破天荒な司令官 八品中佐の食卓
@kai6876
第1話 ティータイムは最高ね
「うん、やっぱり本場の紅茶でのティータイムは最高ね。」
上機嫌にティーカップの紅茶を飲みながら部屋の主は正面に座っている副官の曽山に紅茶を勧めた。
現在軽巡洋艦「揖斐」は昭南島と名を変えたシンガポールに入港中である。
とはいえ占領からいまだそれほどの月日がたっていないため、昭南島の呼び名はあまり浸透しておらず、以前からのシンガポールという呼び名で多くの者たちは呼んでいる。
桟橋はいずれも輸送船でごった返しており、揖斐は沖合の指定された錨地に投錨し、内火艇のみが陸上との間を何往復もして人員と物資を輸送させている。
そんな状況ではあるが、揖斐の入港後「ちょっと用事を済ませてくるわ」と言って艦を曽山に任せた八品中佐はシンガポールへ一人上陸し、勝手知ったるなんとやらという態度でシンガポールの街並みへ消えていった。
そして数時間後一通りの入港手続きが終わったころにひょっこり戻ってきた八品中佐は自分が不在の間の状況確認を兼ねて曽山をアフタヌーンティーに誘ったのである。
ちなみにこの場にはもう一名ニコニコしながら紅茶を嗜んでいる人物がいるが、その人物についてはまた後程紹介しよう。
従兵が手際よくアフタヌーンティーの用意をし、皿やティーセットを並べていく、そんな中で紅茶だけは八品が自ら湯を沸かし、茶葉を用意していた。
そして八品が用意を終える頃合いでもう一人の人物も到着し、三名でのティータイムとなったのである。
艦長室のテーブルに並べられた三段重ねの皿に盛られたスコーンをナイフとフォークでとりわけながら上機嫌で食べる八品の姿はとても艦を率いる指揮官には見えず、ましてや危険人物には到底見えないのだが、実際にはこの上官が帝国海軍最大の爆弾であることは周知の事実であった。
「いやー、わざわざ足を延ばした甲斐があったわ。さすが紅茶だけには拘る英国。ほんと最高級の茶葉を備えてるわ。この香りと味が最高なのよ。」
先ほど上陸した八品中佐はしばらくすると主計長への伝言と共に大量の木箱と食料品を港へ届けさせた。
無論通常の補給品とは別にである。
通常の補給品は主計課の課員が対応し、今回の出どころ不明の「員数外」は伝言を受けた主計長と主計担当の数名の軍曹が仕切り艦へ運び込んだ。
その員数外の中に今テーブルに並んでいる紅茶があり、さっそくその「員数外」の最高級茶葉の紅茶とスコーンでティータイムを楽しんでいるのである。
そんな嬉々とした八品中佐と対照的に入港手続きの一切合切を行って疲労気味の曽山は冷静に言葉を返した。
「それはいいのですが中佐、毎度のことながらいったいどこからこんな物資持ってきたんですか。」
どこの港に寄港してもそうなのである。
どこからか員数外の補給物資の山が現れるので、この上官は四次元ポケットか何かを隠し持っているのではないかと最近は疑っているほどである。
ちなみについ最近まで日本の占領下ではなかった地域に寄港してもちゃんと員数外の補給物資の山は現れる。
しかもその出所に関して普段八品中佐は何も言わない。
「いろいろとね。」とはぐらかすのが常である。
ちなみに一緒に部屋にいるもう一人の人物は入手ルートの察しが付くのか、八品に対して微笑むだけで他に何も語ろうとはせず紅茶を堪能している。
この場で一人だけ謎が解けず、怪訝な顔をしている曽山ではあったが、この後八品は普段とは違い、珍しく入手ルートを明かしてくれた。
だが結局曽山はその内容にやはり頭を抱えることになる。
「頼むから先に言ってくれ」と。
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