第23話 南の森

 学生生活と言うものは、とかく金が掛かる。ネビュラ学院は元々が貴族の子女が通う学校だっただけあって尚更だ。


 図書館の利用料だけでなく、教科書などの初期費用、寮に入れば寮費、竜舎の使用料に昼の学食ととにかく金が掛かる。まあ、実家通いに昼は母が持たしてくれた蒸かし芋、教科書などの初期費用と竜舎の年間使用料を払い終えている俺には、関係ない話だが。


 そして金の無い学生が何をするかと言うと、


「何で俺が休日に魔物狩りに駆り出されなきゃいけないんだ」


 俺は四日に一度訪れる休日に、カルロス、マイヤー、アインの三人に呼び出され、魔物狩りに連れ出されていた。金の無い学生がやる事が、この魔物狩りである。


 場所は王都から川を越えて南下した場所に広がる森である。ここにはそれなりに魔物が生息しており、魔物が溢れて王都に侵攻しないように、魔物狩りを生業とする者たちや、俺たちネビュラ学院の学生によって、退治する事が推奨されている。


「まあ、そう言うなよ。友人の学生生活が掛かってるんだから」


 俺の肩に手を掛けながら語るカルロス。俺と同じ平民の出。支出に困るのも理解出来るが、


「はあ。カルロスは分かるけど、マイヤーとアインはどうして?」


「勿論修行よ!」


 二人して熱く拳を握っている。はあ、俺としてはこの森で魔物狩りをするより、父に稽古をつけて貰った方がマシな気がするんだが。



 軽口を交わしていたのも、森の入り口までだ。一歩森に踏み入ると、高い木々が鬱蒼と生い茂る森は日射しが入らず薄暗く、何かの気配をそこかしこで感じる。


 俺は鞘から木剣を抜き、カルロスはダガーを二本構え、マイヤーはハルバードを、アインは槍を構える。


 気が逸るマイヤーを先頭に、アインが右、カルロスが左を警戒し、俺は殿しんがりを行く。


 ガサリと右前方の草むらから音がして、皆の視線がそちらに向く。ガサガサと言う音と揺れる草むらに、警戒が最大級に引き上げられた所で、何か嫌な気配を感じて左後方を振り返ると、角兎アルミラージが三匹、目前まで迫っていた。大きい。嵩が俺たちの腰まである。


「後ろだ!」


 俺の声に三人が左後方を振り返る。と同時に、後方のアルミラージが額の角で突き刺すように突進してきた。俺たちがそれに備えようと後方に体勢を向き直した所で、先程の草むらから、更に三匹のアルミラージが飛び出してきた。小癪な! 野生の魔物の癖に挟み撃ちだと?


 カルロスとマイヤーは既に後方の三匹に意識が向いている。挟撃に気付いた俺とアインが前方を相手取る。


 アルミラージはこちらが挟撃に気付いたと分かると、ピョンピョンと左右に飛び跳ねてフェイントを入れながら、三匹で時間差で攻撃してくる。


 しかしアインは冷静にそのフェイントに槍の穂先を合わせ、二匹を貫き、その間隙を縫って懐に入ってきた一匹も、俺の木剣でもって首を落とす。


 振り返って後方を任せたカルロスとマイヤーを手助けしようとするが、既に決着しており、三匹のアルミラージは事切れていた。


「え? そっちにもいたの?」


 マイヤーは今になって気付いたようで、驚いていた。呆れる俺たち。ちょっと一直線過ぎやしませんかマイヤーさん?


 倒した数は俺とカルロスが一匹、マイヤーとアインが二匹だ。俺たちは六匹のアルミラージの死体から、直ぐに魔核を取り出す。魔物は倒したら直ぐに魔核を体内から取り除かないと、死体が魔核の魔力のせいで傷んで駄目になってしまうからだ。


「これからどうする?」


 俺は自分が倒したアルミラージ一匹の魔核を腰バッグに仕舞いながら、三人に尋ねる。まだ森に入ったばかりで、入り口さえすぐそこに見えている。だが倒した六匹のアルミラージをこのままにしていくのはもったいない。肉も毛皮も需要があって金になるからだ。


「当然戻って交換所で金に換えるさ!」


 カルロスの一言で、俺たちは六匹のアルミラージの死体を持って、森の入り口にある交換所に向かった。



「一匹五千キルクルス。六匹で三万キルクルスだな」


 魔物交換所は森の直ぐ側に建てられた、砦のような建物だ。実際昔は砦として使われていたとか。


 魔物狩りやネビュラ学院の学生が次々と仕留めた魔物を持ち込み、まだ午前中だと言うのに、交換所は賑わっている。


「たった五千? もっと高くならないのかよ」


 初めての魔物退治で意気揚々と交換所にやって来たカルロスだったが、思いの外安く値段を付けられた事に少しごねている。


「アルミラージは数が多いからな。肉も筋ばって美味くないし、魔核も無いんじゃこんなものだ」


 交換所も卸売業なら、ここで余り高値を付けられたないだろう。魔核は授業でも使うので、ネビュラ学院の学生は換金しない。


「はあ、五千キルクルス。中々厳しいぜ」


 カルロスは交換所のおじさんから渡された五千キルクルス分の硬貨を握り締め、それを財布に突っ込んだ。


「よし! 次行くぞ! 今度はアルミラージより大物を仕留めてやる!」


 意気込むカルロスだったが、午前中俺たちが遭遇したのは、アルミラージだけだった。合計二十匹。それも森に入って直ぐで、俺たちは魔物狩りをしている時間より、森と交換所を往復している時間の方が長かった。

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