第47話 〈武術・演武〉

「凄かったよ! ドーンッ! のバーンッ! のドッカーンッ!! って!!」


 少し遅めの昼食を、学院の食堂で家族と取る。俺が準決勝でエドワード会長に敗れ、気絶してしまった為に見れなかった、エドワード会長とアーネストさんの戦いを、ノエルが一所懸命説明してくれているのだが、何言っているのか分からない。


「ふん、準決勝までとはレベルが違っていたな。あの二人の実力は、他の学生たちとは頭一つ二つ抜きん出ていた。試合場を立体的、多角的に使った戦術は中々見事だった」


 祭りだからか、普段より少し豪華な、食堂の肉入りシチューに口を付けながら父がそう語る。父が他人を褒めるなんて珍しい。それだけ見応えのある戦いだったのだろう。


「ふん、ブレイドこそあの戦いを見ておくべきだった。気絶とは情けない」


 はい。申し訳ありません。


「まあ、次の〈武術・演武〉も見応えあるから、良く観察しておく事だ」


「へえ、そうなの?」


「個人の演武も凄いけれど、集団演武が凄いのよ。一糸乱れぬ集団演武は壮観よ」


 と母。そうなんだ。俺も〈武術・演武〉に出場するんだけど、時間を作って出来るだけ見学してみよう。



「惜しかったわね」


 食後、また祭りを見に回ると言う家族を見送った俺に、そう言って話し掛けてきたのはマイヤーだ。カルロス、アイン、ショーンの姿もある。皆、俺を労うような眼差しだ。


「惜しくも何ともねえよ」


 それに対して、何だか情けない所を見られたみたいで顔を背けてしまう。


「で? ブレイドって破廉恥なの?」


 四人がニヤニヤと笑う。


「お前らなあ」


 その話題をここで持ち出すなよ。


「冗談よ。はい、これ。ポーションドリンクの売り上げ。良かったわね、全部売れたわよ」


 おお! そうなのか! 初の研究発表で完売は中々凄いんじゃないか? あ、ちゃんと自分たちの取り分は差し引いてる。



 カルロスたちと合流し、俺たちは既に始まっている〈武術・演武〉を見にやって来た。会場はシージでも使った学院前の原っぱだ。観客はシージに比べればまばらだが、それでもかなりの人数が会場を取り囲んでいた。


 会場では丁度一つの集団演武が行われていた。槍の集団演武で、三十人の掛け声から一挙手一投足までが揃っており、確かに壮観だ。


 基本陣形は十人三列で、三列一斉に槍を突いたり、順々に突いたり、円形や方形に陣を変えたり、十五対十五に分かれて対戦演武を見せてくれたり、それらが一糸乱れぬ統率された動きをしてみせるのだ。集団が揃った動きをしてみせてくれると言うのは、それだけで心に訴えるものがある。


 続いて演武が続々披露される。剣、槍、弓など、様々な武器、または徒手空拳で、様々な人数で披露される演武は、研鑽の程が窺い知れて、〈魔法・研究発表〉とはまた違った趣きで面白い。


「何か緊張してきたかも」


 演武の披露中、観客は声を発する事なく、シンと静まり返り、演武が終わると一斉に拍手が贈られる。そこにも差があり、下手な演武をみせると拍手は疎らだし、素晴らしい演武であれば満場の拍手に迎えられる。これは緊張するな、と言う方が無理があるだろ。



「次、ブレイドくん!」


 演武の進行をする先生に呼ばれ、俺は会場中央に向かう。シージの時と比べれば、すんなり会場に入れた。会場中央に立つと、周りを囲む観客の視線が俺一人に集中する。


 木剣を中段に構える。自分がヴォーパル一刀流なのかどうかは分からない。が、俺が父から教わったものを出し切るしか出来ない。


 まずは仮想敵は一人。木剣を振り上げ上段から真っ直ぐ敵に振り下ろす。一刀両断に切り裂かれる仮想敵。


 次の敵。上段から振り下ろしてくる剣を半身になってかわし、そのまま相手の胴を薙ぐ。


 次は二人。前後に挟まれた設定。前の敵が牽制を仕掛けてきて、そこに後ろの敵が斜めに振り下ろしてくるのを、振り向きざまに下からカチ上げるように木剣を振るって相手の上体を跳ね起こし、ここに前の敵が胴を薙ぎにくるので、それを木剣で受けて弾き返す。


 返す刀で後ろの敵の喉を突き、また前を振り返り、体勢を立て直した敵と、一合二合と切り結び、三撃目を後ろに引いて躱すと、振り下ろして空いた敵の胴体を、斜めに切り裂く。


 次は三人。俺を中心に三角形に陣取る三人は、左回りに円を描くように動く。俺はそれに対して同じく左回りに、いつ攻撃してきても良いように合わせる。


 攻撃の基本はやはり隙を突く事だ。三人が牽制してくるのを、こちらも牽制しながらの睨み合い。真後ろ取らせないように気を付けながらも、俺を取り囲む陣は段々と狭まってくる。


 剣が届く距離になり、三者一斉に攻撃してくる。中央にいても切られてお終いなので、前方の一人に向かって一歩前に出て、剣を合わせてこれを弾き退かせ、俺が動いた事で軌道を変えてきた後方の二人の剣を、一人は弾き返し、一人は受け止める。


 受け止めた敵が更に押し返してきたので、これを透かし、相手が体勢を崩した所を首をねる。そこを狙って一人が後方から振り下ろしてくる剣を、振り返って避けながら胴を薙ぐ。


 残る一人と向き合う。互いに左回りに距離を取りながら隙を窺い、ジリジリと距離を詰め、今度は先に剣を振るう。上段から斜めに剣を振り下ろすと、敵はそれを一歩引いて躱し、振り下ろして出来た隙を狙って首を突いてくる。


 それを身体を横にずらして紙一重で躱すと、木剣を切り上げて敵の手首を切り落とすと、無防備になった敵を上段から一刀両断にしてみせる。


 終わった。四方の観客に向かって礼をすると、返ってきたのは何とも微妙な拍手だった。カルロスたちの元に戻ってどうだったか尋ねる。どこか悪かっただろうか?


「いや、どこが悪かったって訳じゃないけど、何か、演武と言うより演技を見てるみたいだった」


 う〜ん、演武は難しいな。

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