第46話 対エドワード

「えー、これより、えー、準決勝、えー、一戦目を、えー、開始します」


 俺の前には、あのいつもニコニコ笑顔がトレードマークのエドワード会長が立っている。準決勝の相手はエドワード会長だ。


「おやおや? 随分とお疲れのようですね?」


 それはそうだろう、さっきの準々決勝からさほど時間が経っていない。体力も魔力もまだ回復しきっていないのだ。


「お陰様で」


 皮肉を込めて返答すると、会長は一瞬何かを考えた素振りをみせるとこう聞いてきた。


「もしかして、ポーションで回復していないのですか?」


「は? どう言う事ですか?」


 俺は首を傾げる。


「実戦はどれも連戦になりますから、間のインターバルにポーションなどを使って、回復して良い事になっているのですよ」


 聞いてないぞ!? 俺が進行役のダン先生を振り向くと、それが正しいと頷いてみせる。


「待っていてあげますから、今のうちに回復して良いですよ」


 なんと! もしかして会長って優しい人なのか? そう思いながら俺は腰バッグからポーションドリンクを取り出し、会長の動向に注意しながらポーションドリンクを口にした。


「おや? 体力回復ポーションだけで良いんですか? 魔力の回復は?」


 余計なお世話である。


「何なら僕の魔力回復ポーションを譲りましょうか?」


 成程、会長は優しいんじゃない。俺を舐めてるのだ。絶対に自分が勝つと確信しているから、こう言う態度に出ているのだ。ならば、


「ええ? 良いんですか? そんな高価なもの頂いちゃって?」


 俺は馬鹿な振りをしてそれに乗っかろう。俺はペコペコしながら会長に近付くと、魔力回復ポーションを頂いて元の位置に戻った。その間会長は微妙な顔をしていた。どうやら会長の今までの対戦相手は、矜持プライドを持って会長の申し出を拒否していたのだろう。だが俺からしたら、下手な矜持より勝利である。勝てる確率が上がるのなら、このくらいの事はする。


 不味い魔力回復ポーションを飲みながら、後期の決闘祭では絶対魔力回復用のポーションドリンクを用意しようと心に誓いながら、改めて会長と向き直る。


「じゃあ、本気でいかせて頂きますね?」


「ええ。楽しみましょう」


 会長が「マジック・バリア」と唱えると、光の壁が会長の玉を覆う。「〜バリア」は防御系魔法でも高位の魔法だ。「マジック〜」は無属性なので、どの属性魔法にも対応出来る。その代わり少し強度は落ちるが。俺もフローズン・アース・プリズンを展開して、試合再開だ。


「フロスト・ウェーブ!」


 後の事を考えなくて良いのならと、いきなり俺は全力でいく。手を下から上に振りながら、凍気の波を作り出し、会長にぶつける。


 俺のフロスト・ウェーブに飲み込まれて一瞬姿の見えなくなった会長だが、バッとフロスト・ウェーブが左右に分かたれ、その中央で会長はにやりと笑う。


 風魔法で分断したか。だがこれで終わりじゃない。俺は既に用意しておいたファイア・アローをフロスト・ウェーブにぶつける事で水蒸気爆発を引き起こすと、ブーストで身体能力を強化して、水蒸気爆発で引き起こされた蒸気の中に突入する。


 片手にアイス・ソードを展開すると、水蒸気のもやの中、接近したマジック・バリアに守られる玉を切り裂こうと、氷の剣を振りかざした所を、横から何やら鈍器で殴られたような衝撃を受けて吹っ飛ばされる。


 なんだ!? 吹っ飛ばされた先の地面に叩き付けられ、これは攻撃だ。と俺の直感が警告するので、その場で横に回転すると、さっきいた場所に不可視の衝撃波が叩き付けられる。


 危なかった。と冷や汗が背を伝う。がまだ警告を続ける俺の直感。水蒸気の靄に目を凝らすと、不可視の衝撃波が次から次にこちらへ飛ばされてくる。会長の「マジック・ショット」だ。


 マジック・ショットは魔法使いならば誰でも使えるような初歩の魔法だが、会長のそれは威力が段違いだ。一発一発が鉄球のように重い上に、初歩魔法である故に回転率が高く、次から次と飛んでくるマジック・ショットを、アイス・ソードで捌くだけで体力がガンガン削られていく。


「はあ、はあ、はあ」


 マジック・ショットを全て捌き切った頃には、アイス・ソードは砕けて失くなり、いつの間にか蒸気の靄は晴れ渡り、会長は開始位置から一歩も動く事なく悠々とこちらの出方を窺っている。まるで、僕をここから動かしてみろ、と言っているようだ。ああ、やってやろうじゃないか。


「ファイア・アロー!」


 数十本の火の矢がエドワード会長を襲う。


「マジック・ウォール」


 しかしそれらは会長が指一本立てただけで防がれてしまった。


「グリーン・バインド!」


 ならば、と草で会長をぐるぐる巻きにして行動不能にしようとするが、


「ウインド・カッター」


 風の刃で草は切り刻まれてしまう。ぬおお、何をやっても会長に通じる気がしねえ。


「もうお終いかい?」


 ぐっ、流石に当代最強の男。隙がねえ。せめて一歩動かすぐらいの爪痕を残さねば。それにはもっと高位の魔法でなければならないだろうが、その隙をどうやって作るかだよなあ。


「ふう……、よし! サンド・ウェーブ!」


 俺は今度は細かい砂の波を作り出し、会長にぶつけるが、やはり会長のマジック・ウォールで防がれてしまう。


「今度は粉塵爆発でも狙うつもりかな?」


 周りを漂う砂を見ながら述べる会長。どうかな?


「サンド・エッジ・ストーム!」


 巻き上がった細かな砂を、全て刃に変えて敵を切り刻む攻撃結界だ。これならマジック・ウォール程度じゃ防げないだろ。


「ウインド・スーツ」


 エドワード会長が呪文を唱えると、風が会長を薄く覆い、俺のサンド・エッジ・ストームを弾き返す。が、それもどこまで続くかな。ウインド・スーツは風を巻き上げて身体を覆うが、俺の細かい砂の刃を全て防ぎ切るには至らないだろう。


 と高を括っていたら、会長は更に「ブースト」と唱えて、俺の砂刃の結界を突っ切ってこちらに急接近してきた。


「くっ!」


 距離を取ろうとするも時すでに遅く、会長に腕を掴まれてしまった。


「シェッド・サンダー」


「ぐわはッ!?」


 強烈な電雷を身体に流し込まれ、俺は、砂刃で傷だらけの顔でにこりと微笑む会長を見たのを最後に気を失った。

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