霜を踏み躙るもの6



「じゃ、2階に行こうか」



「チャッカマンさんはどうしますか?」



「んー、流石に置いて行くわけにもいかないから私が担いでいくよ」



スタン状態で倒れたチャッカマンをお米様抱っこし、ラピスと一緒に屋敷の二階へ上がります。これまでも部屋移動の際に何度か肉醜塊にエンカウントしましたが、階段から先はエンカ率が高く設定されているようで、明らかに戦闘回数が増えました。



「ゲームの難易度の上がり方って敵が強くなる場合と増える場合の2パターンあるけど、雑魚敵が増えるパターンは作業になりがちなのが問題だなぁ……」



「先輩が叩いたら一撃ですからね」



いやそもそもショゴスじゃなかったらここまでヌルゲーではないんでしょうが。それでも少し思うところがあります。



「よしじゃあ2階の探索も始めようか」



「はいっ」





~~~~~~~~~~~~~~





はい1部屋目。

ちなみに2階には部屋が4部屋ありますが、うち1つは1回で見た天井の抜けた部屋に該当しており床が抜けているんので探索箇所は実質3部屋です。



「さて……なんとも殺風景なことで」



「なんっにもないですね!」



その部屋には何もありませんでした。床も、天井も、壁も、その先に見えるはずの光景も。文字通りの「無」が広がっていました。



「この先、何もないがあるぞ」



「……?」



くっ、伝わりませんでしたか。たしかVR版がエグすぎて規制対象になったんですよね。黎明期の規制が厳しかった頃の話なので今は解除されているらしいですが。


それはそうとこの部屋、なにがどうなっているんでしょうか……ちょっと手を突っ込んでみましょうか。



「えい」



「……! 大丈夫なんですか?」



ずぶずぶと暗闇に飲まれる私の右腕を見てラピスが心配そうな顔をしますが、今のところ特に異変はありません。気色悪い生温かさがありますが、それだけです。

暫く中をまさぐってみるも、なにも見つかりません。諦めて腕を抜きます。



「残念、特に何にもないね」



「じゃあ次の部屋いきましょうか!」



「だね」



得られるものは無いと判断した私たちは回れ右をし、部屋を後に……



「……っっっ!」



「? どうかしました?」



「いや、今視線を感じた気がしたんだけど……」



気のせい、でしょうか?














【side:???】



ソレは遠ざかっていく背中を見ながら、目(もしくはそれに相当する部位)を細めた。

申し分ない魔力量に体力、精神力だ。今すぐにでも貪り喰らいたい。



「……」



だがソレは鋭角の存在。本来ならば猟犬のようにどこまでも獲物を追うのだが、魔術によってあらゆる角が潰されたこの屋敷では好きに移動することはできない。獲物に狙いをつけ、マーキングするのが関の山だ。



「……」



ソレは苛立たし気に前足を振るうとその口を開いた……ようにこの場に人間がいれば見えただろう。そもそも、そんな人間がいれば既にソレの餌食になっているが。


針のように鋭く卑しい舌。飢えた獣のようなやせた体躯。猟犬を彷彿とさせる、執念深さと残忍さを併せ持った目。そもそもそこにあるのかすら曖昧な存在。コロナとは別の意味で不定形な、まるででキュービズム絵画が動いているかのようなソレは獲物を喰らう快感を思い舌なめずりをした。

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