万を越える妄執とただ一つの願い




Xデー当日。


約束の時間の10分前にログインし、中央広場で他のメンバーを待ちます。10分前行動は基本ですよね。


それから待つことおよそ1時間。ぺぺさんを除く全メンバーが揃いました。



「いやぁ、ゲーム内は10倍速なのを忘れてました」



「お姉ちゃんってその辺抜けてるよね。気持ちはわかるけど」



「いや、だってVRをちゃんとできるのは初めてだし」



それはそうと、ぺぺさんはまだでしょうか? いえ、あの人が時間通りに来るとは到底思えませんが……ちょっと聞いてみましょう。



「ロンチーノさん、ぺぺさんって時間守るほうじゃないですよね?」



「そうだね、30分は誤差とか言ってるよ」



「……それだと、5時間待たされる」



「すっごく長いですね!」



いやなんでラピスはそんなに元気なんですか。5時間、5時間ときましたか……ふふふふふ。

とりあえずあと40分は待ちましょう。



〜40分後〜



「ロンチーノさん、クランリーダー命令です。あの阿呆を引っ張って来て下さい」



「イエッサー!」



「もう一度」



「イエス、マム!」



「よろしい」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


【side都】


俺は今、二十数年の人生に於いて最大の危機に面している。目の前に立つのは口元に笑みを浮かべた美少女。それだけ聞けば夢のような状況だが、その人物の人柄と目が全てをひっくり返している。



「あ、あの……」



「……何か?」



ひいっ! び、ビビるな、ここでビビったらもっと酷いことになる……!



「怒っておられますか……?」



「どう思いますか?」



やべーよ、ガチギレだよ。どうしたらいいんだよ。ぜってー殺されるよ。

見ろよあの目。人間1人殺してもさざ波1つ立ちそうにないくらいに澱んでるぞ。



「お、怒ってると思います……」



「……」(にっこり)



あ、これ掲示板でみたやつだ。



「(コロナのガチギレは久し振りに見たな)」



「(……ぺぺ、バカなことを)」



「(先輩は優しいけど厳しい人ですからね!)」



「(え、優しい……?)」



くそっ、外野だからってコソコソ話しやがって! こちとら今大変なんd「誰が余所見をしていいと?」



「すみませんっ!!!」



怖っ! コイツマジで怖っ! なんだ今の声、女の声なのにそうとは思えないぐらいドスが利いてたぞ!?



「私は優しいので今回はこれで許してあげます。次は無いですからね」



え?誰が優し



「ぐべぇっっ!!?!!!??!」



「今不穏な事考えましたね?」



ぐ、思考読むとか、ば、ばけも、のか、よ……。


それを最後に、俺の視界は暗転した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「あーあ、お姉ちゃんの前で下手な事考えるから……」



「ぺぺさんが悪いから仕方ないと思います!」



「……まあ、今回は自業自得」



「うっひゃあ、スタン入ってるよ……。ただの腹パンとは思えない威力だ」



さて、不届き者の始末も終わりましたしそろそろ行くとしましょう。



「ぺぺさんはロンチーノさんが運んで下さい」



「えっ、なんっ……いえ何でもないです喜んで運ばせていただきます」



ロンチーノさんが何か言おうとしましたが、私を見て固まった後、了解しました。聞き分けが良くて大いに結構。



「よろしい。……では出発しようと思うのですが、何か言っておきたいことはありますか?」



「あ、じゃあ俺から1つ」



「何でしょうか、ロンチーノさん?」



「今日ってイベントだよね? 今更わあわあ言う気は無いけど、他の日じゃダメだったの? 前回誰かさんのせいでランキング逃したから参加したかったんだけど」



……。


いやだって誰も文句言わないからいいのかなぁ、って思ったんですもん。



「いえ、誰も文句を言わないので問題ないものかと……」



「私は先輩と遊べれば満足です!」



「私もそこまで興味ないかなぁ……」



「……開始が遅かったから、参加しても、勝てない。2陣な訳でもないから、新人杯にも、出られないし」



「……あ、はい。そもそもイベントに興味ない奴ばっかりだったのね」



プロゲーマーのお二人はイベントへの興味が強いのかもしれませんが……残念ながら私達はそこまででもありません。



「ということで我が国の誇り高き民主主義の伝統に則って、今日決行に変更は無しです」



「へいへい」



「では気を取り直して、出発!」



「「「「おー!」」」」



「…。」



ぺぺさんはまだ寝てるんですか。

いつ起きるんでしょうね?







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