第52話 初恋の人を抱きしめる

 俺は今、『つねちゃん』の実家の前に居る。

 そしてインターホンを押そうかどうか迷っているところだ。


 まぁ、ここまで来て迷っている場合では無いのだが……


 でもやはり一年以上も会っていない訳だし……

 それに最後に会ったのがあんな感じだったしなぁ……


 って、いつまでも迷っている場合じゃ無い!!


 俺も『つねちゃん』もお互いに謝りたいっていう気持ちは同じなんだ。

 俺は良い歳をして何を今更、躊躇なんてしているんだ!?


 と、自分に言い聞かせながら俺はゆっくりと人差し指をインターホンに近づけていく。


「隆君!?」


 俺がインターホンを押す寸前に背中の方から俺を呼ぶ声がした。


 そして俺が振り向くとそこには目に涙を浮かべながら立っている『つねちゃん』が居た。


「隆君……」


「つ、つねちゃん……」


 お互いに見つめ合いながら数秒間、沈黙だったが『つねちゃん』の方から口を開く。


「隆君……来てくれたのね……? せ、先生、とっても嬉しいわ……グスン……」


 『つねちゃん』はそう言うと突然しゃがみ込み泣き出すのだった。


 俺はどうしたら良いの分からなくなりとても焦ったが、俺の方が『年上』なんだ。しっかりしなくてはと再び自分に言い聞かせ、俺は『つねちゃん』にソッと近づいて行った。


 そして俺もしゃがみこみ『つねちゃん』の頭に手をのせて優しく撫でながらお詫びの言葉を言った。


「つねちゃん、泣かないで……あ、あの時はゴメンね……俺が勝手につねちゃんに質問をしておきながら、勝手に『ヤキモチ』を妬いてしまったあげく、体調まで悪くなってしまって……」


 すると『つねちゃん』も泣きながらではあるが大きく首を横に振った。


「ううん……隆君は何も悪く無いわ。悪いのは先生の方だから……隆君の気持ちを分かっているはずなのに……隆君の気持ちを考えない行動をとってしまったり、つい隆君の優しさに甘えて調子の良い事を言ってしまった先生の方が悪いの。あの時は本当にゴメンね。大人の私が先に隆君に謝らないといけないのに、勇気が出てこない自分がいたの。それに何故だか、ついつい隆君に甘えてしまっている自分がいるみたい……本当に隆君の方が先生よりも『大人』でしっかりしているわね。先生、本当に恥ずかしいわ……」


 実際は俺の方が『つねちゃん』よりも『大人』なんだから仕方が無いんだよなぁ……と思うと同時に、俺はお詫びの言葉が言えた事で心の底から安堵した。おそらく『つねちゃん』もそうだろうと思う。


 いや、『つねちゃん』の方が苦しかったのではないか?


 俺は『あの出来事』の数週間後にはタイムリープをし、数日で『この世界』に戻ってきているので、そんなに長い期間だったとは思っていない。しかし『つねちゃん』は一年近くの期間があったのだ。


「つねちゃん、顔を上げて? お互いに謝ったんだからもうそれで良いじゃない。 それよりも俺はこの一年近くつねちゃんの家に遊びに行けていなかったのが辛いというか、申し訳がないというか……」


 そうなんだ。俺は何故この『空白の一年』の間、『つねちゃん』の家に顔を出さなかったのか? 『あの時』俺は体調が良くなったら直ぐに『つねちゃん』の家に行って謝るつもりだったんだ……


 しかし『つねちゃん』は少し不思議そうな顔をしながらこう答えた。


「ゴメンね、隆君……手紙には書いていなかったけど、実はあの数週間後に東京で仕事をしている父が急に体調を崩してしまって、身体のあまり強く無い母に代って先生が父の身の回りのお世話をする為に約半年ほど毎週末に行っていたの。とりあえず志保ちゃんには伝えていけど、恐らく隆君が心配すると思って黙っていてくれたのかもしれないわね……」


「えっ……そっ、そうだったんだ!?」


 ここで何故『つねちゃん』から一年近くも連絡が無かった本当の事が分かった。


 『つねちゃん』は俺が考えていた以上に大変な時期だったんだ……


「でも私にしてみればそれは言い訳に過ぎないと思っている。いくらそんな状況でも隆君に会おうと思えば会えただろうし、電話で話す事も出来た。やっぱり実際は隆君に嫌われたんじゃないかとビクビクしちゃって……会いたくて会いたくてたまらないのに、何だか怖くて私から連絡出来なかったというのが本当のところなの……」


 涙を流しながら話をしてくれている『つねちゃん』を俺はとても愛おしく思えた。


 俺に『会いたくて会いたくてたまらない』なんて事を言われてしまったら俺がとる行動は決まっているじゃないか。


 ムギュッ


「えっ? た、隆君……?」


 俺はしゃがみ込んだままの『つねちゃん』をギュっと抱きしめた。


「つねちゃん、俺なんかの為に……色々と大変だったのに……俺なんかの事を思っていてくれて有難う……俺もつねちゃんに会いたくて会いたくて死にそうなくらいだったんだ。でもやっと……やっと会えて俺は嬉しくて嬉しくて……」


 数十秒の沈黙のあと、『つねちゃん』が俺にこう言った。


「隆君、いつの間にか本当に大きくなったね。力強くなっているし、とても大人っぽくなったわ。身長もあと少しで私を抜かすかもしれないわね……?」


「そ、そうかな? 俺、そんなに大人っぽくなったかな……?」


「うん、大人っぽくなったわ。私の方が子供みたい……ニコッ……」


 ようやく『つねちゃん』の顔にいつもの笑顔が戻って来た。



「ウンッ!! ウンッ!!」


「 「えっ?」 」


「あのぉぉ……お取込み中、申し訳無いんだけどさぁぁ……そろそろ俺達、家の中に入りたいんだけど構わないかなぁぁ……?」


 のっ、昇さん!? それに佳子さん!?




 ――――――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございました。


 ついに『つねちゃん』と再会する事が出来た隆......

 お互いにお詫びを言い合い、少しずつ心の中が晴れて行く。


 そんな中、突然『つねちゃん』の弟『昇夫妻』が現れて......


 という事で次回もお楽しみに(^_-)-☆

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る