第7章 夏休み編

第34話 初恋の人の部屋の中で

 『七夕祭り』も無事に終わり、今は八月……

 そう夏休みである。


 俺は『この世界』に来てからは夏休みが来るたびに初めて『つねちゃん』の家に行った時の事を想い出す。


 今年はそれにプラスして、『つねちゃん』の家に行く以前の事も思い出してしまう。

 何故なら六月に寿から『百円』をもらった話をされたからだ。


 その寿だが、あれから俺に何も言ってこない。

 まあ、普通の会話はしているが……


 俺の事は意識している様だが、『俺の事が好き』とか『五十鈴君は私の事どう思っているの?』的な話は全然してこない。


 やはり俺から何らかの『答え』を待っているのだろうか?

 もしそうなら本当に寿には申し訳ないと思う。


 俺が『ヘタレ野郎』過ぎるから……


 寿の為にも今後の俺の行動の為にも早くはっきりと振らなければ……

 とは思っているのだが、なかなか言えないでいる。



 それから『七夕祭り』の当日に『つねちゃん』との会話を聞かれたかもしれない石田だが、やはり何も聞いて来ないし、そんなそぶりも無い。


 実は俺の思い過ごしで石田は何も聞いていなかったのかもしれない。

 そうであって欲しいと願うばかりである。



 いずれにしてもこんな『ヘタレ』な俺でも『つねちゃん』に対しては積極的にアクションを起こせているとは思う。



 遊園地デートでの出来事、そして『七夕祭り』前の会話……


 思い出しただけでも顔が少し熱くなってくる。



 そしてそんな俺は今『つねちゃん』の部屋にいる……


 『つねちゃん』の自宅に来たのは遊園地デート以来だ。


「隆君、今日は部活は無かったの? もうすぐ『大会』があるから毎日練習があるんじゃないの?」


「いや、今日は部活休みなんだよ。なんか顧問の先生が用事があるからということで……」


「へぇ、そうなんだ。でも先生は隆君に会えて嬉しいけどね……」


 『つねちゃん』はニコッと微笑みながらそう言った。


 俺は『つねちゃん』に嘘をついた……


 実は今日も部活の練習がある。

 というか毎日練習がある。


 俺は今日、練習をサボってここにいる。




 二週間後に『ミニバスケット』の俺達六年生にとっては最後の大会があり、それに向かってみんな必死に練習をしている。


 そして『過去の世界』では補欠だった俺も『この世界』ではレギュラーだ。

 本当は俺もみんなと一緒に必死に練習をしなければならない立場だけど……


 でも、どうしても今日は『つねちゃん』に会いたかった。


 今日は俺が五年前に初めて志保さんと一緒に『つねちゃん』の家に来た同じ日、俺にとっては『記念日』だから……


 『つねちゃん』は気付いているか分からないが俺はこの五年間、同じ日に『つねちゃん』の家に来ているのだ。



「先生も隆君の『ミニバスケットの大会』応援に行きたかったんだけどねぇぇ……その日は仕事で行けないのよ。隆君の最後の試合だから本当は仕事『サボって』でも応援に行きたいんだけどね……あっ、先生が小学生に『サボる』なんて事を言っちゃダメよね? ウフッ……」


 俺は『つねちゃん』の口から『サボる』という言葉が出て来て一瞬ドキッとしたが、苦笑いをしながら『別に仕事サボってまで応援に来なくてもいいから』と答えるのであった。


 実際、『つねちゃん』の部屋に居る『中身は大人』それも『つねちゃん』の年齢よりもはるかに上の俺が好きな人に部活をサボってまで会いに来るというのはなんとも複雑な構図である。


 この時代はまだ『携帯電話』もまして『スマホ』なんて無い。

 たまに、もどかしさを感じ、『頭の良い人、早く開発してくれよ!!』と思う事もある。


 もし『過去の世界』の様にSNSが普及されていれば俺と『つねちゃん』との『付き合い方』も違っていたであろう。


 さすがにお互い家電いえでんで長話をする訳にもいかないからな。母さんの目もあるし……


 だからこうやって直接会って『コミュニケーション』をとるのが『この世界』ではベストな方法……というか、それしか無いのだ。


 『過去の世界』でどっぷりと『ネット社会』に浸かっていた俺からすれば『この世界』の不便さが逆に新鮮で心地よい時もある。


 やはり人と接するには直接会って、相手の表情を見て、そして会話をする……

 とても大事な事だと『この世界』に来て俺は痛感している。


 『過去の世界』で俺がうまくいかなかったのはこういった事が足らなかったのも一つの原因だったのでは? と思う事もあるくらいだ。



「隆君、どうしたの? なんか考え込んでいるみたいだけど……」


「えっ? ああ、別になんでも無いよ。今度、つねちゃんとどこにデートに行こうかなって考えてただけさ……」


「そうなんだぁぁ。うわぁ、先生嬉しいなぁ……。ほんとまたどこかに行きたいねぇ」



 トゥルトゥルトゥル~ トゥルトゥルトゥル~


「あっ? 電話だわ。隆君、ちょっと待っててね?」


 ガチャッ


「もしもし~常谷ですけど……あ……ああ、はい……そうですけど……」


 誰からの電話何だろう……


「あぁぁああ!! あの時の『山本君』かぁ。ハイハイ、あの時はお世話になっちゃって……うんうん、とても楽しかったわよ……」



 や……山本だって!?


 俺は何となく嫌な予感がするのであった……




――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


隆に不安がよぎり......

『山本』......どこかで聞いた名前の様な......


次回もどうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

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