第四話 魔法と闘気


 翌朝目を覚ますと、すでにガリウスは動き始めていて、朝食まで作っていた。

 

 「やっと起きたか。

  ほれ、さっさと食べてはじめるぞ」


 昨日のスープに雑穀が入った、旨みたっぷりの即席野菜がゆだ。

 口にかきこみ、味わいながらも急いで飲み下す。


 一時も無駄にするわけにはいけない。

 俺が食べ終わるの見計らったように、ガリウスから質問がとんできた。


 「まずは手前を確認したい。おぬし、魔法は使えるか?」

 「いえ、聞いたことがある程度です」

 「ふむ、それでは闘気の扱いは知っておるか?」

 「……トウキ? 初めて聞きました」


 俺の返事に、なるほどの……とガリウスが独り言ちた。

 魔法は、上流階級のみ学べるものだと聞いていたし、そもそも『闘気』なんて聞いたこともなかった。


 「実践より知識が必要かの。それでは座学からじゃ」


 ガリウスはそう言うと、ぎっちりと本の詰まった棚より何冊かを引き抜き、俺へと差し出し説明を始めた。


ーーーーー



 まずは魔法について



 魔法とは、自身の魔力を媒介として、地脈や自然エネルギーに干渉し、超常現象を引き起こすことをいう。

 『あらかじめその質量・威力を定義し、それに従い魔力を放出する』それが魔法である。


 そして魔法の基礎となるのが、四大元素 〈 火・土・風・水 〉 である。

 これは魔導の祖とも呼ばれる、霊神サルミリオスの圧倒的な力を目の当たりにした者たちが、その力に畏怖の念をいだき、この四大元素について長年の研究を重ね、その使用方法を発展させてきたことが理由だ。


 一般的にその難易度等により、初級・中級・上級・超級・神級・霊級などに分けられている(霊級にいたっては一般の使用者が確認されていない、人智を超えた破壊力になるとのことだ)。


 他にも、生命循環に干渉する〈回復・解毒・成長〉や〈結界〉など数多く体系が存在する。

 昨日負った傷が癒えていたのも、ガリウスが回復魔法を使用していたからだった。


 魔導の本質とは、世の万物に通ずる真理である。

 魔力さえあれば、何でもできる、無限の可能性があるということだ。


 そして肝心の魔法の使用については、詠唱・無詠唱・魔法陣の3つのパターンが基本となり、それぞれにメリット・デメリットがあるとのこと。

 

 〈 詠唱 〉

 メリット :魔法の質量・威力の定義が正確に反映される。

       難易度の高い魔法の再現度が高くなる。

 デメリット:単騎での戦闘において、圧倒的な隙が発生する。


 〈 無詠唱 〉

 メリット :魔法の放出までを最短で行うことができる。

 デメリット:魔法の質量・威力に対する正確なイメージがないと、発動が困難になる。


 〈 魔法陣 〉

 メリット :魔石や複数人から魔力を供給して発動することができる。

       結界や転移など、膨大な魔力を使う場合に適している。

 デメリット:設置するまでに時間がかかるため、予め用意しておく必要がある。


 現代における魔法戦闘においては、無詠唱が主流とされており、自身の得意な属性に特化していくことが、手っ取り早いというのが、ガリウスの見解であった。


 

 次に、闘気を利用した、近接戦闘の方法について



 闘気とは、身体や武具の強化に利用するために、体内の魔力を変換したものを指す。

 それを使用することにより、身体能力や武具の性能を飛躍的に高めることができるとのことだ。


 例えば、昨日遭遇した魔獣タイラント・ベアには弓矢が通用しなかったが、闘気を纏った一矢であれば、込める闘気の量によっては突き刺さり、あるいは貫通していたらしい。


 ただこの扱いは魔法に比べると非常に繊細で、特に武具に闘気を纏わせるとなると、それなりの修練を積まなければ戦闘に活かすことは難しいとのことだった。

 また、身体から遠くなるほど闘気を維持することが困難であるため、弓矢や投擲などの遠距離攻撃を想定した武具には適合さず、専ら近接戦闘に特化した運用となるとのことだ。

 そもそも遠距離攻撃は魔法の専門分野であるため、闘気を使用するメリットがないのだけれど。


 ここまで聞くと、身体強化のみ使用できればいいと思ったけど、そういうことでもないらしい。

 低廉な武器でもその性能差を埋めることができ、また消耗も抑えられるとのことで、流れの傭兵や冒険者など、財力に乏しいものであれば、必須のスキルであるとのことだ。



 そして蛇足にはなるが、魔法・闘気の他にも『天与』というものがある。

 これはこの世に生を受けた時に、一握りの者が絶対神より授けらる力のことを指す。


 例をあげると、光神レギオムと月神メルベアがこれを与えられている。

 

 レギオムは太陽光の膨大なエネルギーをその身に宿し行使することができ、それに対してメルベアは、月の膨大な引力や影・闇を自在に操ることができるという、とんでもない力を持っていたらしい。

 

 誰もがそこまで強い能力を持っているわけではないが、総じて強敵であることは間違いないとのことだ。



ーーーーー


 「魔法と闘気についての説明は以上じゃ。何か他に聞きたいことはあるか?」


 ……思っていたよりも数倍わかりやすくて驚いた。

 古典的な話をされると思いきや、現代における戦闘理論のようなものまで知っているとは。


 気になって後で話を聞けば、少し前に教鞭をとっていたとのことだった。

 暇を持て余し、そのようなこともしていたらしい。

 仙神の授業を受ける生徒の図を想像したら、なんだか笑える。


 ……話が逸れたが、ガリウスの話からいくつか気になることがあった。


 「魔法と闘気って両立するものでしょうか?

  どちらも魔力を使うと聞いたので、困難なものかと思ったのですが」

 「結論から申せば、両立する。ただし魔力の総量が多い者や、その扱いに長けた者に限るがの」

 

 まあ、予想通りの回答ではあった。


 「そしたらどちらか一つを極める方が強いのでは?」

 「いや、そうとも限らぬ。

  魔法使いは、近接戦闘を不得手とし、闘気使いは、敵の間合いでなければ本領を発揮できぬ。

  そうであれば、相手に合わせて戦闘方法を変えられる方が圧倒的に有利じゃ。

  勿論、両分野における技量が一定水準を超えていなければ、話しにならんがの」


  ……なんて欲張りな理論だ。

  つまり、あまり人がやっていないことをやれば強いということ。

  ジャンケンでいうところの後出しができる、それが魔法・闘気の両立である。


 「……俺にそんなことができますかね?……」

 「愚問よ。ワシを誰と心得る。

  才のあるなしなど関係ない、身につけるまでさせるだけのことよ」

  

 全く自信のない俺とは対照的に自信満々のガリウス。

 ……ガリウスさん、ちょっとずつスパルタのきらいがチラリと垣間みえてきている。

 

 まあ何はともあれ、やるしかないのだ。

 相手が魔法・闘気の二つを駆使すれば、こちらの勝ち目が薄くなる。

 俺のように仲間がいない者であれば、身につけることはなおのこと必須。


 修行あるのみだ。


 「……わかりました。それでは何から始めますか?」


 俺の問いに対して、ガリウスが不敵な笑みを浮かべる。

 ……もう嫌な予感しかしなかった。


 たっぷりと含みを持たせ、ガリウスは答えた。


 「勿論、全部じゃ」

  

 ……こうして、怒涛の修行生活が幕を開けることとなった。

 契約により逃れることのできない、デスマーチ開始の合図である。 


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