第53話 初恋の人からのプレゼント

 俺は今、『つねちゃん』の実家のリビングで緊張しながらソファーに座っている。

 

 そういえば『前の世界』で『つねちゃん』の自宅のリビングに入った事があるが、部屋の雰囲気がとても似ている。


 ご両親とインテリアの趣味が一緒なんだろうなぁ……

 とても良いセンスしているよなぁ……


 っていうか俺は今、そんな事を感心している場合ではない。

 俺の周りには『つねちゃん』は勿論のこと、ご両親、そして昇夫妻がいるのだ。


 俺は『つねちゃん』の家族に囲まれた形になっている。

 いくら『中身が大人』の俺でもこの状況はきつ過ぎる。


「隆君? そんなに緊張しなくても良いよぉぉ。僕達とは去年の今頃に一度『遊園地』で会っているんだからさぁぁ」


 『この世界』では相変わらず軽いノリの昇さんなので少しはホッとはするが、やはり目の前に『つねちゃん』のご両親がいるのは辛い……


 でも俺の将来の『義理の両親』になるはずの人達だから今の内から良い印象を与えておかないといけないという気持ちも無くは無い。


 『つねちゃん』のお父さんの年齢は五十歳後半くらいだろうか?

 顔は青白く少しやつれた感じだが、東京で体調を崩したという事も影響しているのかもしれないな……


 いずれにしてもさすがは『つねちゃん』や『昇さん』の父親だ。

 昔は『イケメン』だったという面影は残っている。


 そして『つねちゃん』のお母さんは『つねちゃん』にそっくりで美人だ。

 それに品があってとても優しそうな人である。

 

 おそらく年齢は『本当の俺の年齢』と同じくらいだろう。

 もし『前の世界』で出会っていたら『一目惚れ』していたかもしれない……

 って絶対に『つねちゃん』には言えないが……


 その『美人のお母さん』はニコニコした顔で俺に話しかけてきた。


「隆君は何か『部活』はやっているの?」


「は、はい……『卓球部』に入っています……」


 俺がそう答えると『つねちゃん』が反応してきた。


「えっ? 隆君、『バスケットボール部』には入らなかったの? 先生驚いたわ……」


「う、うん……色々考えたんだけど、俺は『団体競技』よりも『個人競技』の方が向いている様な気がしたから……」


 俺は少しうつむき加減でそう答えた。

 

 華やかな『バスケットボール』をやらず、『この時代』では『陰気なスポーツ』と言われていた『卓球』を選んだ事が少し恥ずかしかったからだ。


 すると『つねちゃん』は満面の笑顔で……


「うわぁぁ、そうなんだぁぁ!! 実は先生も学生時代、『卓球』をやっていたのよ。今度一緒にやりましょうよ!? 先生こう見えても上手なんだからぁ。まだ中学一年生の隆君には絶対負けない自信があるわ!!」


「えっ? そ、そうなの……?」


 俺は驚いたと共に『つねちゃん』も昔『卓球』をやっていた事が分かり、とても嬉しかった。こんな事なら小学生の時も『卓球部』に入っていたら良かったと後悔したくらいだ。


「隆君が小学生の頃、会うたびに『バスケットボール』の話をしていたから、隆君には先生が昔『卓球』をやっていた事はあえて言わなかったの。もし言ってしまったらきっと隆君は先生に気を遣って、一番やりたい『バスケットボール』をやらなくなるんじゃないかと思って……」


「お姉さんも『卓球』をされていたんですか!? 私も昔やっていたんですよ!! 無事にお腹の子が生まれて落ち着いたら一度、お手合わせお願いします!!」


 昇さんの妻の『佳子』さんも少し大きくなったお腹をさすりながら少し興奮した顔で身体を前のめりにしながら言っている。ちなみに出産予定は今年の十一月だそうだ。


「オイオイ、佳子ぉぉ!! そんなに興奮して身体を前のめりにするんじゃないよ。お腹の子がビックリするじゃないかぁぁ」


「あら? 『昇パパさん』もう今から『デレデレパパさん』になってるの? ハハ、面白いわ。なんだか昇じゃないみたいね」


「ほんとよねぇ……『あの昇』がねぇ……」


 『つねちゃん』とお母さんに茶化された昇さんは


「なっ、だよ二人してぇ? 僕をからかわないでくれるかなぁ!?」


「 「 「ハッハッハッハ!!」 」 」


 リビングの中が笑い声でいっぱいになった。

 『つねちゃん』のお父さんも声は出していないが目を細くして笑みをこぼしている。


 何だか良い気分だ……


 あれだけ緊張していた俺だったが、この家族の優しさに包まれていつの間にか、自分も同じ家族になった様な気がしてしまう。


 いや、俺は数年後にこの人達の事を『家族』と呼べるようになるように頑張るんだ。そう、心に誓う俺であった。





 しばらくしてから俺は『つねちゃん』の部屋に案内される。

 先ほどとはまた違った感じの緊張感が湧いてくる。


 そして『つねちゃん』は机の引き出しから包装された箱を三つ取り出し、俺にそっと差し出して来た。


「えっ? こ、これは何??」


「うーん、えっとねぇ……これは先生から隆君へのプレゼントなんだけど……ずっと渡しそびれていたから……」


「えっ? で、でも三つもあるよ!? 俺そんなにたくさんもらえないよ……」


 俺が少し戸惑った顔でそう言うと『つねちゃん』は少し頬を赤くさせながら


「一つはね、去年の隆君の『誕生日プレゼント』そしてもう一つは『小学卒業プレゼント』それでもう一つは『中学入学プレゼント』なの。こんな形で三つまとめて渡す事になって申し訳無いんだけど……でもやっと今日、隆君に直接渡せることが出来て先生、本当に良かったわ……」


「あ、有難う……俺、とても嬉しいよ。まさかつねちゃんにプレゼントを貰えるなんて思ってもいなかったから……あっ!! でも今月はつねちゃんも誕生日だよね!? お、俺慌てて来ちゃったから何も持って来てなくて……ゴメンね……」


 俺は今月が『つねちゃん』の誕生月だというのを忘れていた事を悔やんだ。

 しかし『つねちゃん』は……


「ううん、先生は隆君からちゃんと『誕生日プレゼント』を貰ったわよ……」


 ギュっ……


「えっ?」


 今度は『つねちゃん』から俺を抱きしめ、そして俺の耳元でこうささやいた。


「私の誕生月にこうして隆君に会えた事が私にとって最高の『誕生日プレゼント』よ。隆君、本当に有難う……』


 俺は『つねちゃん』から漂うとても良い香りに身を包まれ、優しい温もりを感じながら目を閉じる。そしてここ最近の事が『走馬灯』の様に頭の中を駆け巡るのであった。


 もうこれで俺の『空白の一年』を無理に埋める必要は無い。

 今日から『普通の中学一年生』として頑張っていこう。


 そう思う、俺であった……



――――――――――――――――――



お読みいただきありがとうございました。


これで『空白の一年編』は終わりとなります。

次回から『新章』開始。

隆達はこれからどんな運命が待ち受けているのでしょうか?


どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

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