第71話 初恋の人が消えた日

 七月のとある日曜日

 この日は久しぶりに部活が休みの日


 俺は『つねちゃん』と一緒に入院している石田のお見舞いに行くために『いつもの沿線の終着駅前』で待ち合わせをしている。


 石田が入院している病院が『つねちゃん』の実家近くの『国立病院』だという事で今回一緒にお見舞いに行く事になったんだが……


 果たして石田は『つねちゃん』を快く迎え入れてくれるのだろうか?

 まぁ、普通は迎え入れてくれるのだが、でも石田は俺と『つねちゃん』との事を知っている訳で……


 イヤイヤッ!! 今はそんな余計な事を考えるのは止めよう!!

 まずは石田のお見舞いに行く事が先決なんだから……



「お待たせ隆君!! だいぶ待たせちゃったかな? 先生の方が家近いのに待たせるなんてゴメンなさいね……」


「いや、全然待ってないよ。俺もついさっき駅についたところだから……」


 実は三十分前から俺は駅前にいた。

 

 元々俺は『前の世界』でも待ち合わせ時間の三十分前には行くというクセが身に付いていた。まぁ、生真面目な性格の親父の影響なんだけどな。


「それじゃあ、行きましょうか?」


 俺達は石田が入院している病院に向かうのだった。




 コンコン


「はーい、どうぞ」


 石田の意外と元気そうな声がする。


 そして俺達は石田の病室に入った。


「あっ、五十鈴君、それにつねちゃんまで!! お見舞いに来てくれたの!? 有難う……」


 石田は俺達を笑顔で迎えてくれた。


「石田、ゴメン……俺、つねちゃんに病気の事を……」


「別にいいわよ。つねちゃんだし……私も久しぶりにつねちゃんに会いたかったしね。逆に有難う……」


 俺は石田の言葉に救われた気持ちになった。


「ひ…浩美ちゃん……まさかアナタが白血病だなんて……先生、今でも信じられないわ……」


 『つねちゃん』は目を潤ませ石田の手を握りながら声をかける。


「つねちゃん、心配かけてゴメンね。でも私は大丈夫だから……」


 石田も目に涙を貯めながら『つねちゃん』の手をギュっと握り返している。


 目の前で二人の『初恋の人』が手を握り合っている光景を俺はとても複雑な気持ちで見つめていた。


「ところでさ、五十鈴君……『いなっち』達には私の病気の事は言っているのかな?」


「い…いや、言って無いよ。なんか言いづらくてさ……石田が良いんなら俺からあの子達に伝えるけど……」


「そうね……お願い、五十鈴君から伝えてくれるかな? もう私にはあまり時間も無いし……今のうちにあの子達とも色々とお話しておきたいしさ……」


「バッ、バカな事言うなよ!? 何で病気が治らない前提で言うんだよ!? まだ治らないって決まった訳じゃ無いだろ!!」


 俺は少し怒った表情で石田に言った。すると『つねちゃん』も俺と同じ様な言葉をかける。


「そうよ、浩美ちゃん。隆君の言う通りよ。いくら難病だからといっても今の日本の医学はとても発達しているから、白血病だって治るかもしれないじゃない……」


「う、うん……そうだね……二人ともゴメンなさい……」


 しばらく病室に沈黙が続く。


 俺はこの雰囲気を何とかしなければと思い、石田にこう言った。


「そっ、そうだ!! 俺の妹も石田の復活を待ちに待っているんだぞ!!」


「えっ? かなでちゃんが?」


 そう、俺の二つ下の妹の奏は今年、同じ中学に入学して石田と同じ『バレーボール部』に所属している。その時に俺は石田に「うちの妹、よろしく頼むぞ?」とお願いしていたもんだから、石田は奏の面倒をよく見てくれ、奏も石田の事をとても慕っていたのだ。


