第27話 JKアイドルさんとテスト結果01
「テストやめっ」
期末テスト、最後の教科は現代社会だった。
先生のテスト終了を告げる一言で、クラス中で緊張の糸が切れたのか、喝采が起こった。
その後、帰りのHRを終え俺はいつもの場所へ向かう。
今回は記入漏れやケアレスミスも、念入りにチェックしたから無かった筈だ。
あの場所へ向かいながらも、脳内ではテストがどうだったかで持ちきりだった。
「ひっまはらくんっ」
すると、誰かが背後から飛びついてくる。
まさか七海沢かと焦ったが、あいつは今日も部活だから違うはずだ。
だとしたら誰だ?
後ろを振り返ると、俺の背中に頭を擦り付けるサイドテールの女子がそこにいた。
「桜咲か」
「せいかーい! やぁっとテスト終わったね」
「だな。どうだテストの感触は?」
「めっちゃできたと思う! あんなに勉強したの初めてだったし、なんか余裕で解けすぎて逆に困惑しちゃった」
「なら良かったな」
桜咲は俺の隣に並んで歩き出す。
「閑原くん、ありがと。わたしに厳しくしてくれて」
「別に勉強教えてただけだが?」
「ううん。閑原くんのおかげだもん。わたしが脱線した時は厳しかったけど、勉強では、わたしが頑張れるように優しく教えてくれたし……何より閑原くんだったから、わたしも頑張れたというか」
それなら俺も教えた甲斐があったな。
「結果出るのが楽しみだな」
「うん!」
今日は桜咲がこの後ボイストレーニングがあるらしく、寄り道はしなかったが、お互いに学校内では顔を合わせて話すことは出来ないのでその時間だけでも意味があったような気がする。
「じゃあね、閑原くん」
「あぁ、頑張れよ」
いつもとは違う駅で俺と桜咲は別れた。
そして別れた後でメールがくる。
内容は「今夜電話してもいい?」という確認メールだった。
わざわざメールしてこなくても、帰りに聞いてくれればいいのに、と思いながらも『大丈夫だ』と返信した。
「あれ、航くん?」
駅から出ると買い物袋を両手に持った道子さんと鉢合わせる。
「道子さん、今日は早いね」
「金曜だから今日は早めに切り上げてきたの」
「そっか。あ、袋持つよ」
俺は道子さんからパンパンの買い物袋を受け取った。
「ありがと航くん。あ、今日は玉ねぎとひき肉あるからハンバーグがいいなぁ」
「ハンバーグ……また面倒な」
「チーズも入れてね」
「手間増やさないでよ」
道子さんは子供みたいに無邪気な笑顔を見せた。
結局晩飯はチーズinハンバーグを作らされたのだった。
✳︎✳︎
休日だというのに特にやることもなかったので本を読んで過ごした。
そして本に没頭しているうちに、いつの間にか日が暮れていた。
時間が経つのも早いな。
最近の俺は桜咲と出会って中身のある日々を過ごしすぎている。
ゲーセンでゲームして、牛丼食べて、散歩して、動物園行って、弁当食べて、谷中銀座で色々食べて……食べてばっかだな。
でも、あいつといると一人で暇を潰してた頃とは違って、俺自身も新しいことに気付かされているというか、新鮮な気持ちになれる。
「……でも今は暇だ」
ボーッと寝転んでいたら、スマホに電話がかかってきた。
『閑原くん、起きてたー?』
「……起きてないと次の日メールで不貞腐れるのはどこのどいつだ?」
『えへへ、それはそれとして。明日お昼の情報番組にわたし出演するから見てねー』
「お前、政治とか分かるのか?」
『そういうのアイドルに求められてないから! わたしが出るのは話題のコスメ紹介のコーナーっ』
「へぇ……。まぁ、どうせ暇だし見ておくよ」
明日の昼……日曜は昼に起きれる気がしないし、録画しておくか。
『あ、そうだ。閑原くんに一つ言いたいことあったんだけどさ』
「なんだよ言いたいことって」
『閑原くん、勝負しない?』
「え? 勝負?」
『来週の月曜日、テスト結果が分かるでしょ?』
「そうだな」
『もしそれでわたしが1教科でも閑原くんに勝ってたら、わたしのお願いなんでも一つ聞いて?』
「……お前、それは流石に無理だろ」
『もちろん! わたしが一つも勝てなかったら、わたしも閑原くんの言うことなんでも一つ聞くよ?』
「……それだけの覚悟があるってことは好感触の教科があるのか?」
『それはナイショ。で? 受けてくれる?』
きっと、家に帰ってから自己採点して絶対負けない自信のある教科があったのだろう。
もう結果を変えることは出来ないが、なんか熱い展開になってきたな。
「あぁ、受けてやる。だがひとつ条件がある」
『条件? いいよ』
「お互いに勝った場合にする《お願い》ってやつを予め提示する、これが条件だ」
『……分かった。じゃあ閑原くんから教えてよ』
桜咲にひとつお願いするとしたら、か……。
「写真集くれ」
『へ? な、なんで! わたしの、しゃ、写真集でな、なにを……っ!』
「いや、お前が買え買えってうるさいから。あれ高いし、いっそのことお前から貰えないかなって」
『3000円くらい買ってよー!』
「お前、高校生にとって3000円がどれくらい高価か分かってないだろ! とにかくこれが俺のお願いだ」
『……まぁ、わたしの写真集欲しいって言ってくれるのは嬉しいかも』
桜咲は写真集の話題が出た日から、ずっとメールの最後に『あ、わたしの写真集買ってくれた?』と必ず書いてくるので、俺としてはその重圧から逃れたいだけだった。
(これで勝てば、買う予定だった写真集の分、今月の小遣いが3000円浮く)
「で、お前のお願いってやつは?」
『……え、あ、その』
「俺だけ言わせておいて、自分は言わないっていうのは無しだぞ」
『……あ、頭を、その』
「頭?」
『頭撫でながら、いっぱい褒めて欲しい』
「……お前、本当にそれでいいのか? なんでも言うこと聞いてやるのに勿体無いだろ」
『どうせ閑原くんにはこの気持ち一生分かんないから!』
まぁ、桜咲がそれでいいなら別に文句は無いが。
『じゃあ勝負は月曜』
「写真集、持ってきておくんだな」
『絶対負けてないから』
桜咲の自信の裏にあるものとは一体何なのか。
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