第22話 学内探検

「練武場よ!」


「図書館だろ!」


 マイヤーとカルロスが、どっちから先に行くか言い争っている。


「ネビュラ学院と言ったら武の総本山! 練武場を見ないでネビュラ学院は語れないわ!」


「何言ってるんだ! ネビュラと言ったら知の総本山! 図書館にはガラクはおろか世界中から本が集められ、納められているんだぞ!」


「そんな場所に最初に行ったら、それだけで一日終わるじゃない!」


「そっちだってなんだかんだ理由を付けて、練武場に居座るつもりだろ?」


「ブレイド!」


「ブレイド!」


 決定権が俺に移った。そんな、懇願するように俺を見られても困る。俺は助けを求めてアインの方を見た。


「ここからだと、魔法実験室が近い」


「らしいよ」


「まあ、近い所から行くのは常識ね」


「だな」



 魔法実験室は存外広かった。室と言うわりに、ホールくらい大きい。聞けば竜も飛べるらしい。その中で上級生たちが魔法の実験をしている。


 今は風属性の魔法でどれだけの重量物を持ち上げられるかや、魔法の効率化を図り、使用魔力量を抑える実験が行われていた。


 その中で成竜と変わらない重さの箱を、空中へと噴射している先輩がいて驚いた。竜のブレス並みの威力だな。



 次は図書館だ。入り口から見ても本当に本がズラリと並べられ、五階建ての図書館の本棚が本でほぼ埋まっていると言う。近々増築するそうだ。


 カルロスは大喜び。勇んで図書館に入ろうとするが、図書館は有料で、年間使用料を払わねばならず、本の持ち出しにもまた金が掛かると言う話で、俺には縁遠いなあと思った。俺以外の三人は年間使用料を払って中を見ていたが、俺は使用料を払うのをけちって外から眺めていた。



「なんか悪かったな」


 俺のせいで図書館での時間は短くなってしまった。


「良いよ。何がどこにあるのかは大体分かったからな」


 カルロスはやはり良い奴である。


「さあ、次は練武場よ!」



 練武場もまた広く、剣などの接近戦武器、槍や大斧などの長物、弓や投擲系、無手での格闘術とフロアが分けられていた。ここは活気と言うか熱気があり、皆真剣に武術に打ち込んでいた。


 一番人気はやはり剣なのか、剣術の稽古の様子を見る一年生の人だかりが出来ている。俺たちもその輪に混ざって剣術の稽古を見ていると、どうやらこれから一対一の試合をするようだ。


 両者真剣を中段に構え、先生の合図で戦い始める。両者の力は拮抗しているようで、戦いは白熱していた。父よりは劣るが二人共確実に俺より強い。片や変幻自在のスピード重視、片や一太刀に全てを乗せる剛剣。タイプは違うが、押しつ押されつの良い勝負で、最後は剛剣をかわしきったスピード重視の剣士の剣が、剛剣の剣士の喉元に突き付けられ決まった。


「熱かったわね!」


 マイヤーは熱気をそのまま持ち帰ったようで、手足をブンブン振り回して興奮している。アインも顔には出さないが、手に力が入っている所を見ると、かなり熱いものを感じていたのだろう。カルロスは少し引いていた。


「俺、授業についていけるかな?」


 などと弱気な台詞まで飛び出す始末だった。「大丈夫だろ」と俺は気楽に返しておく。こう言うのは気にし過ぎたら駄目だと思う。



 学院から外に出ると、上空を何頭もの竜が横切っていく。竜たちは速さを競っているらしく、時に身体を激しくぶつけ合いながら、同じコースを何周も周回していた。トップは完全にリードしていたが、二位は接戦だ。争っているのは焦茶の竜と空色の竜。シエロだ。


 シエロは終盤まで焦茶の竜に食らい付いていたが、体格に勝る焦茶の竜のアタックに耐え切れず、徐々に距離を離されていき、三位に終わった。



「リオナさん」


 俺はレースを終えたリオナさんとシエロに声を掛ける。


「惜しかったですね」


「いえ、完全に力負けです。まだまだですよ。そちらはお友達ですか?」


 俺はリオナさんにマイヤーとアインを紹介した。


「凄いですね騎竜レース! こんなに間近で見たのは初めてです!」


 またもやマイヤーは大興奮で、リオナさんにもぐいぐい話し掛ける。


「そうですね。これが最後のレース。三位は有終の美かも知れません」


「え? 騎竜レース辞めちゃうんですか?」


「遠方からの通いに変えたので、研究コースは受けない事にしたんです」


 ネビュラ学院の授業には一般コースと研究コースと言うものがある。一般コースは学生全員が受ける授業で、研究コースは剣術や魔法、騎竜などのそれぞれに特化した選択授業だ。


 研究コースは一般コースの授業の後に行われる為、俺の家からの通いであるリオナさんは、帰りが遅くなると言う理由から研究コースを辞退したらしい。


 それで良いのか? と父が尋ねると、「斬鉄を覚える為」とリオナさんはきっぱり言い切ったので、未練はないようだが、同じく騎竜を学ぶ同志は違うようだ。


「リオナくん! 辞めるなど言わずに、考え直してくれないか?」


 周りの人間たちが口々に言っているが、リオナさんは困ったようにちょっと引いていた。



「良かったんですか?」


「ええ」


 三人と別れ、アルジェントとシエロに乗っての帰り道に尋ねてみた。どうやら前期のリオナさんは騎竜の研究コースではお荷物扱いだったらしい。だから研究コースの先生も他の学生も、リオナさんが辞めると言っても気にしていなかったそうだ。それが今日のレースで三位となった事でリオナさんの価値が急上昇した為の「辞めないで欲しい」となったんだそうだ。


「人間って現金ですよねえ」


 遠くを見るリオナさんの瞳は、何かを悟ったようだった。


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