異邦人

たまにゃん

第1話 幼少の記憶

 春。

 一面のシロツメクサ。

 ふわふわの淡いピンクのワンピースを着た1人の少女。

 少女は先週母親に教わったばかりのシロツメクサの花冠を作っていた。幼い小さな指を懸命に動かし、たどたどしく形を作っていく。

 もう少しで完成かという時に優しく温かい風が吹いた。

 ふわりとポニーテールが揺れ、少女はふと顔を上げる。

 そこには1人の少年の姿があった。

 年の頃は15~16歳。少し離れた場所で少女を優しく見つめていた。

「・・・誰? 妖精さん?」

 少女は少し前に幼稚園で見た絵本を思い出していた。少年の白い服が妖精のそれを思わせて、気付けばそう問いかけていた。

 少年は優しくクスリと笑った。

「違うよ。君のほうがよっぽど妖精みたいだ。」

 少年は愛おしそうに優しく微笑む。

「じゃあ・・・」

 少女が次の言葉を投げかけようとした時、遠くから声が聞こえた。

「百合亜ー、ホットケーキ焼けたわよー!」

 母親の声に少女は振り返った。

 そしてもう一度前を向いた時、既に少年の姿はなかった。

 またあの優しく温かい風が吹いた。

 ―――それは夢か幻か?

 幼い少女にはその概念さえなかった。

「百合亜ー!」

 再び母親の声がした。

「はーい、今行くー。」

 少女は立ち上がり、母親の待つ家に向かって走って行った。

 完成間近だった花冠が消えた事にも気付かないまま・・・。

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