11. before the storm
「
「…ああ、おはよう」
いつもより早い、いつも通りの穏やかな朝。
…のはずが、今朝はなんとも涼やかな声が
くすんだ金色の長い髪を優雅に首の後ろでひとつに束ね、眼鏡越しの澄んだ夏空のような瞳には、穏やかな色をたたえている。
入れたての温かなハーブティーに口をつけ、差し出される衣服を躊躇いなく身につけていく。
よどみなく今日の予定を告げるエリヤの涼やかな声を聞きながら身支度を終えると、階下の執務室に足を向けた。
いつもより早い朝の時間は、屋敷の者の気配がなくとても静かだ。
廊下に響く2人分の足音だけが、落ち着いた色合いの絨毯に吸い込まれていく。
足を踏み入れた執務室の椅子に
「エリヤ。きみが朝から来た理由は?」
「さすが
「おだてても何も出ないよ。それで?」
「こちらをお持ち致しました」
白い手袋に載せられた封筒は、見るからに上質だとわかるそれ。
宛名には、流麗な筆致で
いやな予感を抱きつつもそっと封筒を手に取り、くるりと裏返すと、やはりというべきか…この世界でだた一人のある御方を示す封蝋。
「
「わかってる。それで、子細は?」
「詳しくは存じ上げません。お会いになられたときにおわかりになるかと」
「…当日の正装の準備を」
「かしこまりました」
「それと、エノクの予定を合わせておいてほしい」
「お任せくださいませ」
思わず眉をしかめた
念のためにエリヤに確認するも、やはり何も知らされていないとのこと。
カードと封筒を家令に渡しながら、めんどくさいことになったな、と心の中でひとりごちると、それでも逃れられない面会のための準備を指示した。
エリヤは諦めきった様子の
てきぱきと動くエリヤを視界の端にとらえながら、
■■■
早朝の静かな執務室。
そこには屋敷の
エリヤ。
長年この屋敷の家令を務める、
2mはあるだろう長身は、ともすれば威圧感しか与えないはずなのに、その穏やかな声音と表情は彼の纏う雰囲気を柔らかなものにしている。
エリヤは紅茶を準備する手を休めずに、黙々と書類に向かう今の
麗しい顔立ちは、初めて出会った頃より大人になり、より涼やかになっている。
それでも、文字を追う深い緑の瞳は、あの頃と変わらず穏やかで柔らかいまま。
エリヤや双子の兄で
そして、文武に優れたとても優秀な人物なのである。
朝食に影響のないお茶菓子を用意しながら、エリヤは今後の予定を頭の中で整理する。
あの御方への面会の準備を真っ先に整えるとして、
当日の正装のについては、今一度丁寧にクリーニングをして当日一番美しい状態で身につけられるように整えておかなくては。
普段はいい加減でだらしないところもある兄の衣服も、この麗しい
そうと決まれば、今のうちに各所への手配を進めなければ。
集中して机に向かう
心の中では誰よりも面倒くさがっているであろう
「エリヤ、いつもありがとう」
扉の前で一礼し、音を立てないように部屋を出ようと背を向けると、穏やかな音が落ちてきた。
ハッとして視線を戻せば、机に向かったままのはずの
いつもいつも、この若く優秀な主は、エリヤの心が読めるかのように言葉を紡ぐ。
「朝食の準備が整いましたら、お呼びいたします」
エリヤは少し目元を綻ばせ、もう一度感謝を込めて一礼し部屋を出た。
朝食まであと2時間。
******
実は家令と側近がいます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます