第68話 初恋の人の信じたくない秘密

「石田は何故、塾を辞めたんだ?」


 俺がそう言うと急に三人の顔色が変わった。

 そして岸本が俺の質問に『分かりやすく』答えてくれた。


「五十鈴君、理由が知りたければ本人に直接聞けばいいじゃない!!」


「えっ? まぁ、そうなんだけどさぁ……」


 俺が少し困った顔をしていると稲田がフォローを入れてくれた。


「ゴメンねぇ、五十鈴君…。私達も浩美が塾を辞めた理由は知らないのよ。本当は私達も知りたいところなの……でも私達も聞きづらくてさ……」


 そして稲田に続いて川田も発言する。


「だから逆にお願い!! 五十鈴君が浩美の家に行って聞いてくれないかな?」


「わ、分かったよ。俺だけが不思議に思ってたんじゃ無い事だけでも知れて良かったよ。これで俺も安心して石田に聞けそうな気がするし……三人共、今日はありがとな……」


 すると三人は再び顔を赤くしてこう言った。


「 「 「なっ、何よ!? お、お礼なんて言わないでよ!!!」 」 」



 

 俺は教室を出て自分の教室に戻ろうとした時に『卓球部キャプテン』の下田に出くわした。


 俺は丁度良いところで下田に会ったなと内心思い、今日の部活を休むことを伝えた。

 気の良い下田は快く承諾してくれたが、別れ際に俺にこう言ってきた。


「五十鈴、最後の大会まであと少しだから出来るだけ休まないでくれよ?」と……


「わ、分かった。休むのは今日だけにするから……ゴメン……」




 放課後、俺は部活を休み急いで石田の自宅に向かった。

 

 石田の自宅は学校からとても近かったので俺は家に帰らず直接、石田の家に向かっている。


 そして俺が石田の自宅前に着いたところに石田と石田の母親が家に帰って来たところに出くわした。


「あっ、石田!!」


「えっ!? 五十鈴君!?」


 石田は俺の声に気付くととても驚いた様子で、一緒にいる母親に何やら説明している。


 すると石田の母親が俺に声をかけてきた。


「五十鈴君よね? 久しぶりねぇ……? しばらく見ないうちに大きくなって……。おばさんの事、覚えてるかしら?」


「は、はい……」


 石田の母親は石田に似ていて身長も高く美人でモデルみたいな人だ。

 参観日の時は他の母親達の中でもひときわ際立っていたのを覚えている。


 『中身が大人』の俺からすればとても魅力を感じる女性である。

 しかし今、思った事は絶対に『つねちゃん』には内緒だけどな!!


「今、病院から帰って来たところなのよ。もしかして浩美のお見舞いに来てくれたのかな? もし良かったら家にあがってちょうだい」


「は、はい……お邪魔します……」





 俺は今、石田の部屋にいる。

 

 『つねちゃん』の部屋以外の女子の部屋に入るなんていつ以来だろうか……


 勿論『この世界』では初めての事だ。

 

 『前の世界』でも最後に付き合っていたのが三十歳半ばだったから十五年?

 いや、『この世界』に来てからもう八年くらい経つから合わせて約二十三年ぶりの女性の部屋だ……


 

 だから俺はさっきから、まだまだ子供の『女子中学生』の部屋なのにメチャクチャ緊張しているんだろうな。



「五十鈴君、どうしたの? さっきから黙り込んでるけど。でも今日はありがとね。お見舞いに来てくれて……」



「い、いや……それよりも石田。病気は大丈夫なのか?」


「うーん……どうだろうねぇ……でも今は調子が良いみたい。五十鈴君がお見舞いに来てくれたお陰かな? フフフ……」


 

 俺は石田の言葉で少し顔が赤くなってしまう。

 そして『あの時』の事をつい思い出してしまった。


 すると石田が……


「『あの時』とは逆ね?」


「えっ? あっ『あの時』?」


 俺は自分が思っていた事を石田も思っていたんだと分かると更に顔が赤くなり、白々しく聞き返してしまった。それに対して石田が早口で、


「えーっ!? もしかして忘れちゃったの? 私達が小六の夏休みに五十鈴君が体調を崩して私と高山君とでお見舞いに行った時の事よっ!!」


 

