第47話 初恋の人の情報だけは分からない

 俺は昼休みのチャイムが鳴ると同時に急いで隣のクラスにいる高山の所へと向かう。


 ただ俺が教室を飛び出す際に寿が何か俺に『一緒におべ……』と言っていたが、気にせずに高山のところへ行ってしまったが、寿には後で謝っておこう……



「たっ、高山!!」


「とっ、突然なんだよ、隆!?」


 ん? 隆? 俺、高山から下の名前で呼ばれていたか?


 という疑問が発生したが今はそんなところでは無い。


「たっ、高山に大事な話があるんだ!! 俺と一緒に弁当食べてくれないか!?」


 俺がそう言うと高山はとても不思議そうな顔はしていたが快く承諾してくれた。


「で、何だよ大事な話って? 毎年俺に言ってる『セリフ』ならお断りだぜ。もう聞き飽きたからな!!」


 恐らく俺が毎年高山に言っている『結婚したら奥さんを大事にしろよ』というセリフの事を言っているのだろうが、今の俺には……


「いや、そんな事は今はどうでもいいんだ!!」


「どっ、どうでもいいってどういう事だよ!? それはそれで何だか腹が立つぞ!!」


 本当にこいつはややこしい奴だと俺は思ったが、とりあえず高山に謝り、俺の話をしっかりと聞いてもらえる状態にしようと努力する俺であった。




 【数分後】


「マジなのか……?」


「ああ、マジだ……」


「隆、本当に冗談じゃないんだな?」


「あ、ああ……」


 高山はいつになく真剣な表情をしている。


「信じてくれるのか、高山?」


「ああ、そうだな……俺の事をさっきから普通に『高山』って呼んでいるところからして、『約一年間の記憶が無くなった』って事は信じれるかな……」


 よくよく高山から聞いてみると俺達の通っていた小学校の男子達は小六の二学期くらいからお互い下の名前で呼び合うか『あだ名』で呼び合う様になったらしい。


 そして高山は俺の事を『隆』、俺は高山の事を『ケンチ』と呼んでいるそうだ。

 ちなみに『ケンチ』とは高山の下の名前の『健一』を少しだけ略した呼び方である。


「って事は俺も『ケンチ』って呼んだ方が良いよな?」


「そうだな。今はその方が自然だと思うよ。それにしても俺に相談なんかしないで『病院』に行った方が良くないか?」


 俺は高山……いや、ケンチの提案は却下した。

 この事は俺としてはどうしても大事おおごとにはしたく無かったからだ。


 普通に考えると俺の『空白の一年』は不自然過ぎるし、医者に色々と説明する為の嘘を考えるのも面倒だからな。


 それに高山からここ一年の俺の動きをある程度聞いて、それに基づいてこれから行動をとる方が俺にとっては楽だと思ったという事もある。


 幸い俺は『前の世界』で中学生は一度経験しているし、同級生達の名前も性格も知っている。付き合いをする事に限っては何も問題は無い。


 あとさっきの寿の反応を見れば『小学生』の頃とあまり関係は変わっていないと思えたので俺は少し安堵もしていた。


「ところでケンチ……い、石田はどんな感じなんだ?」


 俺は恐る恐る尋ねてみた。


 というのも俺は小六の夏休みに石田から『キス』をされているのでその後の俺達の関係はどうなっているのか、とても気になってしまう。


「えっ、石田? ああ、そうだな……相変わらず元気なのは元気だけどさ……ただあれだけ仲良しだった寿と原因は分からないけど喧嘩になったらしく、今は友達付き合いをしていないみたいだぞ……」


「そっ、そうなのか!?」


 俺としては二人が喧嘩した理由が、『俺絡み』で無い事を願いたいところだが……


「で、部活はどうする? 先週から俺達、『卓球部』に入部したんだけどさ……」


 やはり俺は小学生の頃にやっていた『バスケ部』には入らずに『卓球部』に入部していたんだな。少しだけ『前の世界』とは違う『部活』をしようかと考えた事もあったが結局俺は無難に『卓球部』を選択していた訳だ……


「ああ、恐らく部活は問題無いと思うからちゃんと出るよ」


「そうなのか!? 本当に大丈夫なのか!? 一年以上の記憶が無いという事は『卓球』なんか一度もやった事が無いって事だろ? 俺と毎週休みの日に『卓球』の練習をしていた記憶も無いって事じゃ無いのか? 本当にちゃんと『卓球』が出来るのか?」


 高山は心配をしてくれているが、俺にしてみれば『卓球』は大丈夫だという自信がある。もしかすると今の俺は先輩達よりも『卓球』が上手かもしれないとも思っている。


 何故なら今の俺の『卓球』のレベルは『前の世界』で経験している『中学三年のレギュラー』レベルかもしれないからだ。


 だが俺としては今の内から本気を出す必要は無いとは思っている。

 今、実力を発揮すれば絶対に先輩達に妬まれるのは間違い無いからだ。


 それに『この世界』の新人は部活のほとんどの時間が『球拾い』をさせられるんだから実力を発揮する機会も無いとは思うけども……


 俺は高山に部活よりももっと不安な事を伝える。

 それは『勉強』だ。


 今の俺の学力のレベルは小六の一学期レベルという事だ。

 簡単に言えば俺の頭の中は『数学』ではなく『算数』なのだ。


 何故、この『タイムリープ』の中で唯一、学力だけは見た目通りになってしまう『ルール』があるのか俺には理解できない……


 本来なら誰よりも勉強が出来てもおかしくないはずのに……


 その事も高山に相談してみるが、高山の回答は簡単なものだった。


「じゃあ、俺が行っている塾に一緒に行けばいいじゃんか……」


 実は高山が通っている塾には『前の世界』の俺は中二から他の友人に誘われて通う様になっている。


 一年早いけど、今はそんな事も言ってられないなと俺は思い、帰ったら母さんに頼み込もうと思うのであった。


「あと最後にもう一つ聞いてもいいか?」


「ん? 何だ?」


「俺はこの『空白の一年』の間、『つねちゃん』と何回くらい会ってたんだろう?」


「はぁ? 俺がそんな事、知ってる訳無いじゃん!!」


 まぁ、そうだよな……


 『つねちゃん』に関しての情報だけは自分でどうにかするしかないと思う俺であった。




――――――――――――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございました。


 『空白の一年』を埋めるべく動き出した隆。

 しかし友人の高山では『つねちゃん』の事は分からない。


 隆は『つねちゃん』との『空白の一年』を埋める為にどんな行動をとるのか?

 それでは次回もお楽しみに(^_-)-☆

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