「そうだよ。奏は石田が部活にいないもんだから最近、元気が無くてさ……兄としても非常に心配なんだよ。あいつは石田がいないと全然ダメみたいだから……」


「フフ……そんな事は無いよ。奏ちゃん、とてもしっかりしているし、私がいなくても全然やっていけるよ。それに本当なら私もこの夏で部活は引退だったし、面倒は見れなくなるし……」


「ま、まぁ、そうなんだけど……」


 俺もだが、またしても……

 

 『この世界』でも奏の泣きじゃくる顔を見なければいけないのかと思うと胸が苦しくなる。いや、それだけは何としても阻止したい……


 



 『前の世界』の八月の夏休み


 俺は部活を終えて帰宅し、玄関で靴を脱ごうとした矢先にリビングから奏が泣きながら飛び出して来た。そして……


「お兄ちゃん、大変!! どっ、どうしよう!?」


「ん? 一体どうした? 何があったんだ、奏!?」


「飛行機が墜落したの!! それも沢山の人が乗っている飛行機がっ!!」


「えっ!? そ、そうなんだ……それは大変だな!!」


「それでね!! その墜落した飛行機の搭乗名簿に『ヒロミ イシダ』っていう名前があったの!! もしかして石田先輩だったらどうしよう!?」


「まっ、まさか……でも同姓同名って事もあるし、まだハッキリ石田だって決まった訳じゃ無いんだから、今から泣いててどうするんだよ、奏!!」


「グスン……う、うん……そうだね……」



 しかし、その搭乗者名簿の『ヒロミ イシダ』は石田浩美だった……

 同じく『マミ イシダ』という名前も……それは石田の母親の名前だった。


 後日、近くのお寺で二人の告別式がとり行われ、俺や奏も参列した。

 事故が事故だけに多くのテレビ局のカメラが来ていて、俺は戸惑った。


 本来なら石田の事を知っている者だけが参列すれば良いところを学校側は石田の亡くなり方が亡くなり方だけに学年全員を参列させた。


 俺の通う中学は二つの小学校から集まっている中学で、たった三年しか付き合いが無いのだから石田の事を知らない者も多い。だから当然、俺達の様に昔から石田の事を知っている者と温度差がある。


 なので心の底から悲しく思っていない者、石田の顔すら知らない者は多くのテレビカメラを見て浮ついた表情をしている。中には笑顔の奴までいた。


 俺はそんな奴等の様子を見て憤りを感じていた事を今でも覚えている。


 そしてその数日後、奏は『バレー部』を辞めてしまった……



 俺はなんとしてでも石田が飛行機に乗らない様に色々考えていた矢先の白血病……

 『前の世界』なら医学も発達し、ほぼ完治に近いところまで治せる病気なのに何故、今『この時代』なんだ!?



 俺が昔の事を色々と思い出している間に石田と『つねちゃん』は『幼稚園時代』の話で盛り上がっていたみたいだ。


 そして三十分くらい時間が経ったのだろうか、『つねちゃん』がそろそろ帰りましょうか?と聞いてきたので俺は黙ってうなずき帰り支度を始めた。


 すると石田がこう言い出した。


「ゴメン、五十鈴君。先に部屋を出てくれるかな? 私、少しだけつねちゃんと二人で話がしたいの……」


 俺も『つねちゃん』も石田の言葉に少し驚いたが『つねちゃん』は笑顔で石田の言葉に頷き、そして俺にはゴメンね。という様な表情をしながら俺の背中にソッと手を触れ、トントンと軽く叩いてきた。


 その『トントン』が俺には「私は大丈夫だから」という言葉に思えた俺は石田に


「また来るから」


 とだけ言い残し病室を出て行くのだった。





―――――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


石田はつねちゃんと二人でどんな話をするのか!?

そして隆は......


この章は私がどうしても私が書きたかった話です。

少し重い話かもしれませんがどうか最後までお付き合いくだい。

きっと皆さんの心に残る章になると思いますので......


どうぞ次回も宜しくお願い致しますm(__)m

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