万を越える妄執とただ一つの願い3
中ボスと思しきエイブラハムの落し子達が崩れ落ちます。流石に6vs2だと呆気なく終わってしまいましたね。
ロンチーノさんが可哀想なものを見る目で言います。
「落し子って強い強い言われてた割に、最近じゃ結構狩られてるよね。というかカモられてる」
「そうなんですか?」
「……経験値効率が、良い。」
「私たちも最初は落し子さんでレベリングしました!」
ぐ、経験値……私には半永久的に関係のない言葉です。
そういえば皆さんのレベルはどのくらいなんでしょうか?
「ところで皆さん、現在レベルは……」
「ギリギリ99になったよ!」
「99です!」
「……むむ、まだ84」
「99だね」
「ぐっ、1陣どもめぇ……73だ」
予想以上に高くてびっくり。おそらくこのLv99というのがレベルキャップなのでしょう。
「意外と高いんですね。ぺぺさんはパワーレベリングですか?」
「レベルキャップ到達者は結構いるよ?アルクインなんて殆どそうだし」
「アルクイン……?」
聞き覚えのない名前ですね。名前からして第9の街なんでしょうが……。
あんまりゲームの情報は集めてないんですよねぇ……。
「お姉ちゃん、私にはクトゥルフについて調べとけとか言うくせに……」
知らんな。
「……着いた」
っと、そうこうしているエイブラハムの元に着いたようです。
……そういえば一応確認しておきましょう。
「トーカとマイカが回避盾兼物理アタッカー、ラピスはヒーラー、ロンチーノさんはパリィタンク兼物理アタッカー、ぺぺさんは……信じがたいことにバッファー兼生産であってますか?」
「あってるよー」
「あってます!」
「……あってる」
よし、3人は問題無しですね。いえ、外す気はありませんでしたし外してるとも思ってませんが。それよりも何故か困惑した顔のぺぺさんとロンチーノさんです。
「え、いやあってるけど……」
「お前、よく俺がバッファーと生産中心って分かったな?」
「そりゃあさっき聞きましたからね。500問も質問して当てられなかったら恥ですよ」
そのために聞いたわけではないので、副産物のようなものですけどね。直接的に聞いた方が断然早いですし。
「あっはい」
「ロンチーノ、お前その返事癖になってるだろ。いや、気持ちは分かるが……」
「ぶつぶつ言ってないで入りますよ」
では入室。
中には相変わらずガラス筒の少女が眠っています。うーん、ここに来るのもこれで3回目ですか。
「おい、奴さん出てきやがったぞ」
「うひゃあ、いつ見ても怖い顔してますね!」
「いやラピスちゃん、怖い顔で済むような顔じゃないと思うよ?」
「……臭い」
何時もと同じように奥から登場したエイブラハム。私たちのことを視認すると口を開け、これまた何時ものように軟泥を吐き始めます。
「皆さん、先程渡した液体窒素は持ってますね?合図で投擲してください。……3……2……1……今っ!」
少女の形を形成し終わった軟泥に液体窒素が降りかかります。それは急速に軟泥を凍結させ動きを……
「……お姉ちゃん、動いてるように見えるんだけど」
「……少し、ぎこちない?」
「コロナさんよ、話が違うと思うなぁ……」
あっれれぇ? おっかしいぞぉ???
予想外の事態に戸惑う間にも状況は進んでいきます。動きのぎこちなくなった軟泥達は1ヶ所に集まり、相互に結合し始めました。
しばらくして結合を終え、私たちを見下ろすソレ。それはまるで……
「ちょ、あいつら増えたんだけど!?」
「エイブラハムさん、双子だったんですね!」
「ラピス、ボケてる場合じゃないよ。多分本気で言ってるんだろうけど」
「おいおい、お前ら。呑気なこと言ってる場合じゃないぞ……っ!」
2体に増えたエイブラハム、その一撃が私たちに襲いかかる。
先手を取るはずだった戦場。それは先手を取られるという最悪の形で幕を開けました。
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