1.5章 怪人フェルゴールの邂逅

No.7 ラヴェイラ

 

「気分は……落ち着きましたか?」


 あの後にラヴェイラと会い、別室へと移動した。

 その場所は四方八方が本棚で囲まれた場所だった。


『ええ……ご心配をおかけしました。』

「いえ、今から……」

『ラヴェイラ様、』

「?」

『助けてくれてありがとうございました...…!』

「……。」


 ……まさかデベルクから礼を言われるとは思わなかった。

 礼など、誰からも言われませんからね。

 労われることはゼスタート様からありますが...…まあ、そんなことはどうでもいい。


「それでは、ゼスタート様の命により今日から私と共に行うことをお話します。」

『了解。』


 声音が変わった。

 顔つきは……わかりませんが。

 切り替えは、できるようですね。


「あなたにやって頂くのは……見た方が早いでしょう。」


 私は「変想チェインジ」を使用した。

 そして、私の姿は地球人の姿へと変わった。


「どうです?もっと驚いてくれると、思っておりましたが。」

『……あの、何か変わりました……?』

「?変わっている、でしょう。」

『いや、ラヴェイラさん……あまり姿変わってないですよ。』

「どういう意味です?」

『ラヴェイラさん、見た目がエルフに似てますから……あ、耳は確かに丸くなってます。』

「エルフ?何ですかそれは?想像や妄想は頭の中でのみに留めておいてください。それより……」

『……はい。』

(……随分な言われようだ……)


「私の名前の後に……なぜ、『様』をつけるのです。」

『え、それは……あなた方がゼスタート様に様をつけるのと同じです。』

「なるほど。ですが、それはやめたほうがいいでしょう。他のヒトケタにも、同様に。」

『……わかりました。敬称は私達が仕えるあの方にのみ使うもの、ですよね。』

「ふ.…..」

(...…なんだ、わかっているのね。)


『ハハ...…ラヴェイラが笑ったの初めて見ました。』

「では、変想についてですが--」

(え、無視?)


 ...…フェルゴールが僅かに動いた気がしましたが……気のせいでしょう。


「変想とは、異なる種族の姿になること。ゼスタート様にグラッヂを頂いたからこそできる技術ですが、一般的なデベルクでは、変想は不可能です。」

『そうなんですか?』

「理由はグラッヂのコントロールです。ゼスタート様は命名の儀にて、ゼスタート様のお力の一部、グラッヂをくださいますが……それは、この姿に合わせて頂いたお力。変想の姿だと100%力を発揮できない上に、制御が出来なければ暴走状態と同じようにグラッヂを体内で循環出来ずに、放出し続けてしまう。地球人やツロリロ星人などの異種族の姿では単純にその姿に『成る』ことも、体内に自分のグラッヂを抑えて、コントロールすることも容易ではありません……が、え?」

「こう、ですか?うおっ、声のエコーが抜けた!」

「な……」


 一瞬で……!


「あなた、なぜ……!」

「おそらくですが、俺は元々人間だったから……イメージはつきます。それにしても、こんなことできるんだな……」

「そう、ですか。」

(顔つきや体つきは変わっていないが、髪の色も、目の色も、肌の色も……色という色が、生前と変わっている……)

