第49話 初恋の人からの手紙
あくる日、俺は意を決して『つねちゃん』の家に向かった。
途中、何度も引き返そうとしたが、やはり早く『つねちゃん』に会いたいという気持ちの方が勝ち、『つねちゃん』が住んで居るアパートの前まで来てしまった。
今の俺の『空白の一年』がある状態では『つねちゃん』と話をするのはとても不安である。
もし、俺がつじつまの合わないような話ばかりをしてしまって……
もし『つねちゃん』が話しかけてくる話題にちゃんと答えられなかったら……
それが原因で『つねちゃん』に嫌われてしまったら……と、ついついネガティブな気持ちになってしまう俺がいる……
しかし『中身は大人』の俺だ。
相手との会話の内容である程度対応できるはずだ。
そう自分に言い聞かせ、俺は勇気を振り絞って部屋のチャイムに人差し指をゆっくりと近づける。
ピンポーン ピンポーン
・・・・・・
ピンポーン ピンポーン……
「あれ?」
ガチャッ ギィーーー
「えっ?」
何故か隣の部屋のドアが開く。
見た目『つねちゃん』と同い年くらいの女性が顔を出して来た。
そしてその女性が俺に話しかけてきたのだった。
「あなた常谷さんを訪ねて来られたのかな? でも残念だけど常谷さんなら先々月に引っ越されたのよ」
「えっ!? そっ、そうなんですか!?」
俺は驚いたと共に凄くショックを受ける……
「どっ、どこに引っ越したかご存じですか!?」
「えっ? ええ、聞いているわよ。常谷さん、実家に戻るって言っていたわね……」
「実家にですか!?」
俺は更に驚き、頭の中で色々と『悪い想像』ばかりが駆け巡る。
そんな俺に隣の部屋の人が尋ねてくる。
「もしかしてあなた、『五十鈴隆』じゃない?」
「えっ!? そ、そうですが、何で僕の名前を知っているんですか?」
俺は目を丸くしながらその人に尋ねてみると、その人は『ちょっと待ってて』と言い、自分の部屋に戻って行ったが、直ぐにまた外に出て来た。
「はい、これ……」
「へっ?」
その人は俺に手紙を差し出して来た。
「こ、この手紙は……?」
「常谷さんに頼まれていたのよ。もし自分が越した後に『五十鈴隆』って子が訪ねて来たら、この手紙を渡して欲しいって……」
――――――――――――――――――――――――
俺は帰りの電車の中で『つねちゃん』の手紙を読んでいる。
『隆君へ 隆君、お元気ですか? あれからもう一年以上も隆君に会えていないですね。先生は隆君に会えないのがとても寂しいです。でもあの時、先生は隆君を傷つけてしまったから……隆君に会う資格は無いとも思っています……』
ちょっ、ちょっと待ってくれ!?
あれから俺は『つねちゃん』と一度も会えていなかったのか!?
それに『会う資格が無い』ってどういう事だよ!?
『つねちゃん』は何も悪く無い!!
悪いのはあれくらいの事で『嫉妬』してしまった俺の方なんだ!!
『まだ小学生だった隆君の心を先生は傷つけてしまいました。先生なのにね。大人なのにね。先生の事を大切に思ってくれている隆君の気持ちを踏みにじってしまう様な情けない先生です……』
違う違う!!
『つねちゃん』は情けなくは無いんだ!!
『つねちゃん』、俺も大人なんだよ!!
実際は俺の方が『つねちゃん』よりもはるかに年上なんだ!!
だから情けないのは俺の方なんだよ……
『あれから何度も隆君の家に電話しようと……家に行かせてお詫びさせてもらおうと思いましたが、なかなか実行できずに一年以上が過ぎてしまいました。そして今年の四月から違う幼稚園での勤務する事になり、その幼稚園が実家の近くという事もあって、今回このアパートを出る事にしました。昨年、弟が結婚と同時に家を出て両親だけになったので丁度良いかとも思い……』
そういう事だったのかぁ……
『つねちゃん』が結婚する為に実家に戻った訳じゃ無かったんだな。
それだけでも分かって俺の心は少し落ち着きを取り戻した。
それに昇さん、結婚したんだぁ……
『隆君、あの時はゴメンね。本当は隆君に会って直接謝らないといけないとは思うけど、私の気の弱さがズルズルとここまで来てしまいました。結局、隆君に会えないままこの部屋を出て行ってしまう事になってしまって……でももしかしたら隆君が訪ねて来てくれるのではとわずかな望みを持ちながらお隣さんにこの手紙を託しました……』
『つねちゃん』違うんだよ!!
謝らければいけないのは俺の方なんだ!!
『先生、隆君に会う資格が無いのはよく分かってる。でもやっぱり会いたい……隆君の顔が見たい。中学生になった隆君の顔が見てみたい。もし許してもらえるなら最後に一度だけでいい、隆君に会いたい……』
『つねちゃん』!!
『最後に一度だけ』って何だよ!?
一度だけにするもんか!! 俺は何度でも会いたいんだ!!
俺は一生、『つねちゃん』と一緒に居たいんだ!!
ずっと傍に居たいんだ!!
俺は手紙を読み終わると次の駅で降りてまた逆の線に乗り換え『つねちゃん』の実家が有る駅に向かおうと思ったが、よく考えてみると俺は『つねちゃん』の実家の住所を知らない。
手紙にも住所は書かれていない。
「はぁぁぁ……」
と、俺はため息をつきながら、とりあえず帰宅する事にした。
そして俺はある事を思う。
またしても志保姉ちゃんに頼らないといけないんだな……
―――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
隆の知らない間に引っ越していた『つねちゃん』
しかし『つねちゃん』からの手紙には隆の心を熱くするような内容が書かれていた……
果たして今度こそ隆は『つねちゃん』に会う事が出来るのか!?
どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆
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