20. unconditional love / Ayagi
最初は、なんで助けたんだって思った。
おれはいらない子だから。
あのまま死神に殺されてよかったのにって。
それならなんで逃げ回ってたのか、って言われちゃうけど。
銀色の長い髪の毛が風に揺られてた。
心配そうに覗き込む深い緑色の瞳は、月明かりが反射してキラキラしてみえた。
こんな綺麗な人間がいたのかって驚いた。
そうこうしてるうちに、なぜか手を取られて、よくわからないけどすごく立派なお屋敷に連れていかれた。
そこで出会ったのがウィンさん。
はちみつ色の髪の毛をふたつ縛りにして、青いエプロンをしてる人。
ふたりはおれに何も聞かなかった。
どうしてあそこにいたのか、とか
なんで死神に狙われてたのか、とか
家族のところに帰るように、とか
少ししてから1度だけ、
「ここに居ることだけは、伝えておいた方がいいよ」
と言って手紙を送る術式を渡してくれた。
ここに拾われてからの生活は、いままでと全然違ってた。
あったかいご飯が食べれる
ひとりじゃない
話し相手がいる
おはよう、おやすみって言ってくれる人がいる
おれをいらない子って言う人がいない
なんだかすごくポカポカした気持ちになった。
でも素直になるにはおれはひねくれてて、どうしても
拾われて、親に連絡をして、2週間以上。
やっぱりおれはいらない子だった。
父親からは「勝手にしろ」の一言だけ。
愛されてないのも、必要とされてないのもわかっていたけど、やっぱり気持ちは落ち着かなくて。
無関心な親とは正反対に、おれがここで拾われてることを知った兄弟姉妹からは、いやというほど手紙が来た。
「あんたを拾ったその人は、あんたを利用してウチに取り入ろうとしてるだけ」
「あんたの利用価値がゼロって分かったら捨てられる」
「お父様からの手紙を早くその人に見せて、捨てられろ」
「あんたみたいなの拾う人なんていない」
「騙されてかわいそう」
「捨てられても帰ってこないでね」
「あんたの部屋なんてもうないわよ」
叫び出したくなるほどむかつく手紙の数々。
いらない子だって分かってたけど、ここまで言われるとは思わなかった。
でも、長年言われ続けてた言葉はおれにとっては呪いみたいなもので…
だんだん不安になってきたんだ
だからおれは、逃げ出した。
このぬるま湯みたいに温かくて優しい世界から。
そしたら、あの死神に出会ったんだ。
深緑の髪をゆるくしばった、あの変態そうな死神に。
おれを見るなり蛇みたいにすっと目を細めて、すごく楽しそうにこっちを見て。
まるでおれの心が見えるみたいに、「そんなにだれも信じられないなら死んじゃえばいいのに」って笑った。
でもそれが怖かった。
その目がすごく怖くて、後ずさった。
怯えるおれをみて、ますます目を細めたそいつは、「死神にするのも悪くない」とまで言い出して。
背筋がゾクリとして、「死神になんてならない」と虚勢をはった。
そんなの全部お見通しだ、みたいに笑うそいつが死神の鎌を振り上げても、おれはもう動けなかった。
怖くて目をつぶってしまう。
ああ、もう死ぬんだな
逃げ出してきちゃったけど、
そんなことぼんやり考えてた。
それなのに…
「悪いけど、この子は渡せないよ」
目の前には真っ白な背中。
風に煽られる銀色。
死神の鎌を剣で受け止めるその人。
死神とやりとりしてる背中をただ呆然と見つめていたら、肩にそっと柔らかな物がかけられて。
視線を向けたらそこには…優しく笑うウィンさんがいた。
ふたりが来てくれた。
おれが自分勝手に逃げ出したのに。
また、おれを助けてくれた。
もう死ぬかもって諦めかけたのに。
「帰ろう」って言ってくれた。
いままで誰にも言われなかったのに。
おれの霊力がダダ漏れだから、コントロールできるようになるために。
それといろんな知識を身につけるために。
先生役は
それでも初めて誰かに認められたようで、学ぶことが楽しくて仕方なかった。
そんなあるとき、
「家に帰りたいか」と。
おれは静かに首を横に振った。
あそこはおれにとって帰りたい場所じゃなかったから。
その会話からしばらくして。
おれはノルベルト家の籍をぬけて、
あの無関心な両親や底意地の悪い兄弟姉妹とどんなやりとりをしたのかはわからない。
ただ、ある日、どこかからか帰ってきた
「今日からはここが正真正銘、
驚いて見上げた先には、暖かい春の陽射しみたいな深緑。
それからウィンさんが抱きしめてくれて。
エノクさんはガシガシと頭を撫でてくれて。
エリヤさんは優しく「よかったですね」と声をかけてくれて。
潤んだ目を見られたくなくて、ウィンさんに顔を押し付けた。
それから一年近く。
おれは、この屋敷の住人として過ごしてる。
でも父親というには若すぎるから、心の中では兄だと思ってる。
さすがに恥ずかしくて本人には言えないけど…。
一緒に生活してみて分かったことがたくさんある。
この屋敷に住んでる人はみんな個性的で面白い。
家令のエリヤさんは、とても優秀な人。
穏やかで優しくて丁寧に話してくれるけど、怒らせるとすごく怖い。
ウィンさんやエノクさんはよく叱られてる。
側近のエノクさんは、エリヤさんの双子の兄だけど、エリヤさんに弱い。
でも気さくに話してくれる。
剣の腕が立つから、時々稽古してもらってる。
ウィンさんは、とにかく料理が美味い。
なにを作ってもおいしい。
みんなのお母さんみたいな人。
それなのに、一度死んでて、今は
イヴはいつも元気に飛び回ってる使い魔。
きいたところによると、古代竜ですごく強いらしい。
ふだんはオレンジ色の小さい羽付きトカゲって感じで可愛いのに。
それから、
おれを助けてくれた、おれの兄のような人。
上手く言えないけど、とにかく綺麗で、凛としてて、穏やかで、強いひと。
おれが14年間一度ももらえなかったものを、毎日たくさんくれる人たち。
おれにとっての本当の『家族』。
今はまだ照れ臭くて言えないけど、いつかちゃんと声に出して伝えたい。
おれの帰る場所はここなんだって。
おれの家族はここにいるんだって。
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