Gear-Theater(ギア・シアター)
小本 由卯
本編(第4工房)
第0話 主無き工房
ある街に存在する技師の工房。
その工房の中に汚れた衣服を纏う女性の姿があった。
彼女はこの街の役場で働く役員である。
女性の視界に広がるのは、隅々まで手入れの行き渡った工房の室内。
これを手掛けたのは他でもなく、目を凝らせながら工房の中を見回る
彼女自身であった。
(これだけ綺麗になれば何も言われないよね……?)
そんな疑問を過らせながら綺麗に磨かれた壁に映る自身の姿を
見据えていると、上の階へと続く階段の方から足音が聞こえてきた。
女性が階段の方向へ視線を移すと、そこから姿を現していたのは何処か彼女と
雰囲気がよく似た青年であった。
彼もまた、女性と同じ目的で役場からやってきた存在である。
階段から下りた青年がその周囲に視線を移していると、その様子に気が付いた
女性が彼へと問い掛ける。
「どうかな……? 十分綺麗になったと思うのだけれど……」
「驚くくらい綺麗になっているよ」
「ありがとう、上の階の方はもう終わったの?」
「こっちも終わったよ、本当ならここも手伝うつもりだったけど手こずって
しまった……」
申し訳なさそうに答える青年に対し、女性はなだめるように言葉を返す。
「……頑張ったね」
「うん、お互いに……」
2人は互いに労いの態度を向けながら、見違えた工房の姿を見渡していると
晴れやかな声で女性が口を開く。
「それじゃあ片付けて役場に戻ろうか……」
女性がそう言いかけたその時、彼女の視界に青年の纏う汚れた衣服が映り込む。
まるで今の自分を映したような彼の姿を見て、女性は再び口を開く。
「いや……さすがにこのまま外に出るのはちょっと嫌だよね、着替えて
いこうか……」
「……了解」
苦い表情のまま笑みを浮かべる女性に対し、青年は静かに頷いた。
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