第20話 初日の洗礼
朝、始業前になると、続々と各家から騎竜が飛んでくる。その光景はネビュラ学院の名物なんだとか。俺とアルジェント、リオナさんとシエロもその群れに紛れ、ネビュラ学院に降り立つ。
ネビュラ学院の竜舎は大きい。ネビュラ学院は通算四学年あるそうで、要塞のような学院施設の両端に、1、2年と3、4年に別れて竜舎があり、更に各学年ごとに竜舎が存在する。
俺は二年のリオナさんと別れ、一年の竜舎に入った。
「新入生だね! 入学おめでとう!」
アルジェントを連れて竜舎に入るなり、厩務員らしき若い男の人にそう言われた。
「ありがとうございます」
「うん、言い返事! 君の竜は少し小型、と言うよりまだ幼竜か。小型の竜であれば向こうだけど、まだ大きくなりそうだし、あっち中型の竜舎でいいよ!」
「分かりました」
厩務員さんに促されるまま、俺は中型の竜舎にアルジェントに入って貰う。
「君の竜は素直で良いね」
様子を見ていた厩務員さんに褒められた。
「そうですか?」
「竜は我が強いのが多いし、こういう狭い所に押し込められるのを嫌がる竜も少なくないんだよ」
と厩務員さんが言ってる側から、竜舎の向こうで竜が暴れている。ああ、成程。自分の竜が言う事を聞かずにあわあわする新入生らしき男の元に、俺の前にいた厩務員さんは颯爽と現れ、手綱を掴むとあっという間に暴れていた竜を鎮めてしまった。凄いなあの人。
「あ、いた。おーい! ブレイド!」
名を呼ばれたので振り返ると、カルロスが手を振っている。俺はアルジェントにしばしの別れを告げてから、カルロスの元に向かった。
「おっ、制服サマになってるじゃないか」
「カルロスもな」
俺たちは握手をして再会を喜び合う。ネビュラ学院の制服は赤を基調にしたもので、所々入る差し色で学年を見分けている。俺たちの年代の差し色は青で、二年のリオナさんの差し色は白だ。
俺とカルロスは、連れ立って始業式が行われるホールに向かった。
「知ってるか? 俺たちの世代、黄金世代って呼ばれているらしいぞ」
「黄金世代?」
「ああ。何でも試験の結果が滅茶苦茶良かったみたいでよ。十年に一度、いや、百年に一度の凄い面子が揃っているんだとか」
へえ、黄金世代とは大仰だな。とカルロスと取り留めのない話をしていると、
「おい! 一年!」
と強い口調で呼び止められた。ちらりと差し色を見ると白、リオナさんと同じ二年生だ。三人連れ立ってこちらを睨んでいる。
「なんでしょうか?」
「ちっ、なんでしょうか? じゃねえよ。挨拶だよ」
挨拶?
