第14話 翠の本気


「氷冴くん朝だよ。このまま一緒に寝ちゃおっか。」

「うん。起きよっか」

「氷冴くんってばもう少し…」

「はい。着替えるから先行ってて」


 今日のモーニングコールは玲さんか。

 もう、朝這いにも慣れたよ。暑苦しいけどさ。


 夏休み二週目。

 僕はずっとゲーム三昧というわけではなく…


 三人が泊まりに来てから、ゲームもやるにもジャンル選ばないといけないし、積みゲーのギャルゲーはできない。最近エロゲー移植多いんだよな。本当に。やりずらい…


 それに、桜みたいに性癖と間違われてイメチェンされても困る。

 まぁ、あの桜はかなり刺さってます。まじで。二次元から出てきたみたいな。かわええ(キャラ崩壊)


「おはよ~」


 一階に降りると、既に三人と暖香がテーブルを囲んでいる。


「「「おはよう!」」」


 さてと、朝ご飯を食べてからランクマッチにでも潜ろうk…


「ひーくん今日はショッピングモール行こうねっ」

「えっ。」

「行かないとか言わないわよね」

「にーちゃん行くよなぁ??」


 これは…行かないといけないやつ…


 あぁぁぁぁぁぁ!!!僕の夏休みぃぃぃぃ!!


 い、嫌だぁぁぁぁぁ!!!!



 ♢♢♢♢♢♢♢♢



「あ、あづい…あづい…」


 外の暑さと、この人混みの窮屈さ。

 ラブコメでありそうな「どっちが似合う?」イベントをそっと気配消して回避した僕。


「ふぅ…」


 あんまり気乗りはしなかったけどスタービックスコーヒーで暇を潰そう。

 周りは女性ばっかりだけど取り敢えず座れた。


「あぁ…生き返る…」


 ヘタレな僕を許してくれ三人とも。

 多分暖香の方がいい意見をくれると思う。

 アイスコーヒーをゴクッと喉に流し込み、もう一回周りを見渡す。


 僕、場違い過ぎないか!?


 と思っていると…


「氷冴。」

「ひっ!」


 確実にクーラーのせいではない寒気がする。

 この声は確実に翠だわ。これで僕は…


「いきなり消えるから心配したわよ」

「えっ?怒ってないの?」


 てっきり、即連行かと思っていた僕は驚いて声が裏返ってしまう。


「連行はしないわよ。私もあんまりこの人混みを歩き回りたくないしね?」

「そっか…てっきり連れていかれるかと…」

「まぁ、こうやってひーくんと二人でお茶できるし…」


 たまに出てくるこのデレ翠見ると、何かに目覚めそうになるんだよな…

 顔真っ赤にして、いつもの凛とした翠が噓のように思えてくる。


「じゃあ、ゆっくりしよっか?」

「うんっ!」


 デレモードの翠はかなり本音を出してくれるから、昔の翠みたいで話しやすい。

 あと、リアクションが大きい。少しだけいじってみたくなる。


「翠ってさ、なんで僕を好きになったの?」

「なっ…」


 あっ、初手から間違えたぞこれ…


「ごめんね!困らせるつもりじゃ…」


 弁解をしようとしたところで、携帯の画面に桜からのメッセージ通知が来た。


「桜からか…」


 僕は右手で携帯を確認しようとする。


「待って。」


 翠に遮られ、そのまま僕たちは手を重ねたまま。


「私は、氷冴に変えてもらったのよ。」

「そ、それはd…」


 その瞬間、周りの音が聞こえなくなった。

 唇に柔らかい感触。翠の真っ赤になった耳。その耳にかかる綺麗なツヤのある黒髪。そして翠の匂い。





 僕たちは、キスをしていた。



「「……」」


 互いに顔は合わせずらい。


 僕はさっきの感覚をなんて表せばいいか、脳内の辞書を必死に探す。


 強いて言えば……


 ダメだ。出てこない。


「こういうのがいいって、氷冴の部屋のラノベで…」


 そ、そういう事かぁぁぁ!!!!!!!


 一瞬にして現実に戻された僕は、もうどういう感情でいればいいかわからなくなっていた。

 い、いや嬉しいけどッ!


「因みに好きになった理由は、私を選んでくれたら教えてあげるっ」

「う、うん…」


 取り敢えず僕のラノベやゲームが、彼女達にとてつもない影響力を持っているのは分かった。

 僕がただの娯楽として楽しんでいる一方で、皆は僕を攻略するための攻略本として扱っているんだろう。

 ラノベも買う前に入念に調べてみる必要があるな…


「ひーくん?」

「どうした?」

「怒ってるかな…?」


 翠の上目遣い攻撃!

 僕に99999のダメージッ!こうかはばつぐんだ!


「ううん?そろそろ三人の気持ちをちゃんと受け止めなきゃね」


 三人の本気度はずっと伝わってきていたけど、僕はまだ受け止めきれる自信はなかった。

 それはもうやめよう。受け止めてしっかり僕も返していかないと。


「桜と玲に怒られそうだから行こっか?」

「そうね。独り占めしすぎたら氷冴が大変だし」

「えぇ…」


 悪寒がして冷や汗が伝う。

 その言葉は家に帰ってから、嫌というほど感じる僕であった。

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