第58話
予想以上に大変化していないステータスに数秒の間慄きましたが、よくよく考えるとこれが普通です。
見るたびに訳の分からないことになっているステータスなんて変ですもんね。私が非常識に見られてしまいます!
「さて、取り敢えずは[ドッペル]から確認を───
「お前がコロナだな? 俺をお前のクランに入れろ」
内容の確認をしようとした私に、後ろから声がかけられます。振り返らずに後ろを確認するとそこには1人の男性が。
うーん、既視感!
どうせ絡んでくるだけなのでスルーしましょう。
ふむふむ、[ドッペル]は効果なしの記念称g───
「聞こえなかったのか? 俺をお前のクランに入れろと言ってるんだ」
ええい、どうしてステータス確認にはこんな奴が付き物なんですか。
仕方なく、平静を装いつつもこめかみのピクピクしている男性の方へと身体を向けます。
「何ですか、スルーしてるんだから対話の意思がないことぐらい分かるでしょう。それともなんですか、貴方はその程度も察することが出来ないと? 空気を読めるのが日本人の長所であり短所であると私は思っていたのですが」
矢継ぎ早に思ったことを述べて差し上げたところ、男性はポカンとした顔を浮かべた後にみるみる顔を真っ赤にし始めました。また、種族特性なのか髪の毛が本人の怒りを反映するかのように逆立ち、ユラユラと揺れます。見た目は重人に見えるのですが……これが怒髪天を衝くってやつですかね?
「てめぇ! こっちが下手に出てやったら付け上がりやがって。このチート野郎が!」
「はて? 「下手に出る」の意味を辞書で調べ直してみては?」
下手に出る……相手に対してへりくだった態度で接すること。
うーん……。
「こ、こ、こ……」
「……? あぁ、トリ頭とかそう言う……」
「コロスっ!!!」
わぁ、怖いお兄さんが殴りかかってきました。オタスケー。
……PKになったら嫌なので取り敢えず半殺しにでもしますかね?
というわけで両手にグロック=ミミック(十華命名)を作成。
はい、バンバーン。もういっちょバンバーン。
その瞬間、男性は糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちます。
「……あああああっ!!??!!?」
「腱を狙って撃ち抜きました。すごいでしょう? 結構練習したんですよ。あと、頭に響くので叫ぶのやめてください」
やっぱり人体について勉強したのは正解でしたね。今の私なら人間1人、壊すも直すも自由自在です。
「で、でめ"ぇ"、なにじやが「誰が喋っていいと?」ガッ!?」
どうも言葉が通じていないようなので、喉を撃ち抜いて無理矢理黙らせます。頭に響くと言っているでしょうに。
さーて、取り敢えずGMコールをして、っと。
「さて、私は今少し苛立ってます」
「あ"、ぁ"……」
ステータス確認の際に邪魔されるのはそろそろウンザリです。
呻き声を上げるのは……まぁ良しとしましょう。
「ということでちょっと私の練習相手になって下さい」
はい、まず1発。腹部に向けて発砲し、身体の一部である弾で傷口を塞いで出血を止めます。
気分は昔公園の砂場でやった棒倒し。
さぁて、殺さず生かさずどこまで撃てるでしょう?
おっと、悪い笑みが。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【side:友里】
いつも通り仕事に従事していた友里は、GMコールを受け取ってソロンの街に降り立った。
「今回の呼び主は……お、コロナさんですか!」
プレイヤー、コロナ。
第1回イベント覇者にして、リンカーネーションモンスター初討伐者の1人。
だが、運営には別の点が注目されている。
「並列思考」。
それは平時でさえサブサーバーを1つ使い潰すほどの異質な存在だ。
実は、並列思考自体は珍しくはあるが、全く無いというほどのものでも無い。ブラックサバスなどがいい例だろう。
ただ、コロナの並列思考はその規模が異常だ。サーバー記録を見ると数百万、数千万、時には数億、数十億の思考が彼女の中を渦巻いている。
勿論、運営にもツールを疑う者はいる。例え運営が調べ上げた上で「シロ」と判断していたとしてもだ。
だが、友里はコロナに対し概ね好意的な感情を抱いていた。
因みに彼女の趣味は俺Tueeモノの小説を脳死で読むことだ。
「さーて、コロナさんが助けを求めてるのはこの角を曲がった先で……え''」
とは言えである。
いくら好意的な感情を向けている相手だとしても、その人物が明らかに死体にしか見えない物体に銃を乱射していたら戸惑うだろう。
それは友里も例外ではなかった。
「ちょ、コロナさん? 何しとっとですか?」
「あ、GMの方ですか? いえ、絡まれて襲われたので返り討ちにしただけです。PKにはなりたく無いのでキルしてはいませんよ」
コロナの前には、辛うじて人型だと判別できる程度の物体が転がっている。時折空気が漏れるような音がしているあたり、キルしていないと言うのは本当なのだろう。
「そ、そうですか。一応行動履歴を確認しますね……あ、正当防衛が成立してますね!」
「それは良かったです」
友里の言葉を聞き、コロナは無表情で頷く。
と、ここで友里の口から余計な一言が飛び出た。
「というより、この人はカルマ値が高いのでたとえキルしちゃっても過剰防衛にはなりませんよ?」
「あ、じゃあ……」
パアアァァアアンッ!
銃声とともに男の身体が跳ね、一拍おいて光の粒子になって消える。
友里の頬を一筋の冷や汗が伝った。
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