第28話 JKアイドルさんとテスト結果02

 

 月曜日、テスト結果が紙で渡された。


 全体で11位。

 全7教科で4教科がクラス内最高得点。

 クラス内で1位を取れなかった残り3教科は、現国2位、物理2位、古典3位の3つ。

 当然、桜咲は同じクラスなので、この中のどれかに桜咲の方が上の教科があったら俺の負け。

 あるとすれば古典か……?


 桜咲は余裕の笑みを浮かべながら横目でこちらを見てくる。


 まさか……俺の負けなのか。

 全てはいつもの場所で落ち合うまでわからない。


 放課後になって、俺は桜咲が待ついつもの場所に向かった。

 正直負けても痛くも痒くも無い要求なので構わないが、負けという事実がなんとなく悔しい。

 桜咲はテスト結果の紙を持って余裕の面持ちで腕組みしながら待っていた。


「閑原くん。残念だけど私の勝ちは決まってるから」

「なんでさっきからそんな自信あるんだよ」


 今まで類を見ないくらいのドヤ顔にイラッとくる。


「とりあえず公園のベンチまで行こっか」


 少し歩いて、前に雨宿りした公園のベンチに座る。

 そして俺も鞄からテスト結果の紙を取り出した。


「じゃあ、せーのっ」


 桜咲のその合図でお互いの紙を見せ合う。

 そして……。


「「え……」」


 俺は、桜咲が余裕をかましてた意味がやっと分かった。


「現社100点なのってわたしだけじゃなかったの⁈」


 そう、彼女はどうやら100点を取ったのが自分だけだと勘違いしていたらしい。


「そりゃそうだろ。多分あの問題なら俺たち以外にも100点いたな」

「え、えぇー! じゃあ、まさか……」

「他の教科で俺に勝ったのは無い……な」

「わたしの……負け」

「まぁ、そうだな」

「むぅ……! ……じゃあ、はい。約束通りわたしの写真集」


 桜咲は写真集を鞄から取り出して俺に手渡すと、その場に崩れ落ちた。

 いや、そんなに落ち込まなくても。

 ……まぁ、勝負はどうあれ、毎日頑張ってたし褒めてあげないとな。


「桜咲、もうちょっとこっち寄れ」

「はぁ……なんでー?」


 テンションだだ下がりの桜咲は力なく俺との距離を詰める。

 真隣りに座った桜咲の髪に俺は手を伸ばした。


「桜咲。よく頑張ったな」

「……っっっ!」


 桜咲は何も言わずただ頭を撫でる俺の手に応じていた。

 リスみたいに頬を膨らませながら目で怒りを訴えてくる。

 なんで怒ってんだ。


「が、頑張ったんだからもっと!」

「やっぱわがままだな」

「うるさい! 閑原くんのば、バカっ」

「お前よりはバカじゃないことが証明されたのだが?」

「じゃ、じゃあえっと……閑原くんのへ、変態!」

「なぜ⁈」

「わ、わたしの写真集で絶対変なことしようとしてるし」

「いや違うし。その妄想してるお前の方が変態だろ」

「わたしは変態じゃないから! むぅ……! じゃあ、えっと……」


 桜咲はあたふたしながら俺の汚点を探しているようだった。

 暇人とか相応しいのは山ほどあると思うのだが。


「閑原くんの……甘やかし家さん」

「どういうことだよ」

「だって、すぐ甘やかすから……」

「じゃあ」


 俺は撫でていた手を止める。


「と、止めないでよ!」

「甘やかされたくないかと思って」

「い、いいから! 続けて……」


 再び撫で始める。

 すると、桜咲は嬉しそうにはにかんだ。


「本当に偉かった。仕事で忙しいのに毎日、勉強のために電話かけてきて。正直、すぐに飽きるかと思ってたけど、見直したよ」

「……そ、そう? わたし偉い?」

「あぁ。桜咲のそういう真面目さは尊敬する」

「……えへへ。なんか嬉しい」


 桜咲の機嫌もだいぶ良くなった。

 そして、いつもの桜咲に戻っていた。


 ✳︎✳︎


「ねぇ、さっきあげた写真集、ここで読んでよ」

「は? なんで?」

「閑原くんがどんな顔してわたしの写真集見るのか、わたし見たいし」

「……まぁ、別にいいけど」


 先ほど貰った写真集を開く。

 序盤は自然の中で遊び回る桜咲の姿が写真に収められていた。


「……ねぇ、もっとわかりやすい反応してよー」

「わかりやすい反応ってなんだよ」

「うわぁ、可愛すぎるー。とか」

「いや、普通に言わないだろ」

「言うもん! 絶対ファンのみんなは言ってくれてるし!」

「ファンの方々がどうかは知らんが、俺は目の前にいる桜咲菜子の方が自然体で可愛いと思うからな」

「……へ? あ、は、え⁈」


 森を抜け出し、今度は海沿いを散策する桜咲に変わった。

 水着姿で浜辺の上を走り回っている。


「お前って常にはしゃいでるけどもうちょっと落ち着いた写真無いのか?」

「あ、あるもん! ほら、最後の方の写真!」


 最後の方は街を歩いたり、買い物をする桜咲や、凄い近い距離での写真が多かった。


「ほらこれ、ガチ恋距離。わたしこの写真気に入ってるんだぁ」

「へぇ……」

「あ、ちょっとときめいた?」

「近づいて撮っただけだよな」

「そういうものなの!」


 読み終わったが、確かに写真はとても上手に撮れていたと思う。

 風景も綺麗だったし。


「閑原くん、せっかくわたしがあげたんだから毎日読んでね」

「毎日って」


「あ! それと、その……そんなにいつものわたしの方が可愛いと思うなら、じ、自撮りとか送ってあげてもいいけど」


 ……なんで?


「あぁ別にいいよ、大変そうだし」

「いいから! ……もう、閑原くんはむっつりなんだから」


 なんでそうなる。

 それからというもの、写真集を買えと言われなくなったが、その代わりに時々自撮りが送られてくるようになった。

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