがいずれ時期が来たら『つねちゃん』から教えてくれるんじゃないかとも思っている。


 だから俺は『つねちゃん』に違う話をした。


「つねちゃん……俺明日、皆に石田の病気の事を言うよ……」


「そ、そうね。先生もその方が良いと思うわ……」


「それでさ、俺から皆に二つの提案をしようと思うんだけど、つねちゃんも聞いてくれるかな?」


「えっ? ええ、いいわよ。隆君の提案を聞かせてちょうだい」


 俺は『つねちゃん』に提案の内容を説明した。

 すると、『つねちゃん』は


「隆君、それ良いと思うわ!! さすが隆君だね。そういう事なら先生も協力させてもらうから!!」


「石田、喜んでくれるかなぁ?」


「勿論!! きっと浩美ちゃんも喜んでくれるわ!!」



 そんな会話をした俺達は病院の前で別れた。

 俺達は色々な思いを胸に込め、それぞれの家に帰るのだった。



 

 翌日、俺は石田と親しかった友人達に病気の事を話した。


 皆、突然、舞い降りてきた衝撃的な事実に驚きを隠せないでいた。

 特に稲田、川田、岸本そして寿の四人は身体を震わせながら号泣している。


 その中でも寿は「せっかく仲直りが出来てこれから小学生の頃の様に一緒に遊びに行こうと思っていたのに……な、なんで今なの……」と言いながら泣き崩れている。


 その泣き崩れている寿を必死で励ましている山田がとても頼もしく、そして有難く思えた。


「でっ、でもさっ、治る可能性だってあるんだろ!? それなら俺達が落ち込んでいる場合じゃ無いじゃないか!?」


 日頃、軽いノリの高山がいつになく真剣な表情をしながら大きな声で言った。


「そ、そうだよな……俺達が落ち込んでいる場合じゃ無いよな。石田の為に俺達が何かできる事があるんじゃないのか!?」


 日頃、嫌味ばかり言っている森重までが男らしい言葉を放つ。


 そして俺がみんなに提案をする。


「どうだろう? これから俺達ローテンションで毎日誰かが、石田のお見舞いに行かないか?」


「うん、それいい!! 私、五十鈴君の案に賛成!! ねっ、川ちゃん、きしもっ?」


 稲田が俺の案に賛成してくれて川田や岸本に同意を求めてくれた。


「うん、そうね。そうしましょう……」

「浩美が嫌になるくらい、毎日、顔を出してやりましょうよ!!」

「どうやってローテーション決めようか?」


 さっきまで泣いていた三人は冷静さを取り戻し、少し笑顔で話し合い出した。


 そしてずっと黙っていた大石が俺に質問をしてくる。


「でさぁ隆、お見舞いはいつまで行くんだよ?」


「勿論、石田の病気が治って退院するまでに決まっているじゃないか!!」


 俺が大石にそう言うと村瀬が少し遠慮した感じで話し出す。


「で、でもさ……俺達、最後の大会が控えているしさ……」


「だからローテーションでお見舞いに行くんだよ。それに俺は練習を休むつもりなんて全然無いよ。いや、俺達だな。それに俺達『卓球部』以外でも特に最後の大会を控えている人達は部活も頑張って欲しいんだ!!」


 俺の言葉に対して寿が泣きながら聞いてくる。


「グスン、そ……それはどういう事? ……グスン……」


「最後の大会で『良い成績』を残すんだよ。そしてその『良い成績』を石田にプレゼントするんだ!!」


 俺がそう言うと『最後の大会』を控えているメンバーの目の色が変わった。


 そして温厚な村瀬が少し興奮気味に宣言する。


「俺、今度の大会(団体戦)では一回も負けないよ!!」


「おっ、俺だって!!」


 森重も負けずに宣言しだした。


「それじゃぁ私もテニスの練習をもっと頑張らなくっちゃね……エヘッ……」


 涙を拭いながら笑顔を取り戻した寿もやる気を見せた。


「私、個人戦でベスト8以上を目指そっかな?」


 そう言うのは『あの稲田』だ。日頃ポワーンとしている稲田だが、テニスラケットを持つと人が変わるらしい。俺は稲田が本気でテニスをしているところを観た事が無いので一度観てみたいものだ……


 あと、川田は石田と同じ『バレーボール部』なので石田の分まで頑張って上位を目指すと宣言していたし、他の皆もそれぞれの目標を口にだしていた。


 すると……


「えーっ!? 私、どうしよう!?」


「どうしたの、きしも?」


「何があったんだ、岸本?」


 稲田と俺が岸本に問いかけると岸本はとても困った表情で答える。


「わ……私『演劇部』でしょ? でも演劇のコンクールは夏じゃなくて秋にあるのよ!! だから私だけ浩美に『良い成績』のプレゼントが出来ないじゃないって思ってさ……」


 何だ、そんな事か。一体、何事かと思ったぞ。と俺が思っていると森重が岸本にこう言った。


「別に岸本は秋で良いじゃないか。全員が夏にプレゼントする必要は無いと俺は思うけどな!! それに秋にも石田に『良い成績』をプレゼント出来た方がもっと元気になるんじゃないのか!?」


 森重のクセにこいつ良い事言うじゃないかと俺は感心した。

 『前の世界』での森重はとてもそんな気の利いた事を言える奴じゃなかったから俺は余計に感心してしまったのだ。


「そ、そうね……言われてみればそうかもね。それに秋は『演劇部』だけが『良い成績』を残したら浩美にも強い印象が残るだろうしね……」


 焦っていた岸本も落ち着きを取り戻したようだ。


「でもアレだぜ!! 石田が夏の間に退院しちゃったら岸本の努力は無駄になるかもしれないけどな!! ハッハッハッハ!!」


「えーっ!? うそーっ!!!!」



 さっきの俺の『感心』は撤回する。

 やはり森重は『この世界』でも同じだった……


 しかし本当は森重の言っている通り、一日でも早く退院して欲しい。

 でもきっとそれは難しいだろうと俺は思っている。


 まずは『あの運命の日』を石田には何としてでもクリアしてもらいたい。

 そして……そして一緒に『卒業』を迎える事が出来れば……


 この素敵な仲間達と一緒に石田を卒業させてあげたい……




―――――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


ついに次回、『運命の日』が訪れます。

石田の運命は!? そして隆達の想いは届くのか!?


どうぞ次回もお楽しみに。。。

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