第41話 ポーションドリンク

 俺の家族とショーンの両親はしばらく歓談した後、一緒に魔法実験室での研究発表を見て回る事になり、リオナさん、ナオミさんを引き連れ、早々にこの場を後にした。


「ふ~ん、これがポーションドリンクねえ」


 マイヤーが珍しい物を見るようにポーションドリンクを様々な角度から覗き込む。


「試しに飲んでみるか?」


 俺がコップに少量注いで試飲を進めると、


「いやあ、止めとく」


 拒否するマイヤー。これが普通の反応だろう。苦いポーションは怪我を負った有事でなければ、余り飲みたいと思わない代物だ。


 しかしそれでは困る。皆の駄賃は売り上げの二割なので、ポーションドリンクが売れなければ、当然俺の儲けも減るし、皆の駄賃も減るのだ。


「いや、俺は飲んでおくぞ」


 とカルロスが勇んでコップを手に取った。匂いを嗅ぎ、変な匂いがしない事にまず驚き、意を決してゆっくりと口を付ける。


「あ、甘くて美味しい」


「だろう?」


 カルロスが生け贄になった事で、マイヤー、アイン、ショーンも口を付ける。


「美味しい、かも。すっきりしてほんのり甘い」


「確かに。苦味はあるけど、嫌じゃない」


「ポーションってこんなに飲みやすくなるのか?」


 三人にも好評のようだ。これなら売り上げも期待出来るかも知れない。


「これを一本一万キルクルスで売りたいと思うんだ」


「ポーション一本、相場であれば一万八千キルクルス。効果半減で飲みやすさアップして一万キルクルスなら、売れそうだな」


 土産物屋の息子としてカルロスが売れると明言してくれる。


「ただ、試飲は絶対必要だな。ポーションは苦いって刷り込みがあるからなあ」


 確かに。俺は水魔法でコップを洗いながらカルロスに同意する。試飲をし過ぎると売り上げが減るが、そもそも売れなければ売り上げに響く。


「試飲は適宜やっていく感じで宜しく」


 四人が首肯してくれたので、これより販売開始である。



 販売開始をしてみたものの、出だしは芳しくない。看板も設置し、カルロスとマイヤーが呼び込みをしてくれているが、皆遠くから見るばかりだ。


「う~ん、試飲さえして貰えれば、価値を分かって貰えると思うんだけどなあ」


 この学院には、貴族の子女が多く通っている。金が無い訳ではないだろう。それに今日は来賓も多く、学生たちの家族も来ているんだ、爵位持ちが一万キルクルス払えないと言うのも残念な話だ。


「何が分かって貰えるんだい?」


 そんな中、声を掛けてきたのはアーネストさんだ。三年生の取り巻きを引き連れ俺たちの前に現れた。


「ポーションを売ってるんです」


「ポーションを? 一万キルクルス? 随分安いな?」


 アーネストさんの話では、研究発表で販売されるのは試作品と言う事もあり、二万以上はするのはざら、中には素材に拘り抜いて十万キルクルス以上の値段の物もあるらしい。一万キルクルスと言うのは、安過ぎて逆に警戒心を煽っていたようだ。


「俺たちが売っているのは、ポーションはポーションでもポーションドリンク、効果を半減させた上で、味を追及したものなんです」


 そう言ってカルロスが試飲用のコップをアーネストさんに差し出す。


「へえ、面白いね」


 アーネストさんは好奇心を刺激されたのか、コップを受け取ると、やはり匂いを嗅ぎ、嫌な匂いがしない事を確認してから、ポーションドリンクを一気にあおった。


「お? これは……!」


 飲み干したコップをしげしげと眺めた後にカルロスに返すと、アーネストさんは、


「五本、頂こうかな」


 おお! 初めての売り上げだ。


「ありがとうございます!」


 そう言ってポーションドリンクを五本差し出す俺。アーネストさんはそれを受け取ると自分のマジックバッグに仕舞い込んだ。


「これは傷の治療や体力の回復だけなんだよね?」


「? そうですけど?」


「なら次からは魔力回復のポーションドリンクも置いておくと良いよ。学院には竜の契約者が多くて、魔力持ちがいるんだから」


 成程、その視点は欠けていたな。村にも竜狩りは多数いる。魔力回復のポーションドリンクは売れるだろう。


「貴重な助言ありがとうございます!」


 アーネストさんがポーションドリンクを購入した事が呼び水となって、まずアーネストさんの取り巻きが購入。更にそれを遠巻きに眺めていた学生や来賓が徐々に集まってきて、試飲から購入の流れが出来始めていた。


「僕はそろそろ自分の番だから」


 ここでショーンが抜ける事に。魔法実験室のメインステージで、魔法の研究成果を披露する為だ。


「ショーンって何やるんだっけ?」


 マイヤーは聞き難い事でもズバズバ聞くよな。まあ、俺も気になっていたけど。ショーンは秘密主義なのか、サプライズ好きなのか、今日まで教えてくれなかった。


「ふふ、気になるなら見に来て良いんだよ?」


「え? いいよ、今忙しいし」


 とすげないマイヤー。


「ちょっとは僕に興味を持て!」


 ショーンにそう言われたので、皆で相談し合い、アインがショーンの研究発表を見に行く事になった。



 その後、ショーンの研究発表を見てきたアインの感想。


「いや、普通だったよ。ファイア・アローとアイス・アローの魔力量を抑えて、威力と数を増してた」


 結構ベーシックな事をしていたんだな。

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