 彼の髪は黒から白茶、目はヨロイの時と同じで藍色。肌は雲の様に白くなっていた。


「……あの、どうかしました……?そんな目をして……」

「……いえ、なにも。」

「って、うわっ!俺、裸じゃないですか!服は!?」

「これのことですか?一緒に変想できますよ。」

「それを先に言ってください!」


 そう叫んだフェルゴールは、私とは色の違う黒の服とやらを変想した。


「黒スーツ……そうだった。全身鎧で気づかなかったけど、俺……服着てないじゃないか……」

「……よろしいでしょうか?」

「あ、はい!すいません!」

「では、あなたには数日で我々が知ってる全言語とその言語を話す生物の変想をマスターして頂きます。」

「え、どれだけいるんですか?」

「ざっと、数百ですね。」

「な……多っ……」

「色々言う暇があったらさっさとしてください。時間の無駄です。」

「その数百の生物なんてわかりませんよ…資料か画像かないですか?イメージしにくいんですよ。」

「わかりました。後で用意します。ですが、その前に。あなたに説明しなければならないことがあります。」

「説明……ですか……」

「ええ、地球を狙う異星人についてです。」

「……なるほど。資源や水の豊富な地球を狙う種族が、他にいてもおかしくない……ですね。」

「その資料を片してから、変想の練習を行いましょう。まずは、」


 私の持つタブレットから、プロジェクションマッピングが展開された。


「まず、ジュベルナット宇宙海賊団。船長は、キャプテン・ジュベルナット。」

「まるでタコが人間の形をした、化け物だな……」

「彼らはジャリアーと同じようなアクルーという雑兵と力で星を制圧してきました。母船以外の船を担当する隊長達、参謀、副船長。そして、ジュベルナットの統率力。さらには、母船の主砲『ペンドリ砲』。我々エンディンと並ぶ唯一の海賊であり、規模も大きい。既に我々と何度か小競り合いを起こしているにも関わらず、生き残ってきた連中です。」

(どことなく見た目が魚人っぽい……?そういう集団なのか?もしそうなら、目的は海……?)


「次に、ツロリロ星人」

「こっ……こいつがさっき言ってた……随分と気味の悪い姿をしてるな……」


 その見た目は、The宇宙人といっても違わぬ姿であった。

 肌は黄色く、目は触手のように伸び、口からはストローのようなものが生えている。

 両腕がごついのに比べ、細い触手のような足がうじゃうじゃ……といった姿だ。


「醜悪な見た目でもその体一つ一つがそれに見合った機能を有している。リーダーは総統閣下と呼ばれている、ボイナン+ツロリロ。ツロリロ星の王であり、独裁者。地球侵略に来ている集団の中で一番規模が大きい集団です。ツロリロ星は、数ある星の中でも数少ない、同族からも異星人からも支配をされなかった星です。自らの手で独自の文化を築き上げてきました。地球に来た目的は他の文化、技術を我がものにする為でしょう。次は……」


「まだ、いるのか。」


「パラトゥースファミリー。ボスはクェルボナ="ファーザー"=パラトゥース。目的はビジネス。地球の資源を確保、売買をする為です。それ以外の情報はなし。最後は……」

(情報があまりない……この人達でも掴めてないのか……)


「ミンタータ帝国。ミルトット星の一国です。一国と言っても全土がですが。王は皇帝、ヘブロイゼン・ミンタータ。これもボイナン+ツロリロと同じで、独裁者。しかし、目的は違います。おそらく、植民地を得るために地球へ来たと思われます。以上が、地球を侵略に来た異星人達です。」


 どうやら、パラトゥースファミリーとミンタータ帝国に関しては画像資料もないようだ。


 フェルゴールは息を飲んだ。


「よく地球人はこれらをひた隠しにできたな……」

「おそらく、まだ増えるかと。変想は、敵の可能性になる者の仕組みを実際に、自分の体で直接知ることができる。最低でも資料にある限りの言語と変想は出来てもらいます。なにより、それがゼスタート様の為になるので。」

「……!そうかわかりました。資料取りに行くんですよね。それまでこの状態、維持してます。」

(そういえば、随分と時間が経ったにも関わらず……フェルゴールの変想が溶けない。おそらく、変想の才能はどのヒトケタ……No.4と同等かそれ以上……)

「では、資料を取りに行ってきます。」

「はい、お願いします。」


(……さて、どうなることやら。彼はどこまで近づくか……)


 彼は変わる。きっと。

 いや、もう変わっているのでしょう。

 そして、これからも変わる。

 ……変わり続ける。

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