"I'm dying to devour more…"6
「そちらの像にご興味が?」
「あ、はい。あまり見慣れない造形をしてい「バキバキバキ、グチィ」……!? マイカ、何してるの!?」
ポタリ。
ポタリ。
ポタリ。
フィラリィさんが、像をよく見せようと私たちの方へ向けた途端、マイカが自身の指を食い千切りました。
「フーッ! フーッ!」
声をかけても反応は無く、息を荒げて像を凝視するだけです。
その視線につられて像を見た私は、マイカの指から垂れる血がまるで意思を持っているかのように像に吸い込まれていくのを目撃します。
「っ!! ちょ、邪魔しないでよ!」
目の前の光景に混乱しつつ冷静な思考が像を危険と判断、私の右手は破壊を試みました。
しかしそれは、他でもないマイカの手によって阻まれてしまいます。システム的なものでしょうが目の焦点が合っていませんし、恐らく洗脳や憑依、身体操作の類いでしょう。
どうしたものか……。
……。
…………。
………………。
……………………よし。
「ちょっと寝てて、他意はない!」
はっはっは! ペチャンコになりやがれぇ!
いつもの通り右手を肥大化、マイカに叩きつけます。フィラリィさんが逃げましたが、あとでいいでしょう……いや良くない。像もってにげてるじゃないですか。
「ま、てっ!」
「ひぃっ!」
左腕を伸ばして止めようとしますが、すんでのところで避けられてしまいます。
くっ、マイカに腕を引っ張られなければ届いたのに!
……? マイカに腕を引っ張られる?
先程倒したのに?
「……あー、そう来ましたか」
私の足元にはマイカが倒れています。ショゴスの一撃をくらって生きてるカラクリは気になりますが、それはまぁ良いです。
問題は私の腕を引っ張っているコレです。
それは一見すると黒い水溜まりのようですが、意思を持っているかのように蠢いています。蛇が鎌首をもたげるように立ち上がった黒色の液体は、口のような器官をつくりこちらを見やりました。煮詰めたドブのような臭いに息が詰まりそうです。
「無形の落し子……!」
無形の落し子はショゴスと同じく不定形生物。私は有効な攻撃手段を持ち合わせていません。こんなことなら魔導書を全部読み込んでおくんでした。
とは言え無い袖は振れません。ここはマイカが起きるまで耐久するしか無いでしょう。
「寝坊助さんめ……!」
「……自分でやっといて、それ?」
「うっわ、起きてたの?」
ビックリした、ビックリしましたよ!
なんでこんなに起きるの早いんですか。
「……こいつは私がどうにかするから、コロナは像の方に行って」
「あとで異様に起きるのが早かった理由、教えてもらうからね」
予想外とは言えマイカが早起きなら好都合です。フィラリィさんを追うとしましょう。
前、いない! 右、いない! 左、いたーっ!
「ふっ……!」
先程と同じように、腕を伸ばして像の破壊を試みます。違うのは今度は邪魔が入らないことと伸ばしたのが右腕なこと、そして破壊に成功したことだけです。
はてさて、ここからどうなるんでしょう。
「……ぐっ!? ぐ、ごごご、ごぉぁぁぁああっ!!!???」
「うへぇ……」
餓鬼っているじゃないですか。針金みたいにガリガリな手足とぽっこり膨らんだお腹の鬼。今のフィラリィさんはあんな感じです。像を破壊された途端、風船のようにお腹が膨らみ逆に手足は空気の抜けた風船のように縮み始めました。何かを求めるように手足を這わせ、周囲のものを掴んでは口に入れるさまはまさしく餓鬼です。
「……コロナ、落し子がそっちに!」
マイカの声に振り向くと、落し子がすぐそこまですぐそこまで迫っていました。回避が間に合うか微妙なところです。というかさっきの「ここは俺に任せて先に行け」的な発言は!?
「くっ! ……なに!?」
回避は不可能と判断し、私は防御を選択。しかし落し子は私の脇をすり抜けるとフィラリィさんのもとへ向かいました。そのまま落し子はフィラリィさんに捕まり、食べられてまいます。不思議なことに、落し子は一切の抵抗を見せません。明らかにフィラリィさんよりも大きな落し子ですが、みるみるうちにフィラリィさんのお腹に収まってしまいました。
その後もフィラリィさんはあたりの土を口にねじ込もうとしますが、その前に息絶えてしまいます。息を引き取る直前、彼女は確かにこう呟きました。
「もっと、食べたい……」
直後、周囲に笑い声が響きます。道化を見る観客のような、遥か上位に位置する存在のみに許された愉悦の笑いが。
『クエスト:もっと食べたいをクリアしました』
『報酬はインベントリに直接送られます』
『依頼主への報告を済ませてください』
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