第3話 向けられる視線

「え?あれ生徒会長と誰?」




「てか、あれ二年の鷹野じゃね?」




 翠と共に通学していた僕は未だかつてない、視線を向けられていた。




「氷冴?どうしたの?」




 頭を抱えながら歩く僕を見て、翠は顔を覗いてきた。




 な、何なんだ…今まで僕にこんな事したことないのに!!!!


 可愛すぎんだろ!?




「い、いや僕たち結構見られてるな~って思ってさ」


「え!?気付かなかった…」




 そう言うと、翠は周りを見回す。


 周りの生徒たちは、徐々に顔が引きつっていく。




 あぁ…僕は機嫌を損ねないようにしよっと…




「これで大丈夫よ。さっ、行こっ?」


「う、うん…」




 あれ?やっぱり今日機嫌いい?


 僕と昔みたいに朝から通学できたから?


 いや、自惚れるのはやめるんだ鷹野氷冴。


 多分暖香みたいに朝ご飯に好物が出たんだろうな。うん。そうだ。




「そう言えば、なんで翠は部活を?」


「幼馴染が帰宅部なんて、みっともないでしょ?」


「え、そしたら桜も…」


「あの子はいいの。私と氷冴さえいればいいのよ」


「もしかして、僕と二人っきりになりたいからだったりして。」




 笑いながら「なわけないか~」と続けようとすると、隣から翠が消えていた。




「あれ?翠?」




 彼女は後ろで立ち尽くし、顔を伏せていた。




「ごめんごめん。翠も僕の事を部活を作ってくれたんだよね。冗談だから許してよ」


「私が氷冴の事を…?」


「ん?翠?」


「ひっ…ひーくんのばかぁぁぁ!!!」




 顔を真っ赤にした彼女はそう叫びながら、学校の方へ走り去ってしまった。




「あれ…?僕どこでミスったんだ?」




 周りは今の翠の叫びを聞いてしまっていたのか、走り去る後ろ姿に釘付けだった。




「今のうちに僕も逃げよう…」




 僕も目線を避けるように学校に向かうのだった。






 ♢♢♢♢♢♢♢♢




 僕は気配を消したまま教室までやってきた。




「おっ、氷冴おはよう」


「おぉ…楓真そうまか…」


「なんだよ。いつものことだろ?」


「まぁそうだけど…」




 彼は白村 楓真はくむら そうま


 僕の後ろの席に座っている帰宅部のナンバー2(自称)だ。


 僕と仲がいい時点で結局オタクなのだが、お姉さん属性が好きらしくよく僕にラノベを薦めてくる。


 あと、この学校の情報を網羅しているらしく、「誰々が告白された~」だの「あのカップルが別れた~」とよく言っている。




「今日も情報仕入れてきたぜ。モテ男」




 そう言って聞きたくもない情報を聞く。


 それがいつも授業始まるまでのルーティン。




「てか、モテ男とかやめてくれよ…」


「委員長に告白されて断ったくせに、今日は生徒会長と通学とかありえねぇぞ」


「僕だって望んでそうなったわけじゃないのに…」


「まぁ、氷冴は優しいし、勉強と運動は普通だけど料理はめちゃくちゃ上手い。モテる要素としては申し分ないぞ少年」


「それを彼女いない歴=年齢のやつに言われてもな…」


「馬鹿野郎!俺が女だったら真っ先にお前に惚れる自信がある!お前が女でも胃袋掴まれていちころだ!もう少し自己評価を上げても誰も文句言わないぞ」


「そ…そんなもんか?」


「うむ。そんなもんだ。お前との関係が深い人ほど、お前良さは分かってる。これは俺からのお墨付きだ」




 いつものふざけた感じではない、謎の雰囲気を纏う楓真は少し気持ち悪かった。


 褒められたのは嬉しいけど、少しむずがゆい感じがした。




「なんかディスられた気がする。さぁ、本題だ。生徒会長と二人だけの文芸部について話を聞かせてもらおうか」




 今日は凄く疲れそうな気がする。


 まだ何も始まっていないのにもかかわらず、僕の直感がそう訴えていた。

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