第26話 初恋の人とキス

 空がオレンジ色に染まりだし、『楽しい時間もあとわずかだよ』と俺達に伝えている様だ。


 そして俺は今、『つねちゃん』と二人、向かい合わせで観覧車に乗っている。


 観覧車の窓から見える夕日が、少しずつ視界が高くなっていき、とても綺麗で俺達は見入っていた。


 そんな中、『つねちゃん』が俺に少し自慢げな言い方で、ある情報を教えてくれた。


「隆君は色々とここの遊園地の事が詳しいみたいだけど、この情報は知ってるかな?」


「えっ、どんな情報なの?」


 俺がそう言うと『つねちゃん』はニコッとしながら


「実はねぇ、向こうに見える工事中の建物があるでしょ? アレはね、実は今乗っている観覧車よりも遥かに大きな『大観覧車』の建設工事をしているのよ。そして来年の春にオープンするらしいわよ。隆君、知ってたかな?」


 俺はこの遊園地に一時だけではあるが『日本一大きな観覧車』が出来るのは知っていた。一周するのに十五分もかかる乗りごたえのある『大観覧車』だ。


 ただ、来年の春にオープンするという事は知らなかったので本気で驚いた表情をすると『つねちゃん』は『してやったり』という様な顔をしながら喜んでいた。


 そして俺はこのタイミングで『つねちゃん』に俺の知っている事を伝える。


「実は俺、もう一つ知ってる事があるんだよ……」


「えっ、そうなの? まだ何か知ってるの??」


 『つねちゃん』は瞳を大きくしながら少し前のめりになった状態で俺に聞いてくる。


「ほ、本当は俺、つねちゃんの誕生日が五月だって事、知ってたんだ……」


「えっ、そうなの隆君!? 先生、昇達に今日の事を誤魔化す為に私の誕生日の事を言ってしまって、隆君には申し訳無い事をしたなぁって思っていたのよ……」


「お、俺もあの時はドキッとしたけどさ……でも本当に知ってたんだよ。つねちゃんの誕生日が『五月二十二日』だって事を……だから俺はなんとか五月中につねちゃんに会いたくて……そして『誕生日プレゼント』を直接渡したかったんだよ……」


「えっ、誕生日プレゼント!?」


 『つねちゃん』が更に驚いた表情をしながら俺の事をじっと見ている視線をそらし、自分のカバンの中から誕生日プレゼント用に包装された長方形の箱を取り出した。


 そして……


「つねちゃん、誕生日おめでとう……そしてコレ、誕生日プレゼントです……」


 俺は少し緊張のせいで震えた手で『つねちゃん』にプレゼントを差し出し、『つねちゃん』は一瞬『間』があった後、静かに手を差し出し受け取ってくれた。


 そして『つねちゃん』の瞳には今にも流れ落ちそうなくらいの大きな涙が溜まっていた。


「あ、有難う、隆君……隆君が先生の誕生日を知っててくれた事だけでも嬉しいのに……それに今日、こうして一緒に遊園地に来れただけでも先生にとっては『最高の誕生日プレゼント』なのに……それなのにまさかプレゼントまでもらえるなんて……グスン……本当に有難う……」


 とても嬉しそうに、まして嬉しさのあまりに涙ぐんでくれている『つねちゃん』を見て、俺は感無量だった。


 俺は『つねちゃん』に箱の中身を見て欲しいとうながしたので、『つねちゃん』はとても嬉しそうな顔で箱の蓋をそっと開けていく。


 俺がプレゼントしたのは『大きなハートと小さなハートが二つ重なった銀のネックレス』……


俺はこの日の為に小一の頃から、お年玉の中から母さんから使ってもいいと言われていたお金や、小四からもらう様になったお小遣い、そして『テスト』で良い点を取つた時に貰える『ご褒美』などを今まで極力使わずに貯めてやっと買えたものであった。


 『つねちゃん』はプレゼントを見て更に驚き、『こんな高そうなモノ、受け取れないわ』と言ってきたが俺は『つねちゃんの為に買ったモノだし、もう返品はできないから』等と必死に説得し、最後は『つねちゃん』も俺の『熱い説得』に観念し、改めプレゼントを受け取ってくれた。


 そして『つねちゃん』は


「このネックレス、今つけてもいいかしら……?」


 と、言うので俺は『勿論!!』と答え、更に自分でもビックリするセリフを言ってしまった。


「つ、つねちゃん……お、俺がつねちゃんの首にネックレスをつけてもいいかな……?」


 『つねちゃん』は頬を少し赤くし驚いた表情をしたが、ニコッと笑いながら『うん、お願い』と言ってくれた。


 俺は立ち上がり『つねちゃん』からネックレスを受け取り、ゆっくりと近づき少し震えた手を『つねちゃん』の首元に近づけていく。


 ビューーーン


 すると突然、強い風が吹き観覧車が大きく揺れ出したのである。


 俺は足元がふらつき前に座っている『つねちゃん』の方へ倒れそうになってしまい、ぶつかってはマズイと思い、咄嗟とっさに『つねちゃん』が座っている後ろの壁に両手をつけた。



 しかし俺の目の前には今までで一番近い距離に『つねちゃん』の顔がある。



 そして俺の唇は『つねちゃん』の柔らかい唇と重なっていた。



 まるで俺がプレゼントした『大小二つのハート』のネックレスのように……



 

 夕焼けが俺達二人を赤く染め、俺達の顔色をうまく誤魔化してくれているようであった。




――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。

今回は私の中では『神回』です!!(笑)


事故とはいえ、遂に隆とつねちゃんがキスを......

この後、二人はどんな感じになってしまうのでしょうか?


次回もどうぞお楽しみに~(⋈◍>◡<◍)。✧♡

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