第64話 初恋の人が俺との関係を語る

 俺の大好きな、それも大好きな人とのバーベキューなのに……

 こんな楽しくないバーベキューは生まれて初めてだ。


 何故ならバーベキュー会場のテーブルに俺は『つねちゃん』と横並びに座っているが、俺達の目の前には志保姉ちゃんと山本っていう人が座っているからだ。


 あの状況で……お互いにバーベキューをするつもりでこの公園に来ていて、まして知り合い同士が偶然にも出くわしてしまったら、当然『一緒にやりましょう』って事になってしまうのが自然であろう……


 それに相手は『あの志保姉ちゃん』だ。俺が拒んだところであの人には伝わらないし、勝てるはずもない。


 という事で俺は終始無言で黙々と肉を焼いては食べ、焼いては食べの繰り返し……

 『つねちゃん』は二人の話を『うんうん』と相槌をしているだけの会話にならないような会話をしている。


 まぁ、たまに俺の方を見て申し訳なさそうな表情をしている姿を見るのは俺としてもとても辛かったが、俺はどうする事も出来なかった。


 すると山本っていう人が突然、『つねちゃん』に質問をしてきた。


「ところで香織先輩と隆君って、一体どんな関係なんですか?」


 俺はその質問にビクッとして肉が喉につまりむせてしまった。


 ゴホッ ゴホッ ゴホッ


「隆君、大丈夫!? お水飲んで!!」


 『つねちゃんが』そう言いながら俺の背中を優しくさすってくれる。


「こらっ、三郎!! アンタなんて変な聞き方をするのよ!! 隆君、驚いて肉をつまらせちゃったじゃないの!!」


「ゴメンゴメン、隆君……俺が変な聞き方をしてしまってゴメンよぉぉ……」


 山本さんは志保姉ちゃんに怒られ、凄く恐縮していた。

 すると『つねちゃん』が少し苦笑いをしながら山本さんに話しかける。


「山本君が不思議に思うのは無理も無い事だけど……なんて言えばいいのかしらねぇ……私と隆君は『元先生』と『元教え子』といった関係といえばそれまでだけど、何かそれ以外のものを感じるというか……隆君はどう思っているか分からないけど、私はそう思っているわ。初めて隆君と出会った時はお互いに『自信を無くかけていた新人先生』と『転入したばかりの不安だらけの子』といった間柄で、『この子の不安を少しでも取り除く為に私がしっかりしないと』と再び私に『やる気』を呼び起こしてくれた『可愛い天使』みたいな感覚だったかな。それがいつの間にか隆君の成長していく姿を自分に重ねてお互いに成長していっているという様な『パートナー』みたいな感覚に変化していって……」


 少し落ち着いた俺も志保姉ちゃん達も『つねちゃん』の話を黙って聞き入っている。


「それがいつの間にか隆君の成長の方が凄く早くて……私が付いて行くのが大変なくらいになっちゃって……志保ちゃんもわかるでしょ? 隆君、たまに私達よりも『大人』じゃない? って思う時ってないかしら?」


「あ~それ、あるある!! ありますよね!?」


 ゴホッ ゴホッ ゴホッ


 俺は『つねちゃん』の『私達よりも大人』という言葉に反応してしまい、再び肉を喉につまらせてしまった。


「大丈夫、隆君!?」


「だ、大丈夫だよ、つねちゃん……ゴメン、話を続けて……」


 話を聞いている内に俺は『つねちゃん』が山本さんに俺との関係をどう説明するのか興味が湧いてきた。


 何故なら『つねちゃん』の口から出てくる言葉は俺にとってはどれも初めて聞いた事でとても新鮮だったのだ。それに、おそらく『つねちゃん』は俺の『告白』や『キス』そして『嫉妬』などの話は絶対しないだろうし、きっとそれ以外の話でお互いの関係を綺麗にまとめてくれるのだろうなと俺は思っている。


 だから余計に俺はどう、まとめるんだろう? という思いから『つねちゃん』の話が聞きたかったのだ。


 そして『つねちゃん』は俺を気にしながらも最後にこうまとめた。


「私にとって隆君は『世界で一番、幸せになってもらいたい人』って感じかな……」


「 「おーーーっ!!」 」


 『つねちゃん』の最後の言葉に志保姉ちゃんと山本さんが同時に声をあげ、そして山本さんが瞳を大きくしながら、こう言った。


「なっ、何て素敵な関係なんだ!! 俺、メチャクチャ感動しましたよ!!」


 俺は山本さんが、まさかそんな返しをするとは思っていなかったので驚いてしまった。もしかして俺は山本さんの事を勘違いしているのか……?



 バーベキューを開始してから一時間程が経ち、『つねちゃん』と志保姉ちゃんが女子トークで盛り上がっていたので、俺はジュースの入った紙コップを持ちながら一人、その場を離れて気持ちを少し落ち着かせる事にした。


「つねちゃん、俺ちょっとだけ向こうのベンチで休憩してくるよ……」


 俺はそう言うと少し離れた所に設置されているベンチに座るのだった。



「はぁぁぁ……」


 俺は大きくため息をついた。


 別に落ち込んでいる訳では無い。どぢらかと言えば逆の気持ちだ。


 『世界で一番、幸せになってもらいたい人』……


 この言葉が俺の頭の中をグルグルとローテーションしている。


 俺だって『つねちゃん』が一番、幸せになってもらいたい人だし、俺が幸せにすると心に決めているが、『つねちゃん』の俺に対するこれまでの心の変化を初めて聞く事が出来たのが嬉しかったのだ。


 まぁ、山本さんに俺達の関係をうまく説明する為に多少は『嘘』も入っているのかもしれないが、あれだけの事をスラスラと話している『つねちゃん』だから多分『大きな嘘』は無かったと思う。

 

 いや、そう思いたい……


 いずれにしても『あの山本さん』のお陰で大変、貴重な話が聞けたし、話の後の山本さんのリアクションも俺の予想を良い意味で裏切ってくれていたし……


 でも山本さんは『つねちゃん』の事が好きじゃないのか……?


 それとも俺みたいな『中学生』に負けるはずがないという自信から来る余裕の態度だったのだろうか?


 ただ、どう見ても山本さんが『前の世界』の昇さんが言っていた『つねちゃん』を苦しませた『最悪な夫』の様な感じもしないのは何故なんだろう……



 スッ……


 ん?


 俺の横に誰かが座って来た。


 よく見ると横に座って来たのは山本さんだった。

 少し驚いた顔をしている俺に対して逆に山本さんは先程までとは違い真剣な表情をしている。


 そして……


「隆君……少しだけ俺の話を聞いてくれないかい……?」


「えっ!?」




―――――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


『つねちゃん』が隆との関係をうまく説明してくれて、一人、ベンチで喜ぶ隆であったが、隣に山本が座って来た。


そして山本は真剣な表情で隆に話を聞いて欲しいと言って来た。

果たして山本は隆にどんな話をするのだろうか!?


どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る