「おはようございます!」
カルロスは何かに気付いたのか、ハッとなって大声で挨拶しているが、俺にはさっぱり分からない。が、お前もやれ、とカルロスが肘鉄を食らわせてくるので、
「おはようございます?」
と一礼をした。
「なんだそりゃ? 挨拶してるつもりかよ。今年の一年はなってないみたいだなあ」
あれ? 俺たちなんか絡まれてるのか? 訳が分からず棒立ちしていると、二年生の一人が近寄ってきて、足をグリグリ踏みつけ出した。ああ、これは完全に絡まれてるな。
「聞いてんのかよ!」
いえ、面倒臭いので聞き流しています。
「挨拶ってのはこうやるんだよ!」
足をグリグリやっていた二年生が俺の髪を掴み、無理矢理頭を下げさせようとした所で、
「何をやっている!」
と聞き知った声が廊下に響く。声の主を見れば、やはりリオナさんだった。
「ああん? はっ、誰かと思えば、落ちこぼれのリオナ・バンシャンじゃねえか」
落ちこぼれねえ。まあ確かに一年後輩の俺より弱いしな。リオナさんがネビュラ学院の基準だとは思っていなかったよ。
「もう一度言う。何をしている?」
リオナさんはかなり頭にきているようで、今にも木剣を抜いて切りかかりに行きそうだ。だが対する二年生三人組はそれも意に介さず、ニヤニヤしている。
「何って、指導だよ。先輩への礼儀ってものを、後輩に教えてやってるのさ。こういう風にな!」
俺の髪を掴んでいた男が、髪を引っ張って無理矢理お辞儀をさせようとするのと、リオナさんが木剣を抜く動作に入るのは同時だったが、それより先に、男の声が廊下につんざく。
「それまでだ!!」
余りの声の大きさに耳を押さえ、その主を見遣れば、ラウド試験官が廊下の向こうから、肩をいからせ歩いてくる。
「何事だ!」
「いえ、別に、後輩の髪に糸屑が付いていたので、取って上げようかと思っただけで」
俺の髪を掴んでいた男は、慌てて取り繕うが、
「ダスティンはブレイド殿の髪を掴んで、無理矢理お辞儀をさせようとしていたのです!」
義憤に駆られるリオナさんが告発する。何て事言うんだ、って顔でリオナさんを見る二年生三人組。
「いや、違うんですよ、ラウド先生。一年の挨拶がなってなかったから、今後学院生活をしていくのに駄目だよ。と注意したまでで」
何とかその場をやり過ごそうとする三人組に、話を聞いていたラウド先生は、
「うむ、分かった。では決闘だ!」
と決闘を提案するのだった。え? 何が分かって、決闘って流れになったの?
「良いか、学院において、また、社会においても、強者の意見が尊重されるのは自明の理! 持論が正しいと主張するならば、それを強さによって掴み取ってみせよ!」
俺たちは受験の武術試験の時のような、
白線のマスに連れてこられた。マスの中にいるのは二年生三人組と、俺、リオナさん、そしてカルロスだ。丁度三対三で良いだろう。とのラウド先生の主張だが、向こうは二年生三人で、こっちには一年生が二人もいるのだが? そして周りを取り囲むギャラリーはなに?
「ど、どどどどどどどうしようブレイド! 登校初日にいきなり決闘なんて」
相当怖じ気付いているだろうに、二本のダガーを構えるカルロス。
「カルロスは何もしなくて良いよ。俺とリオナさんで仕留めるから」
俺の提案にリオナさんは頷き返してくれるが、カルロスは、
「二年生三人相手に二人って、本気かよ?」
と心配そうだ。
「大丈夫だよ。いくら何でも、ウチの父親より強い事はないだろ」
「それは保証します。あの修行に比べたら、このくらい、窮地でさえありません」
そう言って俺とリオナさんは木剣を抜く。すると三人とギャラリーから笑いが巻き起こる。
「まさか
「そうだけど?」
会場中が大爆笑である。一部笑っていない者もちらほらいるが。
「ラウド先生、早く始めましょう。こいつらにこんな情けない姿を晒させ続けるのは忍びない」
俺の髪を掴んだ二年生の男が、早く決闘を始めるように立ち合いのラウド先生に促す。
「うむ。ではこれより決闘を始める!」
ラウド先生の合図で始まった決闘。ニヤニヤと剣を構える三人組に向かって、俺とリオナさんは駆け出す。その速さにギョッとする三人。慌てて対応しようとするが、遅い。
俺とリオナさんは左右に別れ、まず左右の二人の剣を、俺は切り捨て、リオナさんは叩き落とす。そして返す刀で一撃加えて二人を気絶させ、次に慌てて俺に向かって薙いできた二年生の剣も、木剣で切り捨て、リオナさんとの挟み撃ちで一撃与えて気絶させた。
「そこまで!」
まあ、こんなものだろう。俺たちは木剣を鞘に仕舞い、「勝った!」と喜び駆け寄ってくるカルロスとハイタッチを決めた。
しかし俺、いつの間にか斬鉄が出来るようになってたんだな。
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