万を越える妄執とただ一つの願い5




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[根源の拿捕(サティヤーグラハ)]

自らの手で1度も他プレイヤーやモンスターをキルすることなく、キル数が1000を超えた証。

「死」が恒常化しつつ「殺」は無い。そんな特異な状況が、根源への扉をこじ開けた。

効果:【反魂半魂( アッド・バイム)】を習得



【反魂半魂(アッド・バイム)】

死亡後13秒以内のプレイヤー1人をHP半分で蘇生させる。

他プレイヤー、モンスターを1度でも攻撃した場合、この魔法は失われる。

あなたは世界の根源に手を掛けた。引くもいいだろう、触らぬ神に祟りなしとも言う。進むもいいだろう、虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言う。




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この使い勝手の良さ、《復活》とは大違いです。ただ、燃費は悪いらしく今のラピスでは4回も使えばMPが切れてしまうそうなので、ラピスには非常に有能なMPタンクさんについて貰っています。



「頼んだよラピス、ナリア!」



「お任せください!」



「……!」



ラピスからは心強い返事が、ナリアからはヤル気が伝わってきました。

とは言えナリアのMPも有限、私やマイカのようなMPを使わないメンバーからのドレイン分を合わせても蘇生の上限は23回です。



「〈膿旋病旋〉」



「……! コロナ、ジャンプ!」



「もちろん!」



高STRにモノを言わせ、旋回する巨体と腐液を跳躍でやり過ごします。クトゥルフについて調べている際、跳躍は最強の技能だという記述を見ましたが、あながち間違いでも無いかもしれません。



「皆さん、蘇生はあと12回です!」



ラピスの声が響きました。戦闘開始からおよそ10分。ヘイトを取りつつ避けに徹するトーカ達とは違い、私とマイカは着実に被撃墜数を増やしています。



「マイカ、そろそろ目は慣れた?」



「……問題、なし」



「じゃあちょっと囮戦法取るから一旦ヘイト持ってくれる?」



「……りょーかい」



さて、まずは分身を8体作ります。

現在の私のSIZは誓約分も合わせて93、これが限界です。


因みに何故DEX、AGIブッパをやめたかというと、どちらも+33になった時点でそれ以上上げることができなくなったからです。おそらくレベル×3までしか上がらないのでしょう。


ということで次に振り始めたのがSIZというわけです。分身は多ければ多いほど強いですからね。



「……コロナ、ちょっちキツイ」



「あ、ごめん。じゃあ行くよ!」



私は出した分身を全てマイカに擬態させます。さてさてさーて?エイブラハムよ、先程から〈怨哮〉後には必ずマイカに〈肉腐吹〉を撃つあたり、君もしかしなくても敵を見分けてそれに合った対応をするだけの知能を持ってますよね?



「行くよマイカ、キッチリ最大火力を叩き込んでね。ラピス、ぺぺさんは昨日伝えたアレやるから準備お願いします」



「……ん」



「分かりました!」



「了解!ここまで10分もかけて詠唱したんだ、しくじるなよマイカ!」



「……当、然!」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



エイブラハムにとって、侵入者はどれも等しく外敵でしかなかったが、コロナの予想通り個体を見分けるだけの頭脳は持っていた。


目の前から9人の同一人物が飛びかかってくる。エイブラハムはそれを見てまずは行動パターンの差異から本人を見分けようと考える。分身は元は別人物、行動には多少の差異が現れる筈なのだが……



「……?」



奇妙なことに、全ての少女が同じ行動パターンのもと行動している。


それもそのはず、エイブラハムは知るよしも無いがコロナはマイカの思考のトレースをおこなっているのだ。500問テストはそのための準備である。



「……は、ぁっ!」



エイブラハムに向け、1人の少女の持つ短剣が振るわれる。身体を捩ってそれをよけ、カウンターに叩き込んだ〈肉腐吹〉で消しとばす。

と、今度は後ろから迫った少女がエイブラハムの頭の1つを蹴り抜いた。

小さく無いダメージ、エイブラハムの脚の1つが膝(ひじ)をつく。



「……! 行くっ!」



「了解です!」



「おっしゃ任せろ!」



膝をついたエイブラハム目掛け、少女達が迫ってくる。

それを見たエイブラハムは何事もなかったかのように立ち上がり、身体を旋回させた。



「……っ! フェイント……!」



「〈膿旋病旋〉」



飛びかかってきた少女達を脚が薙ぎ払い、メシメシという嫌な音とともに胴部でへし折る。



「……」



敵は薙ぎ払った。しかし、エイブラハムは油断しない。当たった感触は7回、おそらく後1人、それも本人が隠れている。



「……はぁっ!!!」



エイブラハムの予想通り、天井から真下にいるエイブラハムに向かって少女が落ちてくる。

それを見たエイブラハムは喜悦に目を細め、〈肉腐吹〉で歓迎した。


……と、



「……さすがは、コロナ。作戦通り」



「……!?」



あり得ない声とともに、エイブラハムに特大火力が叩きつけられた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



よっし、上手くいきましたね。


今回の囮は私の分身……だけでなく、マイカ本人もです。


まず、マイカ本人も含めた7人で一斉攻撃を仕掛けます。エイブラハムは範囲攻撃でこれを薙ぎ払うでしょうし、実際そうでした。


次に、天井に潜ませた分身に奇襲を仕掛けさせます。おそらく1人足りないことに気づくだけの頭は持っているとは思っていましたが、予想通りエイブラハムはこれを迎撃します。わざわざ声を出して攻撃したのもエイブラハムの意識を引くためです。


最後に先程一斉攻撃の際に倒されたマイカを蘇生、即座にぺぺさんが特大のバフをかけその状態のマイカが自前のバフとともに最大火力を叩き込むというものです。



「やりましたか!」



「おいラピス、それを言うんじゃねぇよ!」



「……やって、ないと思う」



「私もそう思う。流石に呆気なさすぎます」



攻撃を受け、今度こそ本当に膝をついたエイブラハム。

はてさて次は何が出てくることやら。




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