てけりちゃん!
キャロルイス
第1話
紫電が迸り、敵を食い破らんと空気を裂く。
それを回避した剣士はお返しとばかりに魔法使いへ斬撃を放つ。
それを見た魔法使いは防御魔法を張ろうとするが、何かに気づいて後ろへと跳躍。瞬間、直前まで彼女が立っていた位置を剣士の刺突が襲う。
「…っ!」
「…っ!」
言葉はなく、二人の間には無数の火花が散る。
そして───
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……ふぅ」
コントローラーから手を離し、集中の糸をほぐすように力みを抜きます。
「お姉ちゃん、おわった!? どっちが勝った!?」
「今終わったとこで、左手の勝ち。賭けも私の勝ちだね」
「ぬわーっ、アイスがーっ! もうちょっと頑張ってよお姉ちゃんの右手担当〜」
崩れ落ちる十華は置いておいて、私は冷凍庫から取り出したアイスの最後の一つをいただきます。
ん〜、冷たくて美味しいっ。
「ぐぬぬ……」
「そんなに私の右手を恨むなら自分でしたら良かったのに」
「嫌っ、私がお姉ちゃんに勝てるわけないもん! お姉ちゃんに勝つにはお姉ちゃんをぶつけるしかないんだよっ」
他力本願を矢鱈堂々と言い切る十華。
……………はぁ。
「……ほら」
「! いいの!?」
スプーンでアイスを一口掬って差し出すと、十華が伺うように聞いてきました。
……目はアイスに釘付けですが。
「そんなに恨めしい目で見られちゃ落ち着いて食べられない」
「ありがとう! お姉ちゃん大好き!」
調子いいなぁ。
「冷たくておいひい。……そういえばお姉ちゃん、このゲームもそろそろやめるって言ってたけど次は何やるの?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました妹よ。」
「…? お姉ちゃんテンションどうしたの?」
うん、私も大概浮かれてるみたいです。
「コホンッ、来月から新しいVRゲームがサービス開始するからそれをやるつもり」
「あれ? お姉ちゃん、VRは並列思考使うとバグるからやらないんじゃなかったの?」
「ダメ元で要望送りまくったら対応してくれた」
「マジでっ!?」
マジです。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
並列思考。
私の特技の一つです。
私は小さい頃からいくつかのことを同時にこなすのが得意だったのですが、いつの間にか並列思考にまで発展していました。
並列思考は何かと便利です。色々なことが出来ます。
例えばそれは両手に持った本を同時に読むことや聖徳太子の真似事をすること、両手にコントローラーを持って格ゲーで自分と戦うことだったり……。
初めてVRゲームをプレイした時、スキル無しでの魔法の同時展開が出来るのではないかと、私は喜び勇んで並列思考を使いました。
しかし、現れたのは無数の魔法陣ではなくエラーメッセージ。
強制ログアウトを受け、不正ツール使用者としてBANされた私はすぐに運営に連絡しました。
しかし、返ってきた返事は「そんなことがツール無しで出来るはずがない」というもの。
その後何度もメールを送りましたが、結局BANは解除されませんでした。訴訟して毟り取ってやったので今更どうこう言うつもりはありませんが。
ともあれ、結果として私はVRゲームが嫌いになり、コントローラー型のゲームに傾倒しました。
しかし今年1月、VR業界の最先端をいく「マジックラフト」社から新作VRMMORPG「モングラル・スタッカー」が発表されました。
モングラル・スタッカー、略して「モンスタ」にはこれまで技術的に難しかった人外アバターが実装されているとのことです。
それを知った私は一抹の希望を抱き、並列思考への対応の要望メールをおくったところ、なんと実装して下さったとのこと。
そんなこんなで私はVRの世界へと戻ることを決めました。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「へ〜、マジックラフトがすごいのは知ってたけど、そこまでしてくれるんだねぇ」
「有難いよね。……さて、モンスタ購入の抽選に応募しますか」
「…ゑ?」
十華が目を点にして私を凝視してきます。はて?どうしたのでしょう?
「サービス開始は8月1日からで今日は7月4日、まだ間に合うでしょ?」
「……あぁ、お姉ちゃんだもんね、落選するわけないか」
「こんなにも熱望してるんです、当たらない筈がない!」
「物欲センサーって知ってる? お姉ちゃんのは壊れてるみたいだけど」
「?」
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