闇の国
きてらい
闇の国
僕らは勇者とその仲間たちだ。魔王を倒しに行く旅をしている。
伝説によれば、魔王城に辿り着くには4つの国を順に通っていかなければならないらしい。
目の前には2つ目の国、『闇の国』が近づいていた。
「空模様が怪しいな、昼だってのに暗くなってきた」
「闇の国というだけはあるわね」
空を見ると暗暗としているからと言って、下を見てもまた草一本生えない荒野が続いているだけである。『闇の国』の入り口は、荒野のど真ん中に、どんと門が立っていた。
「『光の国』ではドラゴンを退治したよな」
「ああ、ありゃあ強かった」
「一体『闇の国』には何がいるのでしょう」
などと話している内に、門に辿り着いた。
門番が2人いる。
「俺たちは『勇者』だ。この国の王にもお目通りを願いたいんだが。門衛さん、『闇の国』の都はどっちに行けばいい」
「ここをまっすぐ先ですよ」
「分かった、ありがとう」
確かに、まっすぐ遠くの方に城塞の影が揺れていた。視界が悪く距離が分かりづらいが、しばらく歩けばたどり着ける距離だろう。
行きかけたところで、大事な質問を思い出した。
「そうだ、このあたりにはどんな魔物がいるんだ?」
土地によってその地に住んでいる魔物は違う。クセの強い魔物に初見であたると、レベル差があっても苦戦することがある。対策を立てる意味でその地に住んでいる魔物の知識は重要な情報だ。
門衛は答えた。
「闇の国には、魔物は一匹もいませんよ」
僕たちは、都に向かった。
都の町はそれなりに栄え、変わったことが起きていそうには感じなかった。
王城を目指し、途中の商店街を眺める。
レストランがあった。
「そろそろ昼食にするか?」
「いや、今は大して腹も空いていないな」
「私も」
僕たちは先に進んだ。
武器屋があったので入ってみた。
「ふーむ」
店の中には安物ソード、ノーマルソード、スーパーソードなどが掲げられている。
今使っている武器はスーパーソードだ。
「お前らは何か買いたい武器あるか?」
戦士は言った。
「ううむ、特には」
魔法使いは言った。
「私も特には」
僕たちはまっすぐ王城に向かった。
王城では王の御前に案内された。
深い皴の刻まれた顔の王が声を発する。
「おお、諸君らが『勇者』か」
王はその童顔を緩ませて「にぱっ」とでもいうような笑顔になった。
「よくぞ来てくれた!」
勇者は「ははーっ」と答えながら、内心で「こんな若々しい青年の王がこの国を治めているとは」と驚いていた。
王は艶めかしいその指を吊り上げて、そばにいる従者に指示を出した。
「あなたたちに渡したい物があるわ」
従者は「かしこまりました」と言って何かを取り出した。
取り出したのは、箱だった。
従者は以下のように口上を述べた。
「これは空の箱です」
従者は箱を開けて見せた。
「空っぽなので、開けても特に何もありません」
「しかし、絶対に開けないでください」
従者は箱を閉じた。
「持っていても特に何もありません」
「しかし、絶対に捨てないでください」
従者は勇者の前に歩み出た。
「捨てても特に何か起きる訳でもありませんが」
「どうか持っていてください」
従者は勇者に箱を差し出した。
勇者は箱を受け取った。
「勇者よ」
王は言った。
「お主の魔王征伐には期待しておるぞ」
かわいらしい女の子の声は、その台詞とはやや不釣り合いに感じられた。
勇者は王城を出て、来た道を戻った。
王都を出て、門に辿り着いた。
門衛が話しかける。
「勇者さま、魔王征伐頑張ってくださいね」
「おう」
門をくぐった。
勇者はふと振り返ったが、やはり何もない荒野が続いているだけだった。
戦士が「おい、何ぼーっとしてんだ?」と言う。
勇者はやや呆けた調子で言う。
「ええと、どこ目指してるんだっけ?」
「ばかやろ、次は『みどりの国』だよ」
「勇者さんしっかりしてくださいよ」
魔法使いにもたしなめられ、勇者は恥ずかし気に向き直った。
「ああ、ドラゴン退治で疲れてたのかもしれない」
「まあありゃ強かったがよ、まだ俺たちは1つの国しか通ってないんだぜ。こんなところで止まってる場合じゃないぞ」
「早く次の国を目指しましょう。魔王の城までにはまだ2つの国を通る必要があります」
そして僕たちは、魔王城に向けて先を急ぐことにした。
僕らは勇者とその仲間たちだ。僕らは魔王を倒しに行く旅をしている。
伝説によれば、魔王城に辿り着くには3つの国を順に通っていかなければならないらしい。
僕らの旅は、まだ始まったばかりだ。
いつの間にか持っていた箱は、気味が悪かったので開けずに捨てた。
この後勇者たちは無事魔王城に辿り着き、ついに魔王を倒したのだが、それはまた、別のお話。
闇の国 きてらい @Kiterai
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