第6章 七夕編

第27話 初恋の人との約束

 『つねちゃん』とのキス……そして……


 例えそれが事故で起こったキスであってもキスには変わりない。

 あれから一ヶ月半が経つが俺の頭の中からあの時の光景が頭から離れない。


 梅雨に入り、今日は雨が降っている。

 授業中ではあるが、俺は教室で窓の眺めながら色々と思い出していた。


 別に俺は『過去の世界』でキスをした事が無い訳では無い。


 俺も五十歳を前に数名の女性と付き合った事があるし、結婚まで考えた事もある人もいた。


 それなのに何故か『つねちゃん』と交わしたキスは他の今までの人とは全然違う感覚があった。やはり『初恋の人』だからなんだろうか?


 『過去の世界』では絶対にあり得なかった事を『この世界』で経験し続けているからこその感覚なのだろうか……



 そして俺はあの時交わした『つねちゃん』との『約束』を思い出す。




「隆君、ゴメンね……」


 『つねちゃん』は少し悲しい声で俺に話しかけてきた。


「えっ? 何で、つねちゃんが謝るんだよ? 俺が倒れそうになったのが原因なんだから……だから俺の方こそゴメンなさい……キ、キスなんてしてしまって……」


 俺がそう言うと、『つねちゃん』は今度は笑いながらこう言った。


「フフフ……先生が隆君に謝る理由はね、おそらく隆君が初めてキスをした相手がこんなおばさんになってしまった事なのよ。本当に申し訳無い気持ちでいっぱいなの……」


「そっ、そんなこと……」


「隆君、今日のキスは事故で起こってしまった事だから、隆君が嫌なら全然忘れてくれていいのよ。隆君はモテそうだし、これから沢山の女の子とキスをする機会もあると思うから……だから先生とのキスは『初めてのキス』にしなくていいからね……」


「やっ、ヤダよ!! 俺は絶対に忘れないよ!! 絶対に忘れたくない!! だって俺はつねちゃんを……」


 俺は少し声を荒げて、そう答えた。


「隆君、有難う……こんなおばさんを『大好き』だと言ってくれて……」


 俺はハッとした。


『つねちゃん』は俺が『急流すべり』で叫んだ言葉が聞こえていたんだ……


「先生も、隆君の事が大好きよ。本当よ。嘘じゃ無いわ。でもね、私達は十七歳も歳が離れているの。これってとても大きな差なの。一生、縮まる事の無い差……だから隆君にはこれから沢山の人と付き合っていく中で、きっと隆君に合った人と巡り合えると思う。私みたいなおばさんの出る幕なんて無いと思うし、隆君にとっても煩

わずらわしくなるだけだと思うわ……」


 『つねちゃん』はとても優しい声でそう言ったが、夕日の赤い光が邪魔をして表情はよく分からない。


 そんな『つねちゃん』に俺は腹をくくってこう言い返す。


「俺はつねちゃんが大好きだ!! 今日のキスも一生忘れないし、それに……俺が十八になったら……なったら俺と結婚してください!!」


 言ってしまった……

 遂に俺は『つねちゃん』に『五年ぶりに』プロポーズをした。


「隆君……」


「もしそれまでに、つねちゃんに好きな人が出来て、その人と結婚する事になったら俺は……俺は辛いけど諦めるよ。でもそうじゃなかったら、俺と結婚してほしい!!」


「隆君、有難う……先生とても嬉しいわ。今の言葉は昇に煽られて言った言葉じゃないのもよく分かったわ。でもね、隆君……先生はアナタに逆の事を言うわね。もし隆君がこれから気になる人が現れたら先生の事も『プロポーズ』の事も直ぐに忘れてちょうだい。やはり先生の中では隆君はこれから出会う人と結婚するのが一番幸せだと思うから。だからお願い。それだけは約束してくれるかな?」


 俺は『つねちゃん』の言葉を完全に納得できた訳では無いが、このままでは話が平行線のままだと思い、『つねちゃん』のお願いを聞き入れることにした。


「わ、分かったよ……約束するよ。でも、もしそんな事にならなかったら俺と……」


「う、うん……分かったわ。その頃には今よりももっとおばさんになっているけど、よろしくね……」


 こうして俺と『つねちゃん』はお互いに約束をする為に『指切』をし、遊園地を後にするのであった。



 俺は十八歳になるまで色々と頑張る決意をしている。

 中身は既に大人なのでどうする事も出来ないが、『この世界』では勉強は一からやり直さないとどうにもならない『ルール』になっている。


 だから俺はまず、今まで以上に勉強を頑張って『つねちゃん』に釣り合える様な男になろうと心に誓ったのである。



「よしっ、まずは勉強頑張らないとな!!」


「おい、五十鈴!?」


 なんか今、担任の辻村先生の声が聞こえたような……?


「五十鈴、勉強頑張る気持ちがあるなら、窓の外を向いているんじゃ無くて、ちゃんと前を見ないか!!」


「へっ!? あっ、ゴメンなさい……」


 ワッハッハッハッハ!!!!


 外の激しい雨の音を消し去るくらいの、クラスメイト達の笑い声が教室内を駆け巡り、廊下まで響き渡るのであった。







――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


この回から新章が始まります。


遂に二度目のプロポーズをした隆

それを『条件付き』で受け入れたつねちゃん

果たしてこれからの二人はどうなっていくのでしょう?

このまま順調に結ばれるのでしょうか?


どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

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