第33話 初恋の人と毎日笑顔で……
俺は『つねちゃん』に叫びながら愛の告白をした。
それに対し、『つねちゃん』は笑顔で俺に近づき、そして俺の頭を優しく撫でながら
「先生、隆君を怒らせちゃったみたいね。ほんとゴメンね……先生、バカだったわ。隆君の気持ちを考えずにそんな事言ってしまって……これからは隆君にそんな事は言わないようにするから……本当にゴメンね。そして隆君……先生の事をそこまで思ってくれてありがとね……」
『つねちゃん』はそう言うと、もう時間が無いという事で、俺に手を振りながら『また後でね』と言い残し、志保さん達のところへ行くのだった。
俺もまた、急いでみんなの所へ戻ろうと体育館へ向かう途中にある大きな柱の前を通り過ぎようとした時に人影が見えて驚いた。
そこには俺以上に驚いた顔をした石田が立っていたのだ。
「いっ、石田!? どうしたんだ? みんなと一緒に体育館に行ってたんじゃなかったのか!?」
マズイ!!
もしかしたら今の『つねちゃん』との会話を聞かれたんじゃないのか? と、不安な気持ちを抑えながら俺は石田に問いかけた。
「うっ、うん……体育館に向かっていたんだけど、久子が『裏方』は『演者』よりも早く行って準備をしないといけないから、もし五十鈴君が遅れちゃったら困るから私に呼び戻して欲しいって頼まれて……」
何で寿は自分では無く、石田に行かせたのか……
その理由は何となく分かるので俺はあえて言わずに何とかこの場を誤魔化す為に石田にお礼を言った。
「石田、わざわざ呼びに来てくれて有難う……」
「えっ? べ、別にお礼なんて言われる事なんか……そっ、それよりも早く体育館に行こう!! みんな待ってるわ!!」
「そ、そうだな……」
俺と石田はこの後、何も会話をしないまま体育館まで走って行った。
しかし、俺の心の中は尋常では無い。
もしかしたら石田は俺達の会話を聞いていて、あえて黙っているのではないか?
『七夕祭り』が終わってから石田に問い詰められるんじゃないのか?
そんな不安を抱きながら、『七夕祭り』どころでは無い俺は今から『七夕祭り』に参加しなければならいのであった。
体育館の中は大勢の人でひしめき合っていた。
そんな中、俺達『六年一組』は舞台の上で芝居をやらなくてはいけない。
といっても俺は『裏方』の『照明係』なんだが……
俺は高山と一緒に体育館の二階端にある西側の照明を担当している。
ちなみに反対の東側は寿と石田が担当していた。
体育館の中は暗く、寿や石田の表情はうかがえない。
だから余計に俺は不安だった。
もし石田がさっきの話を聞いていて寿に『告げ口』なんかしたらどうしよう……
「おい、五十鈴!? 最初の照明の色は青色だぞ。お前が照らそうとしているのは赤じゃないか?」
高山が小声だが慌てた感じで俺に言ってきた。
「あっ、ほんとだ!! あ..、危ないところだった。気付いてくれて助かったよ……」
色々考え過ぎて集中力が欠けていた事を俺は反省した。
よしっ、今は『裏方』に集中しよう……
俺は無理矢理ではあるが気持ちを切り替える事にした。
俺達のクラスが行う芝居は『七夕』にちなみ『織姫と彦星』
愛する二人が一年に一度しか会えなくなる悲しい話……
元々、『織姫』は寿が演じる方向で進んでいたが、俺が『裏方』をやるって決まった途端に『織姫役』を断り、石田と一緒に『裏方』をやる事になった。
自分で言うのもなんだか恥ずかしいが、寿は俺に『彦星』を演じて欲しかったのだろう……でも俺は出来るだけ『この世界』で目立ちたくは無いので、そんな『主役』なんてするはずがなかった。
そして芝居は順調に進んでいる。
平静を取り戻した俺も順調に『照明係』をしている。
いよいよ、シーンはクライマックス……
会場は静まり返っている。
織姫と彦星の夫婦があまりに仲が良すぎて、二人で遊び惚けたあげく、二人共全然働くなり、それが民達に迷惑をかける事となり、そして最後には神の怒りを買い、罰として二人は『天の川』を挟んで離れ離れに暮らす事に……そして神様の情けで年に一度の七月七日だけ会う事を許された二人……
俺だったら『愛する人』の為に必死で働くけどなぁぁ……と、『つねちゃん』の顔を思い浮かべながら俺は『愛する人』の事を考えていた。
無事に六年一組のお芝居が終わり、会場は割れんばかりの拍手の音が鳴り響いている。
「ふぅぅ……なんとか終わったなぁ……」
俺は大きく息を吐き、窓から見える校庭に立っている何本もの大きな笹を眺めていた。
そのうちの一本の笹に結ばれた俺の短冊にはこう書かれている。
『大切な人と毎日笑顔で過ごせますように……』
『つねちゃん』は短冊に何て書いたのかなぁ……
『私の事を大切に思ってくれている人と結ばれますように……』
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お読みいただきありがとうございました。
これで『七夕編』は終わりです。
次回から『新章』が始まります。
隆とつねちゃん、二人の願いは叶うのでしょうか?
どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆
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