第61話 初恋の人と結ばれる為に決着をつける

 三年一組、それが今俺がいるクラスだ。

 同じクラスには寿と卓球部の村瀬等がいる。


 『前の世界』で出席した『三年一組の同窓会』で初めて知ったのだが、寿はこの時、同じクラスの山田と付き合っていたらしい。でもこの当時の俺は『恋愛』に対してうとかったので全く気付いていなかった。


 おそらく本人達もまだ中学生だし、恥ずかしさもあっただろうから周りに気付かれない様に付き合っていたのかもしれないが……


 いずれにしても俺はその事を知ったうえで『この世界』にいる。

 

 小六の時に寿から告白めいた事を言われ、その後も何度かそれに近い事を言ってきた寿だったが、俺はずっとはぐらかして来た。


 『振る』という事の出来ない俺の情けない性格のせいでもあるが、俺は中三になるのを待っていたって事もあった。


 そう、俺は中三になって寿が山田と付き合い出すのを待っていたのだ。


 そんな寿が二時限目と三時限目の間の休み時間に俺に話しかけて来た。


「五十鈴君……」


「えっ、何?」


「今日も部活あるの?」


「うん、あるよ。最後の大会に向けて皆、必死だし……テニス部は休みなのかい?」


「そうなの。今日はテニスコート付近で工事があるらしくてテニス部はお休みになったの。だからもし卓球部もお休みだったら放課後に少し五十鈴君とお話がしたいなと思って……」


 卓球部が休みじゃ無い事は分かっていてそんな事を言ってくる寿に俺は違和感を感じたが、気にしないフリをしてこう答える。


「それじゃ昼休みはどう? 弁当食べ終わってから一階の『ホール』あたりで話しするってのはどうかな?」


「うん、それで良いよ。じゃぁ昼休みによろしくね?」


 寿はニコッと微笑み、自分の席に戻って行ったが、俺はなんとなくだが寿の微笑みは作り笑顔に見えてしまい、その後の授業に集中出来なかった……



 キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン


 昼休み……


 俺は教室で村瀬やクラスの他の友人達と一緒に弁当を食べているのだが、この後の寿との話の事が気になり、いつもよりも食べるペースが遅くなっていた。


「あれ? 隆、今日はやけに食べるのが遅いよね? 具合でも悪いの?」


 村瀬が心配して俺に話かけてきた。


「い、いや……大丈夫だよ。今日は弁当のおかずに俺の苦手なものが入っているからさ……だからゆっくり食べているだけさ……ハハハ……」


 俺は苦笑いをしながらそう答えた。



 弁当を食べ終わり片付けをしながら寿の方を見ると、寿は片付けを終わらせて教室から出て行くところだった。そして俺の方をチラッと見てから教室を出て行くのであった。


 俺はそれから数十秒遅れで慌てて教室を出て行き、二階から一階へと階段を下りようとしていた。


 その矢先、誰かが俺に声をかけてきた。


「五十鈴、ちょっと待ってくれないか!?」


 俺は声がする方を振り向くと、そこには寿と『付き合う予定』の山田がいた。


「えっ? 山田……俺に何か用なのか? 俺ちょっと用事があって急いでいるんだけど……」


「ご、ごめん……少しだけ、数分でいいから俺の質問に答えてくれないか?」


 山田はとても焦った様子だったので俺は仕方なく山田の話を聞く事にした。


「で、話って何かな? っていうか質問したい事があるって言ってたよね?」


「うん、そうなんだ……実はさ、ここだけの話にしてもらいたいんだけどさ、俺……こないだ寿さんに『告白』したんだよ……」


「えっ、そうなのか!?」


 俺はこうなる事をずっと期待していたが、まさか山田の方から俺に『告白』した事を報告してくるとは思っていなかったので、ある意味そっちに驚いてしまった。


「寿さんは前から五十鈴の事が好きなのは知っていたんだ。でも二人は付き合っている訳じゃ無いだろ? だから俺は諦めきれずに告白してしまったんだけど……俺が聞きたいのは五十鈴の気持ちなんだよ。五十鈴は寿さんの事、どう思っているんだ? それが聞きたくてさ……」


 山田がまさかそんな質問をしてくるとは思っていなかったので俺は少し戸惑ったが、もしかしたら今日、寿は俺に山田から告白された事を伝えようとしているのでは……それとも逆に寿が俺に……と思った俺はある決意をした。


「大丈夫だ、山田。俺は他に好きな人がいるんだよ。だから俺は喜んでお前達を応援するよ」


 俺がそう言うと山田はとてもホッとした表情をしながら俺にこう言ってきた。


「そ……そうなんだ……やっぱりそうだったんだ。五十鈴は石田さんの事が好きなんだろ?」


「えっ!?」


 山田の口から石田の名前が出てくるとは思っていなかったので俺は更に戸惑ってしまうが、ここでそれをはぐらかせてしまうと後々ややこしくなると思い、俺は正直に言った。


「違うよ。石田の事は嫌いじゃないけど、俺の好きな人はこの学校にいないんだ」


「えっ、そうなのか? てっきり五十鈴は石田さんの事が好きなんだと思っていたよ。結構な人がそう思ってるぜ。でも石田さんも五十鈴の事が好きなはずなんだけどなぁ……。だからその事が原因で寿さんと石田さんが前に喧嘩したって話だし……」


 やはりそうだったのか!!

 

 俺が『タイムリープ』で『この世界』に戻って来た矢先に高山がそんな話をしていたが、やはり俺が原因で喧嘩をしたんだな……


 俺が情けない男だから……

 小学生の頃、あれだけ仲良しだった二人の仲を引き裂いてしまった原因が俺だなんて……


「おい、五十鈴!? 大丈夫か?」


「えっ? ああ、だ、大丈夫だよ……それよりも俺急いでるからそろそろ行くよ。いずれにしても山田は俺の事なんて気にせずに寿にドンドン思いをぶつけろよ!! 絶対大丈夫だから!!」


「あ、有難う……頑張るよ。前から思ってたんだけど、ホント五十鈴って俺と比べて人間が『大人』だよな……」


 悪かったな。本当に俺は『大人』なんだよ。

 それもお前の親よりも年上のな……

 でも俺は女の子をちゃんと『振る』事の出来ない『腰抜けな大人』でもあるんだ。


 俺は階段を下りながら、今日こそ寿の事に関して決着をつけようと思った。

 

「寿、待たせてゴメン……えっ!?」


 俺は驚いた。

 

 何故なら寿の横に石田がいたからだ…………



―――――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


『腰抜けな大人』の隆がようやく寿との関係に決着をつける決意をする!

しかし、そう決意し寿のところに行くと、そこには石田が!?

二人は喧嘩をしているはずなのに何故?


果たして隆はちゃんと決着をつける事が出来るのか!?

それと石田が何故寿と一緒にいるのか!?


どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆


ここまでの話の感想をいただけると有難いです。

ちなみに100話までに完結する予定です。

最後までお付き合い何卒宜しくお願い致します。m(__)m

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