ダンジョン心臓部(俺の部屋)を死守せよ! ……するんだ!

あいうえお

第1話 部屋に初めて入れた女子?

 思っていたのと違うという感慨は、初めて触れたものに抱くありがちのものだ。良いにしろ悪いにしろ、想像と現実は異なっているのが常である。


 少年、薬缶 茂やかんしげるにもそれは当てはまった。彼は両親から昨年亡くなった祖母の部屋を自室にと送られ、彼女の思い出に浸り時折涙しながら、大事にしていた壁時計は残して部屋を自身のものへと変質させていった。

 マンガを並べゲーム機を置き掃除は中々行き届かない。巧妙に隠しているつもりで母親には露見しているいかがわしい雑誌をため込む。

 城であり隠れ家のようなもので、いずれはこの部屋に(未だあてはないが)彼女を呼んでみたいとも妄想する。年相応の少年だった。

 そうする中で彼にも思っていたのと違うという考えが生じるようになった。あくまでも生活が変化したことによりものでいずれは慣れる。しかし、その範囲に収まらない事象の場合はどうだろう。


 その夜、茂は宿題を終えて日課のゲームをする前に布団を準備しておこうと押し入れを開けた。物語が佳境で熱中するあまりそのまま寝落ち、風邪を引いた経験に懲りたのだった。

 ところが開けた押し入れの中で目が合ったのは角を生やした桃色の髪を持つ美少女だった。布地の少ない過激な水着からさらに面積を削った紐を幼い体に巻きつけて、固まったままで彼と対面を果たしていた。

 茂は深呼吸して押し入れを閉め、再度開けて少女がまだ存在することを確かめた。そしてもう一度閉めてから深呼吸し開け、やはり異質なものが鎮座していることを認めると、素早く閉めて本棚を動かしそこへ閉じ込めようと画策した。

 それを察知したのか、少女は押し入れから飛び出してきて茂と一緒に倒れこんだ。目の中に色の異なる瞳が二つずつ入っていて、より人外感じ強くしている。

「よかったですうう! もうだめかと思ってましたあ!」

 妙に語尾を伸ばしながら少女は壁へ手をかざす。すると茂がポスターでも貼ろうかと思っていたそこに、巨大なが現れたのだった。

 映し出されたのは、洞窟の内部を映した巨大な映像と細部をとらえた無数の映像群。目を白黒させる茂の手元に少女は大きなボードを差し出した。そこには怪物や武器の絵と見たこともない文字や数字が羅列されていた。

「助けてくださいい!」

「⁉」

「あれですあれえ! 勇者がもう来てるんですう!」

 少女が指さす先を辿ると映像の中の一人の男に至る。筋骨たくましい肉体を刺青で覆った、鋭い犬歯をのぞかせ笑う髭面の大男が、巨大な両刃剣を背負って洞窟の中を歩いているのだ。耳が片方欠けて大小さまざまな傷が体中についている。


 茂はここで理解することを諦めて両親に助けを求めようとした。ところが、家の廊下に続いているはずの出入り口の戸を開けてみると、そこにはが広がっているのだった。

 数回戸を開け閉めし、その光景が変わらず蒼白になった彼を少女は激しく揺さぶった。

「しっかりしてくださいよお! 開けてたら勇者が来ちゃう!」

「なななななんじゃこりゃああ!」

 茂は逆に少女の肩を掴んで上下に振り回した。怪力でない彼でも軽々しくできるほど彼女は軽いのだった。

「あのモニターは? この廊下は? お前誰? 板なに? あのおっさんは?」

「め、目がまわりゅう」

 ハッとして茂は手を離した。解放された少女はしりもちをついてしばし頭をぐるぐると回し、どうにか落ち着くと深々と頭をさげた。

「挨拶が遅れてごめんなさい。モンニは魔王ケルキャキャ・ニーダンニイの娘モンニ・ニーダンニイです。……さ、勇者からモンニを助けて!」

「過程を省くんじゃない!」

 モニターから奇声が発せられて二人は目を奪われた。彼女が勇者と呼ぶ男が、映像の中で背びれのある巨大トカゲを両断していたのだ。

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