「おっ、覚えているよ……忘れるはずなんて……」


 覚えているに決まっているじゃないか。

 忘れたくても忘れるはずが無いじゃないか。


 小六だったとはいえ、『前の世界』で初恋の子だと思っていた石田に……それも向こうから『好き』だと言われて『キス』までされた日なんだから……

 


 石田は俺が焦った表情で返事をしたのが面白かったのか、ニコッと微笑み「冗談、冗談よ」と言ってきた。



「俺、石田に一つ聞きたい事と言っておきたい事があってさ……それで今日の昼休みに石田のクラスに行ったんだけど稲田達から体調が悪くて早退したって聞いたからさ。それで慌てて家に寄らせてもらったんだ……」



 俺がそう言うと石田の表情が笑顔から少し暗い表情へと変わっていくのが分かった。



「それで私に聞きたい事って何なの……?」


「これは前から聞きたくてもなかなか聞けなかった事なんだけど、何で中二の途中で塾を辞めてしまったんだ? 俺はそれが凄く気になってたんだよ……」



 俺の質問に石田は少しうつむきながらこう言った。


「そ、そうなんだ……私が塾を辞めた事、五十鈴君ずっと気にしていてくれたんだ……」



「おっ、俺だけじゃ無いぞ!! 稲田や川田、岸本だって気にしていたぞっ!!」


 はぁ……


 何故か石田はため息をついている。


「へっ?」


「五十鈴君……? そこは『俺だけが気になっていた』で良いところなのに……その方が私、とても嬉しいのに……本当にあなたは色々な意味で『罪な子』ね……」



 つ、罪な子って……

 俺は今、十五歳の子に……この五十過ぎのおっさんが呆れられたのか??


「な、なんかゴメン……」


「フフフ……嘘よ、嘘……あの子達も気にかけてくれてたのは正直嬉しいわ」


 ふぅぅ……


 今度は俺が安堵のため息をついた。


「ほんと石田って昔から何を考えているのか分からないところがあるよな? どの部分が『本当』でどの部分が『嘘や冗談』なのかよく分からないよ……」



「えーっ? その『嘘や冗談』っていうのはやめてよぉぉ。出来れば『お芝居』って言って欲しいなぁ……」


「お芝居?」


「うん、お芝居よ。だって私達、小学四年生の頃は『演劇部』だったじゃん!!」


「それは小四の頃で、それくらいで芝居がうまくなるはずが無いじゃないか?」


「それじゃあ、私にはお芝居の才能があるのかしら? 生まれ変わったら『女優』にでもなっちゃおうかな……それと五十鈴君も『お芝居のうまさ』は私とあまり大差は無いと思うわよ」



 俺はドキッとした。

 石田の言う事はまんざら嘘では無い……


 なんてったて俺はこの八年間、『子供役』としての芝居をずっと演じているんだから……


 それにしても石田の言葉の中に一つ違和感があったのでふれてみた。


「お、俺の芝居はともかく、石田は芝居がうまくて顔も美人なんだから、『生まれ変わってから』って言わないで、普通に将来『女優』を目指してもいいんじゃないのか?」



「誰にでも『美人』って言う五十鈴君ありがとね。でも私は『将来、女優』にはなれないわ……」


「誰にでもって……そっ、そんな事よりも何でだよ!? 十分、石田だったら目指せるって!!」


 俺はこれからも、ずっとずっと生きて欲しい石田と将来の話をしたいんだ!!



「私……『白血病』なの……」






――――――――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


やっと聞き出せた石田の秘密......


しかし事故で亡くなるはずの石田がまさかの『白血病』......

その真実を知った隆はこれからどうするのか!?


どうぞ次回もお楽しみに。

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