第49話 対オットー

 ヤバイ! ヤバイヤバイヤバイ!! 皆が順当に二回戦を勝ち進んだので、俺も、と意気込んだのに、俺は現在二回戦の対戦相手オットー・アルクスから逃げ回っている。


 茶髪の長髪を首の後ろで結んだ、青瞳のオットー。制服の黄色の差し色から三年生だと分かる。そんなオットーから逃げ回るのもやむなし。相手は弓の名手だからだ。ならば矢が尽きるまで試合場を逃げ回れば良い。と考えるかも知れないが、それも望み薄だ。


 オットーが腰から提げる矢筒は魔導器で、魔力がある限り魔法の矢を生成し続けられる代物のようだ。デュエルでそれは反則なんじゃないか? とチラリとラウド先生の方を見遣ったが、反則を取らないどころか、何ら反応を示さない所を見ると、あれも武器の特性強化の範疇であるらしい。


 なので、俺に出来る事は逃げる、避ける、躱す、木剣っで叩き落とす、と限られてくる。


 返す返すも最初にブーストで距離を取られたのが失敗だった。その後これ程の速射連射が待ち受けているとは考えもしなかった。


 矢を放つには、まず矢筒から矢を取り出し、弓につがえ、弦を引き、そして放たなければならない。が、オットーはこの一連の動作が異様に速いのだ。俺が飛来する矢を躱し、一歩前に踏み出した時には、既に弦を引き、こちらに照準を合わせている。行動に淀みがなく、動作が最適化されている証拠だ。


 なので俺が無理に矢を叩き落としながら近付こうとしても、オットーは冷静に距離を取りながらこちらを狙ってくるだけだ。救いはオットーの弓が小型で飛距離がない事だろう。その分連射性は上がっているが。


 だがこのままではジリ貧である。俺は危険を冒してオットーに近付く事に決めた。試したい事もあるからだ。


 そうと決まれば、俺は矢を叩き落としながら前進を始める。小型弓によって連射される矢の全てを叩き落とす事は出来ないが、致命傷にさえならなければ、後でポーションドリンクで回復可能だ。なので少々の擦り傷は気にせず突き進む。


 オットーは俺の前進と同じだけ後退しながら矢を放ち続けてくる。しかし試合場は有限だ。どこまでも逃げ切れるものでもない。俺の前進は止まらず、オットーを試合場の隅まで追い詰める事に成功した。


 剣の距離にはまだ遠かったが問題ない。俺は木剣を鞭のように伸ばすと、オットーに向かって振り下ろす。


 しかしオットーもデュエルに出場する強者だ。オットーは俺の木鞭を半身になって躱すと、弓矢が武器だと言うのに、俺に向かって突進してきた。


 オットーは矢の棒部を握るとやじりでもって俺に突きを繰り出してくる。対して俺は木剣を鞭に変えてしまった事が災いし、接近戦で遅れを取る始末となってしまった。俺は鞭では対処に困る、と直ぐ様鞭を木剣に戻すが、それを察知したオットーは、直ぐに俺から距離を取り、試合場を反対側へと駆け抜けていく。


 まんまと距離を開けられてしまった俺だが、これで簡単に片が付くとは思っていなかったので、そう悲嘆していない。確認したかった事も確認出来た。


 それは木剣を他の形状にする事で反則が取られるか、だ。答えはノーだった。ラウド先生は俺が木剣を魔法で鞭状に変形させても、スルーしてくれた。これは木剣がどのような形状に変形しても、武器の特性強化の内であると俺は解釈する。


 ならばいける。オットーは小型弓の距離まで俺と間を開けたが、俺は更に距離を取り、オットーの弓の精度が落ちる距離まで後退した。


 ここまで距離を取られては、と言うぐらい試合場で距離を取った俺とオットー。オットーとして何もしようがないだろうが、俺は違う。


 俺は木剣をオットーの弓よりやや大きい中型の弓に変形させる。それを見てギョッとするオットー。慌てて近付いてこようとするがそうはさせない。


俺は弓から矢を生成し、弦に番えると、素早く弦を引いて矢を放つ。宙に弧を描きオットーの前方に突き刺さる矢。これ以上は前進出来ないとオットーは弓を構えるが、小型弓の距離としては遠い。


 オットーは連射によって命中精度をカバーしてくるが、俺はそれに慌てず、冷静にオットーの足元を狙って矢を放っていく。


 着実に足元に放たれる矢によって、オットーはジリジリと後退していくしかなく、結果またもやオットーは試合場の隅に追い込まれてしまった。しかも今度は自身の弓矢が届かない遠距離で俺が弓を構えている。


「参りました」


 万事休すを覚ったオットーは、弓を地面に置いて両手を上げて降参した。


「そこまで! ブレイドの勝利!」


 ラウド先生の宣言により、俺は弓を下ろして木剣に戻し、安堵の一息を吐いたのだった。

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